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救世の闇魔法――魔王の子と光の王女――  作者: 藤原 光希
ネフェルナ一族のライナ編

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69話 ヴォルツと冥澄の女神

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よろしくお願いします。

 ヴァルツは常に余裕のある笑みを浮かべていた。


「暇つぶしに来てみたらなんというザマだ!年寄りの鬼と河童じゃ勝てませんってか?まぁ相手はノクトだ。それも仕方がないか。


 あいつはな、自分の父を殺した挙句に自分を育ててくれた恩師まで殺すクソ野郎。俺が成敗してやるよ。お前のせいで魔王軍はめちゃくちゃだ!」


 ヴォルツがノクトへ一直線に突っ込む。そして地面に掌を叩きつけた瞬間、足元から爆発の輪が一気に走った。


爆界裂掌バッカイレッショウ


 赤い閃光と轟音がリングを裂き、ノクトごと周囲をまとめて吹き飛ばそうとした。ノクトは攻撃を避けきれずに吹き飛んだ。


「さすが六魔星だな。最近戦ってきた奴らとは訳が違う。」


「当たり前だろ?そこらへんの奴らと一緒にされちゃあ困る。


なぁ、ノクト。どうして魔王軍の敵になる。お前はどうして、自分の父でもある魔王様を殺してしまったんだ?ゼルク様もご立腹だ。捕まれば殺してすら貰えないだろうな。一生拷問地獄だ。」


「そんなこと分かってる。でも俺が父を殺したことは、この世界にとってきっと必要なことだったんだ。」


「どうしてそんな親不孝が許されたっていうんだ?」


「この世界から理不尽な暴力をなくすためだ。」


ヴォルツはノクトの発言を聞いて声を高らかに笑った。


「何を言い出すかと思えば綺麗事かよ。何が理不尽な暴力をなくすだ。そんなもの仮に魔王軍がなくなったってなくならねぇよ。

なぁノクト。魔王軍ができる前から暴力に嘆く人はたくさんいたんだ。お前だってそれくらい分かるだろう?俺は幼いときに両親を殺された。でも俺の両親を殺したのは魔王軍じゃない。

もともとこの世の中は暴力で支配されていたんだ。この世界はハナから腐ってんだよ。だからこそ俺たち魔王軍が更なる暴力で、この腐った世界を制圧する必要があるんだ。暴力を抑えれるのは暴力しかないんだよ。お前が1番に知ってるはずじゃないかノクト。」


「そんなこと分かっている。それでも俺は自分が見えているところから変えていきたいんだ。確かにこの世界から暴力はなくならない。それでも俺のいる身近な場所から少しずつ暴力を減らすことはできる。」


「綺麗事野郎とは話になんねーや。なら俺のことを止めてみろよ。」


「随分と生意気な年下だ。」


 ノクトはエリシアの側に寄った。そして彼女の手を握る。


「エリシア。行くぞ。」


「ええ。」


ノクトとエリシアは呼吸を合わせる。光と闇のマナが呼応しあう。そして新たなるマナが生まれる。冥澄。それは生と死、光と闇、存在と無。この世界で相反しあう二つのものの境目から湧き出てくる異次元のマナ。それはまるで世界の法則を一拍ずらす属性。


冥澄神降メイチョウシンコウ無涯女神顕現ムガイメガミケンゲン


 ノクトとエリシアの足元に、白と黒の魔法陣が重なる。だが二つは混ざらない。ただ静かに重なり合い、色を失って無彩の深さだけが残った。


 次の瞬間、世界が一拍だけ遅れる。音が遠のき、影が消え、空間の中心から何かが立ち上がった。


 それが冥澄の女神。輪郭はぼんやりと曖昧なのに、存在だけは絶対だった。顔も形も定かではない。しかし見た者は本能で理解する。これはこの世の境界そのものを支配する者だと。


 ヴォルツも思わず息を呑む。そして本能でこれはやばいと理解した。おそらくヴァルグランはこの魔法で死んだはずだ。ヴォルツは今までに感じたことがないような魔力を感じで心底、恐ろしさを抱いていたのだった。


 


 冥澄の女神が、静かに指先を上げる。すると虚空が薄く裂け、そこから一つの輪が現れた。

 白でも黒でもない。無彩の澄んだ深さを宿した境界輪だった。光を反射せず、影も落とさないその輪は、ただそこにあるだけで、周囲の空間ごと静かに震わせていた。


 境界輪。冥澄の女神はそれを持ってゆっくりとヴォルツに近づく。


 ヴォルツの顔から笑みが消えた。指先に灯っていた小さな火花が、一瞬で消える。代わりに、空そのものが赤く脈打ち始めた。


爆獄崩星バクゴクホウセイ天墜終界テンツイシュウカイ


 低い詠唱とともに、頭上に巨大な灼熱の球が生まれる。


 それは炎ではなかった。爆発そのものを、無理やり星の形に押し固めたような塊だった。赤黒い光を脈打たせながら膨張し、膨張するたびに周囲の空気をきしませる。


 ヴォルツが口元をゆがめる。


「全部まとめて消し飛ばしてやるよ。」


 次の瞬間。崩れた星が、落ちた。


 轟音すら置き去りにする速度で、灼熱の終末がノクトたちへ迫る。触れる前から地面が爆ぜ、空間がゆがむ。落下の軌道にあるものすべてが、爆発する未来に書き換えられていく。


 だが――


 冥澄の女神は、動じなかった。


 曖昧な輪郭のまま、静かに指先を上げる。

 その手に浮かぶ境界輪が、音もなく回転を始めた。


 白でも黒でもない。無彩の深さを湛えた輪は、光を返さず、影すら生まない。回るたびに周囲の色が薄れ、空間の境目だけが剥き出しになっていく。


 女神がその輪を前へ滑らせた。


「――」


 声はない。だが宣告だけが世界の底へ落ちた。


 境界輪は、落ちてくる爆獄崩星へ真っ直ぐ進む。ぶつかった、ようには見えなかった。


 ただ、輪が星に触れた瞬間――


灼熱の巨塊の中心に、細い円が走った。


 次の瞬間、その円は内側へ深く沈み込む。


爆発の核。

 

崩星の成立。

 

終界の因果。


 それら全部を、境界輪が静かに切り抜いていく。


 ヴォルツの目が見開かれた。


「な――」


 赤黒い星が爆ぜない。


 代わりに、円形に抉られた断面から、光でも闇でもない無彩の深みが覗く。爆発は起きる前に意味を失い、灼熱は熱であることを忘れ、崩れ落ちるはずだった終末が、輪の軌道に沿って静かに分解されていく。


 ドォ……ッ、と遅れて空気だけが揺れた。


 巨大な爆獄崩星は、境界輪に触れた部分から丸ごと切り離され、そのまま空中でほどけるように消滅した。


 残ったのは赤い火の粉ですらない。爆発が存在したはずの空白だけだった。


 ヴォルツの最強魔法――

 爆獄崩星・天墜終界は、正面から、完全に打ち破られたのだ。

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