↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王殺しノクト  作者: 藤原 光希
ネフェルナ一族のライナ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/139

69話 理不尽な暴力

ブックマーク登録して頂ければ嬉しいです!


よろしくお願いします。

 ヴォルツは、常に余裕のある笑みを浮かべていた。


 目の前にノクトがいても、恐れている様子はない。むしろ、久しぶりに面白い相手を見つけたような顔だった。


「暇つぶしに来てみたら、なんというザマだ」


 ヴォルツはライゴウとゲンスイを見て、鼻で笑った。


「年寄りの鬼と河童じゃ勝てませんってか?まぁ、相手はノクトだ。それも仕方ねぇか」


 それから、ヴォルツはノクトへ視線を向けた。


「あいつはな、自分の父親を殺したうえに、自分を育ててくれた恩師まで殺したクソ野郎だ」


 ヴォルツの笑みが、少しだけ鋭くなる。


「俺が成敗してやるよ。お前のせいで、魔王軍はめちゃくちゃだ!」


 次の瞬間、ヴォルツが一直線にノクトへ突っ込んだ。


 速い。


 ヴォルツは地面に掌を叩きつける。


「爆界裂掌(ばっかいれっしょう)!」


 足元から、爆発の輪が一気に走った。


 赤い閃光と轟音がリングを裂き、ノクトごと周囲を吹き飛ばそうとする。


「くっ……!」


 ノクトは避けきれず、爆風に飲まれて吹き飛ばされた。


 地面を転がりながらも、すぐに立ち上がる。


「さすが六魔星だな。最近戦ってきた奴らとは訳が違う」


 ヴォルツは楽しそうに笑った。


「当たり前だろ?そこらへんの奴らと一緒にされちゃ困る」


 ヴォルツは指先で火花を散らしながら、ノクトを見る。


「なぁ、ノクト。どうして魔王軍の敵になる?」


「……」


「お前はどうして、自分の父でもある魔王様を殺したんだ?ゼルク様もご立腹だぞ。捕まれば、殺してすらもらえないだろうな。一生拷問地獄だ」


「そんなことは分かってる」


 ノクトは杖を握り直した。


「でも、俺が父さんを殺したことは、この世界にとって必要なことだったんだ」


 ヴォルツの眉が動く。


「どうしてそんな親不孝が許されるっていうんだ?」


「この世界から、理不尽な暴力を減らすためだ」


 一瞬、空気が止まった。


 次の瞬間、ヴォルツは腹を抱えるように笑い出した。


「はははははっ!」


 その笑い声は、闘技場に響き渡った。


「何を言い出すかと思えば、綺麗事かよ。理不尽な暴力をなくす? そんなもの、魔王軍がなくなったって消えねぇよ」


 ヴォルツの目が、わずかに暗くなる。


「なぁ、ノクト。魔王軍ができる前から、暴力に泣いていた奴らはたくさんいたんだ。お前だって、それくらい分かるだろ?」


 ノクトは黙って聞いていた。


「俺は幼い頃に両親を殺された。でも、俺の両親を殺したのは魔王軍じゃない」


 ヴォルツの声が低くなる。


「もともとこの世界は、暴力で支配されていたんだ。最初から腐ってるんだよ」


 ヴォルツは両手を広げた。


「だからこそ、俺たち魔王軍がもっと強い暴力で、この腐った世界を押さえつける必要がある。暴力を止められるのは、暴力だけだ」


 そして、ノクトを睨む。


「お前が一番分かってるはずじゃないか。ノクト」


「……分かってる」


 ノクトは小さく呟いた。


「この世界から暴力が全部なくならないことくらい、俺だって分かってる」


 ノクトは顔を上げる。


「それでも、俺は自分の見えている場所から変えていきたいんだ」


「何?」


「世界中すべてを一気に救うなんて、俺にはできない。でも、俺の近くにいる人たちを守ることはできる。目の前の理不尽を止めることはできる」


 ノクトの声に迷いはなかった。


「そうやって少しずつ、悲しむ人を減らしていきたいんだ」


 ヴォルツは顔をしかめた。


「綺麗事野郎とは話にならねぇな」


 ヴォルツの全身から爆発のマナがあふれる。


「なら、俺を止めてみろよ」


「随分と生意気な年下だな」


