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魔王殺しノクト(旧救世の闇魔法)  作者: 藤原 光希
ベルナール革命編

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40/101

40話 革命に懸ける命

いつもお読み頂きありがとうございます。

 エル=シェイドが去ったあとも、誰もすぐには動けなかった。


 吹き荒れていた風が止まり、戦場に静けさが戻る。


 だが、そこに残された光景はあまりにも凄惨だった。


 崩れた建物。


 砕かれた瓦礫。


 地面へ広がる血。


 そして、あちこちに倒れている暁の隊員たち。


「生きている人を探そう」


 ノクトの言葉で、全員がようやく動き始めた。


 ノエルは倒れている者の間を走り、一人ずつ呼吸を確かめていく。


 まだ息のある者を見つけると、すぐに膝をついた。


 白い雪が傷口へ降り、血を止めていく。


 ライナも瓦礫を持ち上げ、その下に人がいないか確かめた。


 エリシアは周囲に魔王軍が残っていないか警戒しながら、生存者を安全な場所へ運んでいく。


 だが、助けられる者は多くなかった。


 暁の隊員たちの死体が、いくつも転がっている。


 中には、誰だったのか分からないほど体を潰された者もいた。


 服に残された暁の赤い布だけが、その者が仲間だったことを示している。


 ユリウスは、倒れている者たちの間をゆっくり歩いた。


 一人ずつ顔を確かめていく。


 名前を知っている者ばかりだった。


 同じ食卓を囲んだ者。


 一緒に地図を作った者。


 武器を運んだ者。


 革命の日を楽しそうに語っていた者。


 その誰もが、もう動かない。


 やがてユリウスは、ルネの前で足を止めた。


「ルネ……」


 呼びかけても返事はなかった。


 ザルベックまで援軍を求めに行った青年。


 危険な道を一人で越え、ノクトたちをベルナールへ連れてきた。


 ルネがいなければ、今日ノクトたちがここへ来ることもなかった。


 ユリウスは膝をつき、ルネの首元に巻かれた赤い布へ触れた。


 まだ、わずかに温かかった。


「どうして……」


 その声は震えていた。


「どうして俺たちが、殺されないといけないんだ……」


 誰も答えられなかった。


 ユリウスへ声をかけることもできない。


 黒翼将エル=シェイド。


 殲滅用の魔物カルディオス。


 魔王軍には、一人だけで暁の一部隊を壊滅させられるほどの者が何人もいる。


 今日ノクトたちがいなければ、ユリウスたちも全員殺されていただろう。


 革命の日には、これ以上の敵が現れるかもしれない。


 ヴァルグランまでいる。


 戦えば、また仲間が死ぬ。


 今日よりも多くの死体が並ぶかもしれない。


 ユリウスの胸に、ある考えが浮かんだ。


 自分が出頭すればいいのではないか。


 魔王軍が求めているのは自分だ。


 自分一人が城へ行けば、少なくとも暁の仲間たちは殺されずに済むかもしれない。


 革命など起こさずに、耐え続けた方がいいのではないか。


 苦しみながらでも、生きている方がいいのではないか。


 ここで戦うことに、本当に価値があるのか。


 ただ仲間を犬死にさせるだけではないのか。


 ユリウスは、ルネの顔を見つめたまま黙り込んでいた。


「ユリウス」


 ノクトの声が聞こえる。


 ユリウスは、そこで初めて周囲にいる者たちへ気づいたように顔を上げた。


「……すまん」


 ゆっくりと立ち上がる。


「少し、考え事をしていた」


 ユリウスはルネの赤い布を握りしめた。


「俺は今から、レオンたちのアジトへ向かう」


 ノクトたちを見回す。


「君たちはどうする?」


「もちろん、ついていくよ」


 ノクトは迷わず答えた。


 エリシアも頷く。


「今後の作戦を決める必要があるわ」


「アタシも行く」


 ライナが言った。


「僕も」


 ノエルは生き残った負傷者へ最後の治癒を施してから立ち上がった。


 ユリウスは小さく頷いた。


「ありがとう」


 亡くなった者たちの遺体を、生き残った隊員へ任せる。


 ユリウスたちは、最初に訪れたレオンのアジトへ向かった。


 地下の鉄扉を抜ける。


 中へ入った瞬間、張りつめた空気が伝わってきた。


 ルネ隊が襲撃されたという知らせは、すでに届いていた。


 暁の隊員たちは怒りを隠していない。


 机を叩く者。


 歯を食いしばる者。


 涙を流している者。


 剣を握り、今すぐにでも魔王軍へ襲いかかろうとしている者。


 今回の襲撃で、二十人近い仲間が亡くなったらしい。


