49話 エルVSライナ
最近寒いので風邪ひかないようにしましょうね^_^
ライナの体からぱきっと音がした。それは骨が鳴った音ではない。肉体の形が割れた音だった。
ライナの輪郭が焔に置き換わる。肌は光へ、血は火へ。白い雨が触れた瞬間、じゅ、と音も立てずに消え――周囲だけ乾いた熱が立ち上った。
「……っ!」
暁の者たちが息を呑む。そこに立っているのは人じゃない。人型の紅蓮だった。
ライナは一歩、踏み込む。足が地面を蹴る動きじゃない。焔が跳ねるみたいに距離を詰める。
《バル=ガノス》の足首へ――狙いは関節。紅蓮の拳が触れた瞬間、岩肌が黒く乾いて、ひび割れた。燃えているのは表面じゃない。内部の水分と魔力の循環が焼かれている。
全身が炎と化したライナは白い雨の影響を全く受けなかった。バサルトにとってそれは非常に不利な状況だった。何発も何発もライナは攻撃を繰り返す。すると白い雨によって弱体化しているゴーレムら崩れ落ちた。
「リュカ!風で飛ばして!」
リュカは風でゴーレムの残骸を粉々に飛ばした。もうこれでゴーレムは元に戻らない。ライナはバサルトに近づく。彼らは近距離戦を繰り広げるが、その土俵ではライナの方が上手だった。そしてとうとうライナの攻撃がバサルトを直撃する。ふっとんだバサルトに更なる殴打の連続でバサルトは気を失った。そしてライナがとどめの一撃を振り上げると、目の前からバサルトが消えた。
「まさかヴァイスさんの魔法を蒸発させちゃうなんて。なかなか凄いですね。さすがノクトさんの連れなだけあります。」
エルは気絶したバサルトを魔王軍兵士に託した。そしてライナたちを見る。
「僕の魔力もこの奇妙な雨のせいで弱まっています。でもあなた達を殺すくらいなら簡単です。
バサルトを倒せても僕は倒せませんよ。彼とはレベルが違いますからね。なんなら僕は自分が六魔星くらい強いって思ってますから。」
エルが魔法を唱える。まずは風階剣の第一段階目を唱えた。そしてライナに接近する。ライナは体を斬られたが、炎と化していたので刀は炎をすり抜けた。
「便利な魔法ですね。でも次は火だって切りますよ。
風階・参《烈風》」
途端にリュカが叫んだ。
「ライナ!感覚の目だ!」
ライナはリュカとの練習を思い出す。
ライナは息を吸った。
胸の奥――熱の核がひゅ、と細くなる。炎の輪郭が一瞬だけ収束し、世界の輪郭が逆に膨らんだ気がした。
音が遅れて届く。光が薄くなる。空気の流れだけが、やけに正確に見えた。
(――来る)
“感覚の目”。
視界じゃない。皮膚じゃない。心臓の鼓動でもない。風が次にどこを叩くか、空気がどこで裂けるか、その「前兆」を拾う目。
エルの足元で、砂埃がほんの僅かに巻き上がった。それは踏み込みの圧じゃない。――風が、剣に集まった証だった。
「……っ」
ライナは身体を捻る。捻ったというより、焔の形をずらした。
次の瞬間、エルの斬撃が通った。通ったのに、斬れた感覚がない。――いや、違う。
ライナの炎の表面が、線のように切り取られた。焔が割れ、薄い火片が宙を舞い、すぐに消える。
エルが微笑む。無邪気な顔のまま、冷たい目をしていた。
「避けましたね。ちゃんと見えてるんですね。じゃあ――もう少し速くしましょうか」
剣が鳴った。金属の音じゃない。風の音でもない。
“空気が切断される音”。
「風階・肆《疾風》」
世界が、斜めに滑った。
エルの姿が消える。
消えたのではない。結果だけが先に来るようだった。
ライナの肩口を、風が撫でた。触れた瞬間、そこだけ温度が奪われ、焔が薄くなる。
(やば――)
ライナは踏み込む。焔が跳ねる。狙いは首――じゃない。エルの“間合い”そのもの。
