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救世の闇魔法  作者: なまけもの先生
冒険の始まり編
6/40

6話 出発の前夜

 湯気が夜空に溶けていく。香草と肉の香りが混ざり合い、冷えた風の中に小さな幸福を生み出した。


「はい、できましたよ。」


 ゼルマンが鍋を置くと、ライナが嬉しそうに手を合わせた。


 「いただきますっ!」


ノクトは無言で一口食べ、目を細めた。

「……やっぱり美味しい。」


 彼らは黙々と夕食を食べていた。すると突然なミレオが口を開いた。


「ゼルマン。僕やっぱりヴェルノア学園が気になるや。一回だけでも見に行きたい。」


「王子。それは難しいに違いありません。きっとヴェルノア学園も魔王軍に占領されているはずです。」


「じゃあヴェルノアの優秀な生徒たちはどうなってしまったの?あそこにはパパよりも強い優秀な先生もたくさんいた!きっと大丈夫だよ!」


「王子‥‥‥」



 一瞬、静かな間が生まれた。


「あの‥‥ヴェルノア学園って何なんですか?」とライナが気まずそうに尋ねる。


 

 ゼルマンは一度火を見つめ、静かに言葉を選んだ。


「……ヴェルノア学園は、故バルザック・バルネス王が建てられた魔法学校です。


 陛下は、この国の未来は教育にこそあると信じておられました。そのために国費の多くを投じて、貧しい者にも学びの門を開かれたのです。」


「本当に凄い王様だったんですね。」とノクトが呟く。


「ええ。」ゼルマンは静かに頷いた。


「学園には、王国中から優秀な子どもたちが集められました。


 ヴェルノアでは魔法だけでなく、歴史や哲学、剣術までも教えられていたんです。


 陛下は強さとは力ではなく、知恵と心の在り方だ。と常に仰っていましたからね。」


「すごい!そんな学校、アタシも行ってみたかったな!」


「あなたのような方なら、きっと歓迎されたでしょう。」


「えっ、あたしが⁉︎」ライナが目を丸くする。


ゼルマンはわずかに笑みを見せた。


「はい。あの学園には、強さの中に優しさを持つ者が多かったんです。


 ……ミレオ様の父上も、まさしくそういう方でした。」


 その声には、深い哀しみと誇りが混じっていた。焚き火の炎が一瞬大きく揺れ、ゼルマンの横顔を照らす。


「僕、ヴェルノアに行きたい!パパは国の未来をあそこに託していたんだ!


いつもヴェルノアは国の未来だって言ってたもん。だから僕は今のヴェルノアを見に行きたい!」


「そうはいっても魔王軍の拠点になっているという噂もありますし‥‥」


「ゼルマンさん!ヴェルノアに行ってみましょう!アタシとノクトが先頭になって行けば、きっと何とかなりますよ!ね、ノクト⁉︎」


「あ、あぁ‥‥‥」


「パパはヴェルノア学園をとても大事にしていたんだ。この国の宝だっていつも口にしてた。


だから僕は今のヴェルノアがどんな姿なのかを見てみたいんだ!」


「よし!ミレオの気持ちはアタシの胸にビシッと伝わってきたよ!行こう!


ノクト!明日ヴェルノア学園に行くよ!王様の想いが詰まってる場所に行けば、きっと何か良いことがあるように思うの!


アタシの勘は凄いんだから!安心して!」


「ライナの勘ってやつを信じてみるとするか。」


ノクトは苦笑いはしつつもライナの案に了解をした。



「もしヴェルノアが魔王軍に占領されていたら、私たちの身に危険が生じます。もし王子の身に何かあれば‥‥‥」


「ゼルマン!ちょっとは僕のことを信用してよ!ノクトさん、ライナさんに稽古をつけて貰って凄く強くなったんだ!


もう火属性の魔法だって使える!だから大丈夫だよ!」


「ですが‥‥」


「ゼルマンさん!アタシもそこそこ強いですけど、ノクトはアタシが見てきた人の中でも一番に強い!」


「それは確かにそうかもしれませんが‥‥」


「ゼルマンさん。もしものときは俺とライナが戦うので、ゼルマンさんはミレオくんを連れて避難して下さい。


二人が避難するための時間稼ぎくらいなら俺たちで充分にできるので。」


「分かりました。お二人のことを信じましょう。」


「やったぁ!」とミレオが喜んだ。


 

その夜。ノクトは寝付けなかったので、建物の外に出て星を眺めていた。



星空は綺麗だった。まさかこんなにも美しい星空の下で、大勢の人々が絶望と不安に襲われているだなんて‥‥



 どうしてこの世界は、こんなにも美しく残酷なのか。もしザルベックの占領が六魔星によるものだとしたら?そのとき自分は魔法も使わないで、彼らを助けることができるのだろうか?



 魔王軍には自分よりも強い者が大勢いる。いったい魔王軍のどのクラスが、このザルベックを占領しているのだろうか。


 ノクトが考え事をしていると、ふとゼルマンも外に出てきた。


「こんな遅い時間に考え事ですか。」


「ええ。ちょっと久しぶりに強敵と戦闘になるかもしれないから、緊張してしまって。」


「大丈夫ですよ。ノクトさんの剣の太刀筋は本物です。私が見てきた剣士の中でも一位、二位を争うくらいです。


 あなたほど強い剣士を見たのは、もう何年も前のことです。ヴェルノア学園に勇者ルシエルとその妹君のエリシア様がご指導に来て頂いたことがありまして。


 まだそのときミレオは小さかったんですけどね。あなたの剣術を見ると、あの二人を思い出しましたよ。」



 勇者ルシエルとエリシア‥‥自分もその二人と戦ったことがある。彼らは強い。特に兄の方は自分よりも遥かに強い。


 ルシエルはもうこの世にいないが、エリシアはきっと魔王軍を滅ぼすために目の色を変えていることだろう。


 この世界の英雄の言われた彼女の父と兄は、自分の父と兄に殺されたんだから‥‥‥


 

 ノクトが考え事をしていると、ゼルマンがふと静寂を破った。


 「私はいつもバルザック王の側にいました。自慢ではないですが、私は常日頃から誰よりも王の身近にいたんです。


 しかしあの日は違いました。突如、魔王軍がザルベック城を攻めてきた。王も強い魔法使いでしたし、城を警備する魔法使い達も強い者ばかりでした。


 この国の兵力は決して弱くなかったのです。ですが魔王軍の力は圧倒的でした。誰の魔法も通用しませんでした。それほどにも力の差があったのです。


 そして王は私にミレオ様と共に城を出ることを命じられました。私は今でもあの日のことを夢に見ます。

まさか常日頃からずっと王と一緒にいた私が、王の死に際だけ王から離れてしまうとは‥‥


 王は最後まで戦いを諦めていなかった。だから私も最後まで王と戦いたかったんです。まさか私が生き残ってしまうだなんて‥‥


 どんな手を使ってでも私は王を守りたかった。でもそれができなかったんです。」

 

 ゼルマンの涙は静かに頬を流れていた。

「私は自分の命に代えても王の形見であるミレオ様を守りたいんです。それが亡き王との約束ですからね。」


「ゼルマンさん。大丈夫です。俺がこの国を変えてみせます。この国を魔王軍から取り返して見せます。そうすれば王権はミレオくんに移りますからね。俺たちを信じて下さい。」


「ええ。もちろん信じてますよ。」


 二人が眺める夜空にふと流れ星が横断した。ノクトとゼルマンは各々の希望を、空を渡る星々に託したのだった。


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