「ユリウス!」


 レオンが立ち上がった。


 その手には酒瓶が握られている。


 だが先ほど会った時とは違い、その目は完全に怒りに満ちていた。


「聞いたぞ。ルネも殺されたんだな」


「ああ」


 ユリウスは短く答えた。


 レオンは酒瓶を机へ叩きつけた。


「俺はもう我慢の限界だ」


 大きな音に、アジト中の視線が集まる。


「必ず魔王軍を滅ぼす」


 レオンは集まっている暁の隊員たちを見回した。


「俺たちのベルナールを取り戻すんだ!」


「おお!」


 何人もの隊員が声を上げる。


「みんな、一緒に戦おう!この国のために命を懸けるんだ!」


 レオンは拳を突き上げた。


「ベルナールの未来のために!」


 アジト中から大きな歓声が上がる。


 剣を掲げる者。


 赤い布を握りしめる者。


 涙を流しながら叫ぶ者。


 その中には、ひどく酔っている者も何人かいた。


 酒に支えられなければ、恐怖に耐えられないのかもしれない。


 ユリウスは、熱狂する仲間たちを静かに見ていた。


 わずかに微笑んでいる。


 だが、その瞳にはいつもの力がなかった。


 レオンはすぐに気づいた。


「ユリウス」


 歓声の中、低い声で呼びかける。


「まさか、今回のことで革命をやめるつもりじゃないだろうな?」


 アジトの声が、少しずつ静まっていく。


 ユリウスは何も答えなかった。


「ルネたちの死が相当こたえたんだろ」


 レオンは続ける。


「こんなに大勢の仲間が死んだ。だから自分が出頭すれば、残った仲間は殺されずに済む」


 ユリウスの目を見つめる。


「どうせ、そんなことを考えていたんだろ?」


 しばらく沈黙が続いた。


 やがてユリウスは、力なく笑った。


「さすがだな」


 否定しなかった。


「何でもお見通しか」


「ふざけるな!」


 突然、甲高い声が響いた。


 人の間から、一人の少年が飛び出してくる。


 まだ九歳ほどの小さな子どもだった。


 金色のくせ毛。


 体には合っていない、大きめの服。


 靴は泥で汚れている。


 少年の名はリュカ。


 暁で最も年下の隊員だった。


 王都の路地を誰よりも知り、裏道を走り回って情報を集めている。


 落ち着きがなく、怖いもの知らず。


 だが仲間が傷つけば、誰よりも先に泣く。


 ベルナールが変わる日を、誰よりも強く信じている少年だった。


「ユリウスが出頭する必要なんてないよ!」


 リュカは叫んだ。


「僕たちは、とっくに命を懸けてるんだ!」


「リュカ……」


「そもそも、この国が変わらなかったら、僕たちは生きていたって死んでるのと同じだよ!」


 幼い顔を涙で濡らしながら、それでも声を止めない。


「毎日怯えて、食べる物もなくて、家族を殺されても何も言えない!」


 リュカは胸元の赤い布を握った。


「僕のパパも、ママも、兄弟も、みんな魔王軍に殺された!」


 声が震える。


「僕は、みんなが死んだことを、なかったことになんてしたくない!」


 ユリウスは何も言えず、少年を見つめていた。


「僕たちは、ユリウスとレオンに命を預けたんだ!」


 リュカは周囲の隊員たちへ振り返る。


「みんなも覚悟はできてるよね!?」


「当たり前だ!」


 誰かが叫んだ。


「俺たちは戦うぞ!」


「暁は負けない!」


 次々と声が上がる。


 リュカは最年少だった。


 それでも、皆から愛されていた。


 明るく、元気で、どれほど苦しい時でも希望を口にする。


 そんな少年の言葉が、沈んでいたアジトへ再び火をつけた。


「リュカ万歳!暁万歳!」


 酒瓶を掲げて叫んだのは、マルクという青年だった。


 二十歳を少し過ぎたくらい。


 ぼさぼさの茶髪に無精ひげ。


 体からは、いつも酒の臭いがする。


 立っているだけなら頼りなく見える。


 だが戦いが始まれば、その動きから無駄が消える。


「どうせ明日死ぬなら、今日飲むだろ」


 それがマルクの口癖だった。


 恐怖を酒でごまかしている。


 それでも戦いが始まれば、最後まで前線から逃げない男だった。


「飲みすぎなんだよ、マルク!」


 リュカが叫ぶ。


「死ぬ前に酒で倒れるぞ!」


「革命前の景気づけだ!」


「毎日景気づけしてるじゃん!」


 周囲から、わずかに笑い声が上がった。


 死者を出した直後の、ほんの短い笑いだった。


 それでも重かった空気が、少しだけ和らいだ。


 ユリウスは仲間たちを見回した。


 自分が革命を始めた。


 自分の言葉を信じて、これだけの者たちが集まった。


 勝手に彼らの覚悟を否定し、自分だけで終わらせることはできない。