 ノクトはエリシアのそばへ寄った。


 そして、彼女の手を握る。


「エリシア。行くぞ」


「ええ」


 二人は呼吸を合わせる。


 ノクトの闇と、エリシアの光が重なっていく。


 完全に混ざるわけではない。


 ただ、二つの力が同じ場所で響き合う。


 光でも闇でもない、新しいマナが生まれる。


 冥澄。


 生と死。


 光と闇。


 存在と無。


 相反するものの境目から生まれる、不思議なマナだった。


「冥澄神降(めいちょうしんこう)・無涯女神顕現(むがいめがみけんげん)!」


 ノクトとエリシアの足元に、白と黒の魔法陣が重なった。


 次の瞬間、世界が一瞬だけ静かになる。


 音が遠のく。


 影が薄れる。


 空間の中心から、何かが立ち上がった。


 冥澄の女神。


 その輪郭ははっきりしない。顔も形も分からない。


 それなのに、そこにいるだけで分かる。


 この存在は、ただの魔法ではない。


 世界の境目に立つものだ。


 ヴォルツの笑みが消えた。


 指先に灯っていた火花も、一瞬だけ弱まる。


「……これが、ヴァルグランを殺した魔法か」


 ヴォルツは本能で理解した。


 これは危険だ。


 今まで感じたことのないマナだった。


 冥澄の女神が、静かに指先を上げる。


 虚空が薄く裂け、そこから一つの輪が現れた。


 境界輪(きょうかいりん)。


 白でも黒でもない、無彩の輪だった。


 光を返さず、影も落とさない。


 ただそこにあるだけで、周りの空間が静かに震えていた。


 冥澄の女神は、その境界輪(きょうかいりん)を手に、ゆっくりとヴォルツへ近づいていく。


 ヴォルツの顔から、完全に笑みが消えた。


 代わりに、空そのものが赤く脈打ち始める。


「爆獄崩星(ばくごくほうせい)・天墜終界(てんついしゅうかい)!」


 低い詠唱とともに、頭上に巨大な灼熱の球が生まれた。


 それは炎ではない。


 爆発そのものを、無理やり星の形に押し固めたような塊だった。


 赤黒い光を脈打たせながら大きくなり、周囲の空気をきしませる。


 ヴォルツが口元をゆがめた。


「全部まとめて消し飛ばしてやるよ」


 次の瞬間、崩れた星が落ちた。


 轟音とともに、灼熱の終末がノクトたちへ迫る。


 触れる前から地面が爆ぜる。


 空気が歪む。


 落下の先にあるものすべてを、爆発で消し飛ばそうとしていた。


 だが、冥澄の女神は動じなかった。


 曖昧な輪郭のまま、静かに境界輪(きょうかいりん)を掲げる。


 輪が音もなく回り始めた。


 白でも黒でもない輪は、回るたびに周囲の色を薄めていく。


 女神が、その輪を前へ滑らせた。


 境界輪(きょうかいりん)は、落ちてくる爆獄崩星(ばくごくほうせい)へまっすぐ進む。


 ぶつかったようには見えなかった。


 ただ、輪が星に触れた瞬間。


 灼熱の巨塊の中心に、細い円が走った。


 その円は、ゆっくりと内側へ沈み込んでいく。


 爆発の核。


 星の形を保っていた力。


 すべてを消し飛ばすはずだった魔法の中心。


 それらを、境界輪(きょうかいりん)が静かに切り抜いていった。


 ヴォルツの目が見開かれる。


「なっ……」


 赤黒い星は爆ぜなかった。


 爆発は起きる前に力を失う。


 灼熱は熱であることを忘れたように薄れていく。


 落ちてくるはずだった終末が、境界輪(きょうかいりん)の軌道に沿って分解されていく。


 遅れて、空気だけが大きく揺れた。


 巨大な爆獄崩星(ばくごくほうせい)は、境界輪(きょうかいりん)に触れた部分からほどけるように消えていった。


 残ったのは、赤い火の粉ですらない。


 そこには、爆発があったはずの空白だけが残っていた。


 ヴォルツの最強魔法。


 爆獄崩星(ばくごくほうせい)・天墜終界(てんついしゅうかい)。


 それは、冥澄の女神によって正面から打ち破られた。

今回もありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。