70話 女神の実力
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ヴォルツは呆気に取られて冥澄の女神を見つめた。
「あいつらを2人にしてはダメだ。別々に戦わないと勝ち筋が見えない。」
ヴォルツはライゴウとゲンスイに怒鳴る。
「おい!役立たず!なんでも良いから時間を稼げ!」
ライゴウとゲンスイは恐る恐る冥澄の女神に立ち向かった。
「あいつはやべえぞゲンスイ。ヴォルツ様の魔法が打ち負けた。」
「今日がワシらの命日になるかもしれんのぉ。」
ライゴウが両腕を大きく広げた。
「赤雷鬼葬・雷獄断界」
次の瞬間、空が赤く染まった。
頭上に渦巻く雷雲は、まるで血を流すみたいに赤黒く明滅し、その奥で無数の雷光が牙を研ぐように唸っている。
ライゴウが鬼の咆哮を上げると、雷は一斉に落ちた。
一本ではない。
十、二十ではきかない赤雷が、空そのものを裂きながら冥澄の女神へ降り注ぐ。地面は着弾を待つ前からひび割れ、空気は焦げ、闘技場全体が巨大な雷獄に呑まれようとしていた。
同時にゲンスイも、皿の水を震わせながら両手を掲げた。
「蒼淵妖禍・溺界呪牢」
濁った大水が足元から噴き上がる。
ただの洪水ではない。水は生き物みたいに渦を巻き、何本もの濁流の腕となって絡み合いながら、巨大な牢獄の形を作っていく。
その水には、底なしの呪いが混ざっていた。
触れたものを重く沈め、息を奪い、意志ごと深みに引きずり込む呪われた淵そのもの。
赤雷が天から断罪のように落ち、蒼い濁流が地から墓標のようにせり上がる。
雷と濁流。
二人の黒翼将が誇る必殺技が、上と下から同時に冥澄の女神へ噛みついた。
――だが。
女神はただ静かに境界輪を掲げただけだった。
無彩の輪が、音もなく回る。
その一回転で、赤雷の軌道に細い円が走った。
次の瞬間、雷は落ちる前に線そのものを断たれ、無数の赤光となって空中でほどける。
さらに境界輪がわずかに傾く。
すると濁流の水牢は、呪いごと円形に切り抜かれた。渦巻いていた大水は支えを失い、巨獣の腹を裂かれたみたいに崩れ落ちる。
雷は雷であることを失い、
水は水であることを忘れる。
黒翼将の必殺技は、冥澄の女神の前で成立そのものを奪われ、ただの空しい光と水へ変わった。
そして次の瞬間。境界輪が、二人へ滑った。
ライゴウの赤雷鬼神の鎧が斜めに裂け、雷を撒き散らしながら砕ける。
ゲンスイの蒼淵河童を覆う水牢もまた、輪の軌道に沿って円形に抉られ、音もなく崩壊した。
遅れて衝撃が来る。
ドンッ!!
二人の黒翼将の身体はまとめて吹き飛び、瓦礫の山へ叩きつけられた。
冥澄の女神はなおも揺らがない。
雷獄も、呪牢も、その前では届くことすら許されなかった。
土煙の向こうから、ヴォルツが魔法のホウキで急降下してきた。
着地の勢いで瓦礫が跳ねる。ヴォルツは舌打ちしながら、倒れたライゴウとゲンスイを見下ろした。
「……おいおい、マジかよ。黒翼将二人がそろってこのザマか」
ライゴウは雷鎧を裂かれ、鬼の姿のまま荒い息を吐いている。ゲンスイも砕けた水牢の名残をまとったまま、まともに立ち上がれない。
ヴォルツは忌々しそうに髪をかき上げた。
「ちっ、今日はついてねえな。」
それでも口元にはまだ不敵な笑みが残っている。
ヴォルツは片腕でライゴウを乱暴に担ぎ、もう片方でゲンスイの襟首を掴んだ。二人とも不満げに唸ったが、逆らえる状態ではなかった。
そしてホウキにまたがる前に、ヴォルツはノクトたちを振り返る。
ノクト、エリシア、ライナ、ノエル。
そして倒れたレオニルと、解放されたセレフィナ。
ヴォルツの目が細くなる。
「覚えとけよ。俺にはお前たち2人の魔法をぶっ潰せる最終兵器がある。次はもっとデカい爆発を見せてやるからな。」
吐き捨てるように言って、ヴォルツはホウキに飛び乗った。
魔力が唸る。
魔法のホウキは一気に浮き上がり、そのまま空へ駆け上がった。
「逃がすか!」とエリシアが叫ぶ。だがエリシアの追撃は間に合わなかった。
ヴォルツは上空で一度だけ振り返り、喧嘩を楽しむような笑みを浮かべた。
「じゃあな、裏切り者。次に会うときは殺してやるよ。」
そのまま三人の影は小さくなり、やがて消えていった。。
あとに残ったのは、砕けたリング、濁流の残骸、焦げた空気、そしてようやく訪れた重い静けさだけだった。
ぜひ次回も読んで頂ければ幸いです。