 ルネの赤い布を強く握る。


「みんな!」


 ユリウスが声を上げた。


 アジトが一瞬で静かになる。


「革命の日まで、もう時間はない!」


 先ほどまでの弱々しい声ではなかった。


「魔王軍は、これから全力で俺たちを潰しに来るだろう!」


 ユリウスは地図が置かれた机へ手をつく。


「まず、住民を避難させる。戦える者だけを王都に残すんだ」


 地図の上にある道を指でなぞる。


「そして、この街にある瓦礫、壊れた武器、使われていない荷車。使える物は何でも集めてくれ」


「全部集めて、どうするんだ?」


 隊員の一人が尋ねる。


「俺が魂を吹き込む」


 ユリウスは答えた。


「街中のガラクタを、俺たちの兵士にする」


 隊員たちがざわめく。


「この街へ攻め込んでくる魔王軍を、俺たちで迎え撃つ」


 ユリウスはレオンを見る。


「俺とレオンが、この国で最強の魔法使いだ」


 レオンは不敵に笑った。


「ああ。当たり前だ」


「俺たちを信じて、力を貸してくれ」


 ユリウスは再び仲間たちを見る。


「俺も命を懸ける。だから、みんなの命も預けてほしい」


 静かな声だった。


 だが、アジトの隅まで届いた。


「暁は絶対に負けない!」


 ユリウスが拳を掲げる。


「この国は変わるんだ!」


 大歓声が地下へ響いた。


 感極まって泣き出す者もいた。


「暁万歳!」


「ベルナールを取り戻すぞ!」


「魔王軍を追い出せ!」


 リュカも小さな拳を高く掲げていた。


 レオンは酒瓶を持ち上げる。


 ユリウスの目には、もう迷いはなかった。


 その後。


 ノクトたちはユリウスとレオンに連れられ、アジトの別室へ移動した。


 狭い部屋の中央には、ベルナール王都の地図が広げられている。


 革命当日の作戦を決めるための話し合いが始まった。


「魔王軍が暁を潰すために街へ出てくるなら、その日だけは王宮の護衛が薄くなるはずよ」


 エリシアが地図上の王宮を指した。


「だから私とノクトで王宮へ侵入する」


「二人でヴァルグランを?」


 ユリウスが尋ねる。


「ええ」


 エリシアは迷わず答えた。


「今度こそ、あの男を倒すわ」


 ノクトも頷く。


「俺たちがヴァルグランを引き受ける。その間に暁は、街へ出てきた魔王軍と戦ってくれ」


「じゃあ、アタシは暁と一緒に戦うよ!」


 ライナが意気込んだ。


「黒翼将が何人きたって負けないんだからね!」


「僕も一緒に戦うよ」


 ノエルが静かに言った。


「攻撃魔法は使えないけど、みんなを守ることはできる。怪我をした人も治せるから」


「助かる」


 ユリウスが二人へ頭を下げた。


 そしてノクトたち全員を見回す。


「一緒に戦ってくれて、本当にありがとう」


「まだ感謝されるようなことはしてないわ」


 エリシアが言った。


「革命が成功してからにして頂戴」


「それでも、今日君たちがいなければ、俺たちは全員死んでいた」


 ユリウスは机の上で拳を握った。


「今日の戦いで、魔王軍の強さを思い知らされた」


 エル=シェイド。


 最年少の黒翼将。


 彼一人を相手に、ノクトとエリシアが二人がかりでも苦戦していた。


「あの剣士は、俺がこれまで戦ってきたどの魔法使いよりも強かった」


 ユリウスの声が重くなる。


「あれ以上の者が、魔王軍にはまだいるんだろう」


「いる」


 ノクトが答えた。


「六魔星は、黒翼将よりもさらに強い」


「そうか」


 ユリウスは目を伏せる。


「革命の日には、きっと大勢の仲間が死ぬ」


 誰も、その言葉を否定できなかった。


「それでも、俺たちはやるしかない」


 ユリウスは顔を上げた。


「だから、君たちの力を貸してほしい」


「ああ」


 ノクトはユリウスへ手を差し出した。


「一緒にベルナールを救おう」


 ユリウスはその手を握った。


「頼む」


「必ずヴァルグランを倒してみせる」


 ノクトは固く誓った。


 自分がヴァルグランを倒す。


 今度こそ。


 エリシアと共に。


 あの男を倒せなければ、魔王軍を止めることなどできない。


 世界を救うこともできない。


 革命の日まで、あとわずか。


 ユリウス。


 レオン。


 ライナ。


 ノエル。


 エリシア。


 そしてノクト。


 それぞれが、自分の戦いへ向けて覚悟を固めていた。


 ベルナールの未来を懸けた革命が、間もなく始まろうとしていた。

いつも読んで頂きありがとうございます。


点数をつけて貰えれば幸いです!

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