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魔王殺しノクト(旧救世の闇魔法)  作者: 藤原 光希
ベルナール革命編

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41/101

41話 感覚の目

楽しんで読んで貰えれば凄く嬉しいです!

 革命の日まで、ノクトたちは王都の外れにある空き家で寝泊まりすることになった。


 ユリウスが用意した、暁の隠れ家の一つだった。


 外壁には大きなひびが入り、床板は歩くたびにきしむ。


 窓も完全には閉まらず、夜になると冷たい隙間風が入り込んできた。


 寝心地がいいとは、とても言えない。


 それでも、人目につかないという一点においては完璧な場所だった。


 ノエルが窓や扉に薄い氷の結界を張り、外へ音や気配が漏れないようにしている。


 そのおかげで、ノクトたちは昼も夜も革命へ向けた鍛錬を続けることができた。


 ノクトは何度も剣を振るった。


 剣術だけでなく、エリシアの光を受けながら闇魔法を発動する練習も続けている。


 エリシアは聖剣を磨き、自身の魔力を細かく調整していた。


 ヴァルグランとの戦いで、わずかな乱れが命取りになることを知ったからだ。


 ライナも拳を振り続けた。


 一発。


 また一発。


 拳から炎を放ち、消して、再び燃やす。


 より速く。


 より強く。


 そして、より正確に。


 誰も休もうとはしなかった。


 革命の日が近づいている。


 その日になれば、誰が生き残れるか分からない。


 少しでも強くなっておきたかった。


 だが、ノクトたち以上に忙しく動いていたのは、革命軍「暁」の者たちだった。


 王都のあらゆる場所から、夜の闇に紛れてガラクタが運び込まれていく。


 壊れた馬車の車輪。


 折れた柱。


 崩れた石壁。


 曲がった鉄骨。


 古い武具。


 瓦礫。


 沈んだ鐘楼の破片。


 普通なら捨てられる物ばかりだった。


 だがユリウスの魔法にとっては、どれも強力な兵士となる。


 空き家の周辺には、日に日にガラクタの山が増えていった。


「そっちの鉄板も持っていけ! まだ使えるぞ!」


 暁の隊員たちが声を掛け合いながら、重い廃材を運んでいる。


 その物陰では、マルクが酒瓶を抱えて寝転がっていた。


「明日死ぬなら今日飲む」


 マルクは赤くなった顔で笑う。


「明日も生きるなら、今日のうちに運ぶ。どっちにしても……俺たちは動くしかないんだよなぁ」


「寝転がってる人が言っても説得力ないぞ!」


 瓦礫の山の上から、リュカが叫んだ。


「俺は休憩してるだけだ!」


「朝からずっと休憩してるじゃん!」


「酒を飲むのも大事な仕事なんだよ」


「そんな仕事ないよ!」


 周囲から笑い声が上がった。


 マルクは相変わらず酒臭い。


 だが軽口を叩くその目は、決して笑っていなかった。


 恐怖を酒で紛らわせているだけだ。


 それでも逃げずに、革命の日を待っている。


 リュカは瓦礫の山から一枚の板を引き抜いた。


「おーい!この板もまだ使えるぞ!」


 頭上へ高く掲げる。


「ユリウスが巨人にしたら、絶対に格好いいって!」


「見た目は関係ないだろ」


 ユリウスが苦笑する。


「大事だよ!」


 リュカは満面の笑みを浮かべた。


「せっかく巨人にするなら、強くて格好いい方がいいじゃん!」


「お前は本当に元気だな」


「だってさ」


 リュカは板を抱えたまま答える。


「怖いのは当たり前だからね」


 その笑顔が、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。


「でも怖いからって止まったら、ずっとこのまんまだろ?」


 ユリウスは何も言わなかった。


 小さく頷き、リュカから板を受け取る。


 たった九歳の少年の言葉が、妙に胸へ残った。


 そんな準備の日々が、何日も続いた。


 その中で、誰よりも焦っていたのはライナだった。