だが攻撃は当たらない。エルはそこにいる。いるのに拳が届く前に位置が変わる。風が距離を折り畳んでいる。
「どうです僕の剣は。剣が速いんじゃない。僕が風の通り道そのものなんです」
エルの剣が振れる。
一閃。二閃。三閃。
それぞれが違う角度から来た。違う角度、違う速度、違う風圧。
ライナは全部を“感覚の目”で拾い、炎の形を削りながらずらす。けれど――削られる量が増えていく。
炎の体は斬れない。だが、炎の密度は削れる。薄くされれば戻るのに時間がいる。
(このまま削り切られたら……)
「ライナ!」
リュカの声が飛ぶ。だがライナは答えない。答える余裕がなかった。
エルがまた唱える。
「風階・伍《颶風》」
渦が生まれた。剣の周りだけじゃない。エルの周囲十歩が、全部刃になる。渦巻く風の粒が、無数の見えない刃となって、ライナの火を刻んだ。
(逃げたら、追い切られる)
ライナは逆に前へ出た。
渦の中心へ――エルの足元へ。
「……っ、正面から? 面白いですね。」
エルが目を細める。剣を低く構えた。次は一点突破――剣を振るって火ごと断つつもりだ。
その瞬間。
ライナの中でひとつの感覚だけが、異様に強く鳴った。
――風が、いま止まる。
止まるのは一瞬。
だが風が止まる瞬間には、必ず溜めがある。
(そこだ!)
ライナは炎を圧縮した。爆発じゃない。砲弾みたいに、拳へ収める。
紅蓮の拳が、熱を飲み込んで黒い芯を作る。
焔の色が一段深くなる。
「紅蓮爆装――」
肩から腕、腕から拳へ。炎の鎧がきゅっと締まった。
「――灼魂連砕!」
一撃目。
拳が渦へ突っ込む。風の刃が拳を刻む前に、熱が刃の発生点を焼いた。
渦が薄くなる。
二撃目。
エルの剣が動く。
その溜めが見える。感覚の目が拾う。
ライナは拳の角度を変え、風の通り道へ拳を差し込む。
風が拳に当たった瞬間にじゅっと音もなく蒸発する。
三撃目。
エルの瞳が僅かに揺れた。
「……へえ」
四撃目。
拳がついにエルの胸元へ届く――
届く直前、エルが微笑んだ。
「惜しい。次は、火を割りますよ。」
エルが囁く。
「風階・参――『斬界烈風』」
エルが踏み込んだ瞬間、空気が一枚裂けた。見えない刃が走り、遅れて烈風が爆ぜる。斬った軌跡だけ、風が唸りながら残った。
空間が裂けた。
風が刃じゃない。境界そのものが切断線になる。炎の体でも避けられない切り分ける魔法。
ライナの右腕が、ふっと軽くなった。
――落ちた。
炎の腕が、肘の先から切り離され宙に浮く。
痛みはない。でも、熱の循環が途切れた感覚がある。
「ライナっ!!」
リュカが叫ぶ。しかしライナは、目を逸らさなかった。
(切られたなら――繋ぎ直すだけ)
焔が、きゅっと鳴った。腕の断面から火が噴き、落ちた炎の腕を引き戻すみたいに、熱が縫い合わせる。
炎の腕が戻る。形が戻る。密度も戻る。
ただし――戻るまでの刹那、確かに隙が生まれた。
エルはその隙を、絶対に逃さない。
「――終わりですよ。」
エルの剣が上がる。次の一撃は、胴を割る。
ライナの感覚の目が、世界の最短の死を映した。
(間に合わない)
その時リュカが風魔法でライナを吹き飛ばした。そのためにライナは致命傷は免れたが大きなダメージを受けることにはなった。すぐに起き上がることもできなかったので、リュカはライナを担ぐ、側で魔物と戦っていたミレイユもいったん戦闘を切り上げてリュカのサポートをした。
「向こうの壁までライナを運ばないと!このままだと死んじゃう!」
ライナは「アタシは大丈夫だから逃げて。」と呟いた。
「そんなことできないよ!大丈夫!僕の速さなら間に合うから!」
リュカが風魔法を発動して二つ目の壁まで行こうとした瞬間に、エルは容赦なくリュカの体を切り刻んだのだった。
今日もありがとうございました!




