4話 エリシアの想い
こうしてノクトとライナはしばらくザルベックに滞在することになった。彼等は休む間もなくミレオに稽古を続けたのだった。
その頃。ザルベック城の王座で一人の男が堂々と腰を落ち着けていた。
「ヴァルグラン様!勇者ルシエルの妹であるエリシアがこの国を訪れているそうです!先ほども十名以上の魔王軍が、魔法も使わない男に斬られたと情報が入りました!」
「勇者ルシエルの妹か‥‥それにも興味はあるが、謎の男ってのが気になるな。やられたやつらの階級は?」
「血契騎士が1人に魔兵長が3人で残りは全て魔兵です。」
「なかなかの階級じゃないか。それらを魔法も使わずに1人で?魔王軍以外でそんなことができるのは、俺の知る限り1人しかいない。楽しみになってきたな。まさか俺がこの国の長だとあいつも知らんだろうからな。久しぶりの再会だから、ちょっとだけ可愛がってやりたいもんだ。」
「ヴァルグラン様。心当たりがおありなんでしょうか?」
「ああ。でも大丈夫。俺の足元にも及ばないよ。それよりもエリシアとあいつが同じ国にいるのが興味深いな。きっとあいつはエリシアには勝てない。俺がやるよりも先に殺されるかもな。」
「あいつとはいったい誰なんです?」
「はは。今に分かるさ。楽しみにしておけ。」
ちなみに魔王軍は階級制になっている。世界を支配する闇の軍勢――魔王軍。そこには絶対の階級が存在した。上に立つ者は神、下に生きる者はただ命に従う。それがこの軍の掟だった。
頂点に立つのは魔王ゼルク。闇より生まれ、闇を統べる絶対者。その声ひとつで千の兵が跪く。
その下に六魔星。魔王の右腕にして最強の六人。背に刻まれた深紅の魔星紋は、忠誠と呪いの証。六人が紋章を輝かせるとき、世界は災厄と化す。
続くは黒翼将。背に黒翼の紋を持ち、空を支配する将軍たち。六魔星の影として戦場を動かす存在だ。
次に魔導師団長。火・風・土・水の四属性を統べる高位魔導士であり、研究と破壊の両方を担う。
血契騎士は魔王と血の契約を交わした精鋭。心臓に刻まれた印が裏切りを許さない。
その下に魔兵長。戦場で部隊を率いる中堅指揮官。冷徹で、秩序を何よりも重んじる。
最下層に魔兵。幼くして闇に育てられ、戦うことだけを教え込まれた兵士たち。
この七階級こそが魔王軍の秩序。恐怖によって保たれた完璧な闇の階層である。
小国のザルベックでとてつもない戦いの予感が漂っていた。ザルベックの地を1人で旅する女性。彼女の名はエリシア。
陽光を溶かしたような金の髪が背まで流れ、歩くたびに柔らかく揺れる。純白の衣をまとい、その姿は光に選ばれた者のようだった。
澄んだ青の瞳は深い湖のように静かで、見る者の心を映す。その奥には、決して揺るがぬ意志と覚悟が宿っている。凛とした立ち姿には、清らかな品格と強さが同居していた。
勇者ルシエルの妹であるエリシアは、新魔王討伐を掲げて世界を旅している途中だった。そしてザルベックが魔王軍に支配されたと耳にして、この地に六魔星がいるかも知れないと考えたのだ。
エリシアはしばらくこの地に滞在することにした。彼女の胸底は魔王軍に対する憎しみで燃えている。彼女の幸せな日常は魔王軍のせいで奪われてしまったのだった。魔王軍を殲滅させる。それだけが今の彼女の目的だった。
エリシアはこのままザルベック城に行こうかと考えた。しかしふと「ヴェルノア・マジック・アカデミー」のことが気にかかった。国民はその施設のことをヴェルノア学園と呼ぶ。
ザルベックの王はヴェルノア学園に未来を託していた。国民が幸せになるためには教育こそが必要と考えた王は、ヴェルノア学園の生徒を育てるために多大なる国費を費やしていた。そしてエリシアもかつてその学園を訪ねて生徒たちを指導したことがある。そのために彼女はヴェルノア学園の現在の姿が気になったのだった。
エリシアはヴェルノア学園に向かうことを決めた。もちろん学園が無事であるとは思っていない。しかし未来を担われたザルベックの学生を一人でも救いたい。その思いで彼女の心はいっぱいだった。