 エル=シェイドとの戦いで、ほとんど何もできなかった。


 速すぎる剣。


 見えない踏み込み。


 一歩でも前へ出れば、斬られていたかもしれない。


 カルディオスを倒すことはできた。


 それでもライナは、自分が一番足を引っ張っているように感じていた。


「ノクト!」


 ある日、ライナはノクトへ声をかけた。


「アタシと手合わせして!」


「今から?」


「うん。革命まで時間がないから」


 ライナの表情は真剣だった。


 ノクトは少し迷ったあと、頷いた。


「分かった」


 二人は王都から少し離れた森へ向かった。


 人気はなく、木々に囲まれているため魔王軍に見つかる危険も少ない。


 暇を持て余していたリュカも、楽しそうについてきた。


「ノクト、本気でやってね!」


 ライナが拳を構える。


「本気で剣を振ったら怪我するだろ」


「そこは手加減してよ!」


「難しいこと言うな……」


 ノクトが訓練用の剣を構えた。


 刃は潰されているため、斬られることはない。


 だが当たれば、かなり痛い。


「行くぞ」


「いつでも来て!」


 ノクトが地面を蹴る。


 ライナの目の前へ一気に踏み込んだ。


「速っ――」


 ライナが反応するより先に、剣が肩へ当たった。


「痛っ!」


 慌てて後ろへ跳ぶ。


 だがノクトは止まらない。


 右から剣を振るう。


 ライナは頭を下げて避け、そのまま懐へ入った。


 拳へ炎を集める。


「もらった!」


 燃える拳を突き出した。


 しかしノクトは体をわずかに傾けるだけでかわした。


 すれ違いざまに、剣がライナの背中へ当たる。


「イタッ!」


 ライナは地面を転がった。


 すぐに起き上がる。


「もう一回!」


 再び拳を構えた。


 ノクトが剣を振る。


 ライナは何とか一撃目を避ける。


 続く二撃目も、体をひねってかわした。


 だが三撃目が腕へ当たる。


 四撃目は頭へ迫り、ライナは慌てて両腕で防いだ。


「駄目だぁ!」


 ライナは大きく息を吐いた。


「こんなんじゃ、あの子の剣に反応できないよ」


 エルの剣は、今のノクトよりも遥かに速かった。


 このままでは、再び戦っても何もできない。


「ノクト!もう一回お願い!」


「ああ」


 ノクトが剣を構え直す。


 その時だった。


「目で追ったら駄目だよ」


 木の根元に座っていたリュカが言った。


 ライナが振り返る。


「え?」


「相手の剣を見てから避けようとするから、間に合わないんだ」


 リュカは立ち上がり、服についた土を払った。


「目を閉じて、全身の感覚を澄ませてみて」


「目を閉じるの?」


「そうだよ」


 リュカは自分の目元を指差した。


「目だけが、相手を見るためのものじゃないからね」


「どういうこと?」


「風の動き。地面を踏む音。服がこすれる音。それに相手の気配」


 リュカは得意そうに笑う。


「体中に相手の動きを見るための目がついてるんだよ」


「感覚の目ってこと?」


 ライナが首を傾げる。


「そうそう。それ」


 リュカはノクトの前へ立った。


「ちょっと僕に剣を振ってみてよ」


「いや、無理だろ」


 ノクトは困った顔をする。


「どうして?」


「どうしてって……お前、まだ子どもじゃないか」


「僕だって暁の一人だよ」


 リュカは頬を膨らませた。


「いつも死ぬかもしれない場所で情報を集めてるんだ。剣くらい避けられるよ」


「それでも危ない」


「じゃあ、ノクトが攻撃してこないなら僕から行くよ」


 リュカはポケットから小さなナイフを取り出した。


「ちょっと待て!」


 ノクトの言葉を聞かず、リュカが地面を蹴る。


 小さな体が一気に距離を詰めた。


 ナイフがノクトの脇腹へ向かう。


 ノクトは剣で受け流した。


「本気で来るなよ!」


「手加減してたら練習にならないだろ!」


 リュカは素早くノクトの横へ回り込む。


 小柄な体を生かし、低い位置からナイフを振るった。


 ノクトは後ろへ跳んで避ける。


(速い……)


