75話 ネフェルナの真実(3)
いつも読んで頂きありがとうございます!
レオニルとグレイの親交はだいぶ深まった。もう何年も前から仲が良かったかのように感じられるほどだった。
ある日は沢のそばで果実を分け合った。
ある日は交易場で聞いた不穏な話を小声で教えられた。
またある日は、長兄として一族を守る重さを、グレイが当然のように理解した顔で聞いていた。
短い言葉を交わすだけの日も多かった。
それでも回数を重ねるうちに、レオニルの中の警戒は少しずつ薄れていった。
気づけば彼は、森の外へ出るたびに黒い外套を探すようになっていた。
そしてグレイもまた、最初からそこにいたみたいな顔で現れる。
得体の知れない男。
その印象は消えきらなかった。
だが同時にレオニルは、少なくともこの男は自分を害するためだけに近づいているわけではない、と信じ始めていた。
それが、何より大きな間違いだった。
その日、二人は森の外れの沢のそばにいた。
薄い霧が地を這い、枝葉の隙間から差す光が水面を揺らしている。
静かな場所だった。
だからこそ、グレイの声は異様にはっきり響いた。
「……日が決まった」
レオニルが顔を上げる。
「何の話だ」
グレイは沢を見たまま答えた。
「フェルナ村を襲う日だよ」
一瞬、空気が止まった。
レオニルの目が鋭くなる。
「……誰が」
「反対派だ」
グレイは静かに続ける。
「森を切り開きたい者たち。エルフを疎ましく思っている者たち。そしてネフェルナ一族を危険視している者たちだ」
「それだけでフェルナ村を襲えるわけがない」
「ああ。だから連中は、魔王軍と手を組んだ」
その一言で、レオニルの表情が変わった。
魔王軍。
それは森の外の争いとは比べものにならない、本物の脅威だった。
「確かなのか」
「確かだよ」
グレイの声音は低い。
いつもの曖昧さがなく、妙に真っ直ぐだった。
「反対派だけなら、君たちネフェルナ一族で押し返せるかもしれない。でも魔王軍が加わるなら話は別だ。奇襲で来られれば、村はばらばらに裂かれる」
レオニルは黙った。
脳裏に、フェルナ村の顔が浮かぶ。
父。母。ライナ。子どもたち。分家の者たち。
いつもの夕暮れ。祠。訓練場。
それが奇襲によって一瞬で壊される光景を、想像したくもないのに想像してしまう。
「いつだ」
掠れた声で、レオニルは聞いた。
「三日後の夜」
沢の水音だけが、しばらく流れた。
「……どうすればいい」
その問いは、ほとんど祈るようだった。
グレイは初めてレオニルを真っ直ぐ見た。
「散らばっていたら守れない」
その言葉は、静かで、冷たくもあった。
「村の家々に分かれていたら、一軒ずつ潰される。年寄りも子どもも、逃げる前にやられる」
レオニルの拳が強く握られる。
「だから同じ場所に集めるんだ」
グレイが言う。
「祠の前でも、広場でもいい。一族全員を一箇所に集めれば、守る側は動きやすい。誰が欠けているかも分かるし、奇襲されてもすぐに迎え撃てる」
レオニルの喉がわずかに動いた。
「……全員」
「ああ。直系も分家も、子どもも老人も」
グレイは続ける。
「僕も手を貸す」
レオニルの目が揺れる。
「君一人に背負わせるつもりはない。相手が反対派だけじゃなく魔王軍まで絡んでいるなら、なおさらだ」
その言葉は、ひどく頼もしく聞こえた。
長兄としての責任。
一族を守らなければならない重さ。
それを一人で抱えているレオニルにとって、「僕たちで守ろう」という言葉は、あまりにも強かった。
「この話は広げすぎない方がいい」
グレイが低く言う。
「下手に騒げば、反対派の耳に入るかもしれない。村に不安だけが広がって、混乱したところを狙われたら終わりだ」
レオニルは黙った。
父に話すべきか。
母に話すべきか。
けれど、伝え方を間違えれば皆を怯えさせるだけになる。
ライナにはなおさら背負わせたくなかった。
グレイはそんな迷いを見透かすように、静かに言った。
「君が決めることだ」
沢の流れが細く光る。
「でも、君は長兄だろう」
その一言が深く沈んだ。
「皆の安全のために動けるのは、たぶん君だけだ」
レオニルは目を閉じた。
守らなければならない。
フェルナ村を。
ネフェルナ一族を。
ライナを。
その思いが、疑いを少しずつ押し流していく。
やがて彼は、ゆっくりと目を開けた。
「……分かった」
声は低く重かった。
「俺が皆を集める」
その瞬間、グレイはほんのわずかに目を細めた。
「ありがとう」
柔らかな声だった。
レオニルはその時まだ、その礼が何に向けられたものなのかを理解していなかった。
活動日記にもありますが、pixivで急性の闇魔法に出てくる登場人物のイメージイラストをアップしています!
良かったら見てみて下さい!↓
https://www.pixiv.net/users/15442111




