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魔王殺しノクト(旧救世の闇魔法)  作者: 藤原 光希
ベルナール革命編

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42/102

42話 守りたい未来

2章もとうとう最後に近づいていきます!ぜひ楽しんで行ってください!

 革命の日まで、ライナはリュカと行動を共にした。


 二人は朝から森へ向かい、日が暮れるまで修行を続ける。


 最初は九歳の子どもに教わることを少し不思議に感じていたライナだったが、今ではリュカの言葉を素直に聞くようになっていた。


 修行が終われば一緒に食事をして、帰り道ではくだらない話をする。


 短い間に、二人はすっかり仲良くなっていた。


「今日も厳しくいくからね」


「望むところだよ!」


 ライナが両拳を打ち合わせる。


 目標は、エル=シェイドの高速剣術に反応できるようになること。


 目で追えない攻撃なら、目以外で感じ取るしかない。


 完全な暗闇。


 ライナの目には厚い布が巻かれている。


 さらに耳まで塞がれ、周囲の音もほとんど聞こえなかった。


 視界も聴覚も奪われた状態。


 頼れるのは、肌に触れる空気だけだった。


 少し離れた場所で、リュカが小石を握る。


「行くよ」


 小石が投げられた。


 風切り音は聞こえない。


 どこから来るのかも分からない。


(……どこ?)


 ライナは神経を全身へ集中させる。


 次の瞬間。


 頬をわずかな冷気がかすめた。


「そこ!」


 反射的に拳を振るう。


 だが拳は空を切った。


 直後、小石が肩へ当たる。


「痛っ!」


 ライナが目隠しの下で顔をしかめた。


「惜しいね」


 リュカが言う。


「でも、まだ頭で考えてる」


「考えちゃ駄目なの?」


「考えてから動いてたら、エルの剣には間に合わないよ」


 リュカは新しい小石を拾った。


「もっと体に任せるんだ。風を感じた瞬間には、もう拳が動いてるくらいじゃないと」


「難しいこと言うね……」


「簡単だったら修行にならないだろ?」


「相変わらず厳しいなぁ」


 二度目。


 小石はライナの腕へ当たった。


 三度目。


 拳は小石のすぐ横を通り過ぎる。


 そして四度目。


 肌を撫でた空気に、ライナの体が反応した。


 考えるよりも早く拳が動く。


 小さな音と共に、小石が空中で砕け散った。


「やった!」


 ライナは目隠しを外す。


「今の見た!?」


「僕が投げたんだから見てるよ」


 リュカは笑いながら頷いた。


「合格。今のはちゃんと感覚で動けてた」


「何だか、前よりもすごく強くなった気がする!」


「まだ最初の修行が終わっただけだけどね」


「喜ばせてよ!」


 それからも、リュカはさまざまな修行を考えた。


 森の木々の間へ、何十本もの細い糸を張る。


 糸に触れれば、取りつけられた小さな鈴が鳴る仕組みだった。


 だがライナの耳は、布で塞がれている。


 鈴が鳴ったあとでは、触れたかどうか分からない。


 鳴る前に避けなければならなかった。


「剣も同じだよ」


 リュカが言う。


「触れたら終わり」


「確かに分かりやすい例えだね」


 ライナは両腕を軽く広げ、ゆっくりと森の中を進んだ。


 目を使って、糸を探すのではない。


 空気の変化を感じ取る。


(ここ……少しだけ空気が張ってる)