 ただ元気な子どもではない。


 王都の路地を走り回り、魔王軍から何度も逃げてきた。


 その経験が、小さな体に染みついている。


 ノクトも訓練用の剣を振った。


 最初はかなり手加減していた。


 だがリュカは難なく避ける。


 少しだけ速度を上げる。


 それでも当たらない。


 さらに速く。


 右。


 左。


 頭上。


 足元。


 ノクトはライナへ向けていた時と同じ速さで、剣を振るった。


 リュカはすべてを避けた。


 しかも、その目は閉じられている。


「本当に見てないのか……?」


 ノクトが驚いて剣を止める。


「見てるよ」


 リュカは目を閉じたまま笑う。


「感覚の目でね」


「すごい反射神経だ」


 ノクトは感心していた。


「お前は、将来とんでもない剣士になるぞ」


「剣士になるかは分からないけどね」


 リュカは目を開き、ライナを見る。


「分かった?」


「何となく……」


「目だけで見ようとしたら駄目なんだよ」


 リュカは耳を指差した。


「目以外の全部を使うんだ。その方が、実はよく見えるから」


「なるほど……」


 ライナは目を閉じた。


「ノクト!」


「嫌な予感がするんだけど」


「アタシを攻撃して!」


「本当にいいのか?」


 ノクトは訓練用の剣を見た。


「うん!」


 ライナは目を閉じたまま両拳を構える。


「感覚の目で見てるから大丈夫!さあ、いつでも来て!」


「今聞いたばかりだろ……」


「大丈夫だから!」


 ノクトはしばらく迷っていた。


 そして、できるだけ弱く剣を振り下ろす。


 剣はライナの頭へ当たった。


 ぽこん、と音が鳴る。


「痛いよぉぉぉ!」


 ライナが頭を押さえてしゃがみ込んだ。


 リュカが吹き出す。


「感覚の目は、そんなにすぐ開かないよ」


「先に言ってよ!」


「地道に頑張らないとね」


「うぅ……」


 ライナは涙目になりながら立ち上がった。


「ノクト! もう一回お願い!」


「もうやめた方がいいんじゃないか?」


「今度はいける!」


 再び目を閉じる。


「いつでもいいからね!」


 ノクトが剣を振る。


 ぽこん。


「痛いっ!」


 またしても頭へ当たった。


「もう一回!」


「やめとけって」


「お願い!」


 ぽこん。


「痛いぃぃ!」


「もう終わりにしよう」


「あと一回!」


 ぽこん。


「ええーん!」


 何度やっても、ライナは剣を避けられなかった。


 気がつけば、頭には小さなたんこぶがいくつもできていた。


「もういいだろ!」


 ノクトが剣を放り出した。


「これ以上やったら、本当に怪我だらけになるぞ!」


「だってぇ……」


 ライナは涙を浮かべたまま、ノクトへ抱きついた。


「感覚の目が開かないよぉ!」


「一日で開くわけないだろ」


「リュカはできてるのに!」


「僕は何年もやってるからね」


 リュカはくすくす笑った。


 そしてライナの前へ立つ。


「分かったよ」


「何が?」


「明日から僕が徹底的に見てあげる」


 リュカは胸を張った。


「僕の言うとおりにやれば、すぐできるようになるよ」


「本当?」


「たぶん」


「たぶん!?」


「でもノクトに頭を叩かれ続けるよりは、うまくいくと思うよ」


「俺が悪いみたいに言うなよ」


 ノクトが呆れたように言う。


 ライナは頭のたんこぶを押さえながら、それでも力強く頷いた。


「分かった。リュカ、よろしくね!」


「任せて!」


 こうして翌日から、ライナは九歳のリュカに指導を受けることになった。


 革命まで、残された時間は少ない。


 そのわずかな時間の中で、ライナは新しい戦い方を身につけようとしていた。

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