 目には何も映っていない。


 それでも肌が、空気の中に細い線があることを教えてくれる。


 ライナは上半身を捻った。


 肩のすぐ横を糸が通り過ぎる。


 少し進み、今度は膝を曲げた。


 顔の高さに張られていた糸を避ける。


 鈴は鳴らなかった。


「いい感じだよ」


「これ、結構楽しいかも!」


「調子に乗ると――」


 チリン。


 ライナの髪が糸に触れた。


「あっ」


「すぐ鳴らすんだから」


「今のは髪だから無効!」


「髪を斬られてもいいの?」


「それは嫌!」


 さらに数日が過ぎた。


 今度はリュカ自身の風魔法を使った修行だった。


 攻撃魔法ではない。


 ライナの周囲にある空気の流れを、ほんの少しだけ変える。


「今から移動するから、僕がどこにいるか当てて」


「分かった」


 ライナは目を閉じた。


 リュカが風魔法を使う。


 空気がわずかに揺れ、ライナの右腕を薄く撫でた。


 葉が揺れる音。


 地面を踏む微かな震動。


 それらを一つずつ拾っていく。


「……左前」


 ライナは目を閉じたまま指を差す。


「あの大きな木の陰」


「正解」


 リュカが木の後ろから顔を出した。


「空気が押された方向を感じるんだ。目じゃなくて、皮膚で見ることを忘れないでね」


「皮膚で見る、か……」


 最初は意味が分からなかった。


 だが修行を続けるうちに、ライナにもリュカの言葉が分かり始めていた。


 ライナは元々、優れた運動神経を持っている。


 体を動かすことに関しては、誰よりも覚えが早かった。


 日を追うごとに、動きから迷いが消えていく。


 夜には、森の奥にある小さな洞窟へ向かった。


 洞窟の入口では、天井から水滴が落ち続けている。


 ポタ。


 ポタ。


 ポタ。


 一定の間隔で、水滴が地面を打つ。


 リュカはその音へ紛れ込ませるように、小石を投げた。


 水滴が落ちる瞬間と、小石が飛ぶ瞬間が重なる。


 耳で聞けば、二つの音を区別できない。


(音に惑わされたら駄目だ)


 ライナは目を閉じ、拳を構える。


(同じリズムの中に、違うものが混ざってる)


 水滴が落ちる直前。


 空気がほんの少しだけ重くなる。


 その重さが、不自然に乱れた。


 瞬間。


 ライナの拳が動いた。


 空中を飛んでいた小石が、音を立てて砕け散る。


「合格」


 リュカが嬉しそうに笑った。


「もう感覚の目は、かなり身についてると思うよ」


「本当に!?」


 ライナは目を開く。


「こんな短い間で、そんなに変われるものなの?」


「ライナは体を動かすのが得意だからね」


 リュカは少し考えてから続ける。


「でも、本当に使えるかどうかは実戦で確かめないと分からない」


「じゃあ、どうするの?」


「ノクトを呼んでみたら?」


 ライナはすぐにノクトを呼び出した。


 森の開けた場所で、二人が向かい合う。


 ノクトは訓練用の剣を握っていた。


 ライナは目を閉じ、拳を構える。


「本当に目を閉じたままやるのか?」


「うん」


「前みたいに、また頭を叩かれても知らないぞ」


「今日は避けるから!」


「分かった」


 ノクトが剣を構えた。


「行くぞ」


 地面を蹴る。


 剣がライナの肩へ向かう。


 だが刃が届く直前、ライナは上半身を傾けた。


 剣が空を切る。


「避けた……?」


 ノクトが驚く。


 二撃目。


 横から迫る剣を、ライナは身を屈めてかわす。


 三撃目も。


 四撃目も。


 剣が肌へ触れるより先に、空気の揺れを感じ取って避けていく。


「すごい!」


 離れた場所で見ていたリュカが声を上げた。


 ノクトは剣を振る速度を上げる。


 右。


 左。


 頭上。


 足元。


 それでもライナは止まらなかった。


 ノクトの剣をかわしながら、少しずつ間合いを詰めていく。


 そして剣を振り切った直後。


 ノクトの動きに、わずかな隙が生まれた。


(ここ!)


 ライナの拳に炎が灯る。


 燃える拳を、ノクトの胸へ向かって突き出した。


 ノクトは体を反らして避ける。


 だが拳の先が、わずかに服をかすめた。


 黒い服の一部が焦げ、小さな煙が上がる。


「よし!」


 ライナは目を開いた。


「当たった!」


「服にかすっただけだろ」


「でも当たったもん!」


 ノクトは焦げた服を見下ろし、それからライナを見た。


「本当に強くなったな」


 素直に驚いていた。


「数日前までは、目を閉じた瞬間に頭を叩かれてたのに」


「それはもう言わなくていいよ!」


「でも、とんでもない成長速度だ。やっぱりライナは運動神経がいいんだな」


 リュカも二人のもとへ駆け寄る。


「これで感覚の目の基礎は完成だよ!」


「やったぁぁぁ!」


 ライナは両腕を上げて喜んだ。


「これでアタシも役に立てるね!」


 そしてノクトをまっすぐ見つめる。


「絶対に、ノクトとエリシアの足を引っ張らないから!」


 ノクトは少しだけ眉を下げた。


「ライナは今までだって、足を引っ張ってなんかいないよ」


「でも、まだ足りない」


 ライナは自分の拳を見つめる。


「アタシは、一人でも黒翼将と戦えるくらい強くなりたいんだ」


 これまでに何人もの強敵と戦ってきた。


 黒翼将ザイモン。


 バサルト。


 そしてエル=シェイド。


 どの敵も、ライナより遥かに強かった。


 戦いのたびに、何もできない自分が悔しかった。


 もっと強ければ救えた命があったかもしれない。


 もっと速く動ければ、守れた人がいたかもしれない。


「こんな時代だから、誰かが戦わないといけない」


 ライナは拳を強く握った。


「でも、強くないと誰も守れない」


 燃えるような赤い瞳に、迷いはなかった。


「だからアタシは、もっと強くなる」


 ノクトはそんなライナを見て、静かに頷いた。


「ああ。一緒に強くなろう」


「うん!」


 ライナは心の中で誓った。


 一人でも多くの命を守る。


 もう二度と、何もできずに誰かが死ぬ姿を見たくない。


 そのために、もっと強くなるのだと。


 革命まで、残り数日。


 その日の夕暮れ。


 ユリウスは一人で、王都から離れた森へ向かっていた。


 木々の間に、一人の女性が立っている。


 金色の髪。


 淡い碧色の瞳。


 ベルナール王家の生き残りである、エレーヌ・ラヴォワだった。


「エレーヌ」


 ユリウスが名前を呼ぶ。


 エレーヌは彼の顔を見ると、すぐに駆け寄った。


 そして、その胸へ顔を埋める。


「ユリウス……」


 抱きしめる腕が震えていた。


「お願いだから、生きて帰ってきて」


 ユリウスは何も言わず、エレーヌの背中へ腕を回した。


「私は、あなたと一緒に生きていきたいの」


 エレーヌの声が震える。


「こんなにも愛している人を、失いたくないわ」


「俺もだよ」


 ユリウスは優しく答えた。


「俺も君を失いたくない」


 エレーヌは胸元から顔を上げた。


 何かを言おうとして、迷っているようだった。


「どうした?」


「ユリウス。驚かないで聞いて」


 エレーヌは自分の腹部へ、そっと手を添えた。


「私……妊娠したかもしれないの」


 ユリウスは目を見開いた。


「妊娠……?」


「ええ」


 エレーヌは小さく頷く。


「最近、ずっと吐き気が続いているでしょう?」


 アルマンの家で、体調を崩していた理由。


 疲労だけではなかったのかもしれない。


「まだ、はっきりしたわけではないわ。もう一度、医者に診てもらうつもり」


 エレーヌは不安そうに微笑んだ。


「でも、たぶんそうだと思うの」


 ユリウスは言葉を失った。


 エレーヌの腹部を見つめる。


 そこに、自分たちの子どもがいるかもしれない。


 革命の先に、二人で育てる命があるかもしれない。


 胸の奥から、言葉にできないほどの感情が溢れ出した。


「エレーヌ」


 ユリウスは彼女を強く抱きしめた。


「愛してる」


 エレーヌも、ユリウスの背中へ腕を回す。


「私も愛しているわ」


「俺は必ず生きて帰ってくる」


 ユリウスは、エレーヌの耳元で言った。


「革命を成功させて、君のところへ帰る」


 エレーヌを抱く腕に力を込める。


「そして君と、その子と一緒に生きる」


「ええ」


 エレーヌの瞳から、涙がこぼれた。


「必ず幸せになりましょう」


「ああ。約束する」


「こんなにも愛し合っているんだもの。きっと幸せになれるわ」


 二人は森の中で抱きしめ合った。


 遠くに沈む夕日が、木々の隙間から差し込んでいる。


 革命が成功すれば、二人は誰にも隠れずに生きていける。


 生まれてくるかもしれない子どもと共に、新しいベルナールで暮らしていける。


 ユリウスは、その未来を強く願った。


 革命に勝つためだけではない。


 愛する人のもとへ帰るため。


 まだ見ぬ我が子を抱くため。


 必ず生き残る。


 二人は、戦いの先にある未来を約束した。

投稿はマイペースですが、ぜひ楽しんでいって下さいね!

もしよろしければポイント評価をよろしくお願い致します!

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