33話 アルマン・ラヴォワ
ノクトらはテオの叔父さんを助けにいくことにする。エリシアが意識のある魔王軍兵士を捕まえた。そして力づくで叔父の居場所を聞き出す。
兵士は最初全く口を開かなかった。しかしエリシアも容赦しない。
余りにも強硬なエリシアの尋問に全員が息を呑む。ノクトはさすがだなと思った。
(エリシアは若いながらも踏んできた現場の数が凄いんだろうな‥‥‥)
エリシアは念の為に二人の兵士を別々に尋問する。そのおかげで叔父さんの居場所が分かった。
「ここから近いわ!すぐにでも向かいましょう!」
エリシアがそう言って兵士を地面に放り捨てる。
兵士は恐怖で震えていた。
ノクトたちは急ぎ、エリシアが聞き出した場所へと向かった。
エリシアの導きで辿り着いた先――
エリシアの言葉に従い、ノクトたちは裏通りを抜けて歩き続けた。そして辿り着いた先――
そこにあったのは、薄ら汚れた空き家だった。
屋根はところどころ剥がれ、
外壁は灰色に汚れ、
窓は割れたまま、板で適当に塞がれている。
人が住んでいる気配なんて、どこにもない。
「えっ……ここ?」
ライナが眉をひそめる。
「どう見ても、何年も放置された空き家にしか見えないけど……」
ノクトも戸口を見つめながら小さく唸った。
埃まみれの草が風に揺れ、
塀は半分崩れ、
鍵すら壊れたままのドアがぶら下がっている。
「とりあえず中に入るわよ。」
そう言ってエリシアがぶら下がるドアを蹴り飛ばした。ノクトはその様を見て苦笑いをする。
(相変わらず怖いな‥‥‥)
彼らは空き家の中に入った。すると中に入った瞬間に何人もの男性が倒れていることが分かった。そして奥にある食卓の椅子に一人の大男が静かに眠っている。
大きな男は戦いの後なのか酷く負傷していた。その男を見てテオが叫ぶ。
「アルマン!どうしてこんなに怪我をしているんだよ!」
テオの声で気を失っていたアルマンは目を覚ました。
「テオか?どうしてこんなところにいるんだ。」
アルマン・ラヴォワは、ベルナール王族とは思えないほど逞しい体格をしていた。
背は高く、肩は広く、何年も重荷を担ってきたような厚い胸板を持つ。大きな手には細かな傷がいくつも刻まれていた。
髪は乱れた黒に近い深い茶色で、無造作に後ろへ撫でつけられている。険しい顔つきだが、その瞳だけは驚くほど優しい。かつては王族として整った服を着ていたはずだが、今のアルマンは粗末な上着を身にまとい、まるで労働者のように見える。
「アルマンこそどうしてこんなところでボロボロになっているんだ!」
「突然こいつらに捕まってここまで連れてこられたんだ。そしたらこいつら急に襲ってきやがった。だから返り討ちにしてやったんだ。」
ライナが驚きを隠せないようだった。
「凄い人だね。この人数を一人でやっつけちゃったの?」
「アルマンはめちゃくちゃ強いんだ!こんな奴には負けはしないさ!」
「でもひどく怪我をしているよ。僕が癒してあげる。」
ノエルが回復魔法を発動する。
「白雫癒雪」
ノエルが胸の前でそっと両手を広げた。
次の瞬間――その手のひらから白い雪の粒がぽとり、ぽとりと零れ落ちるように生まれ始める。
それは冷たさを持たない“温かい雪”。
触れるとふわりと溶け、傷口の痛みを吸い上げるように消えていく。
雪の粒が舞うたびに、光の輪が柔らかく広がり、
折れた骨は静かに寄り戻り、裂けた皮膚は時間を巻き戻すように閉じていく。
周囲の空気は冷えるのではなく、むしろ静かに温まる。
ノエルの優しい魔力そのものが、雪となって降り注いでいた。
アルマンは体の傷が見る見るうちに治っていって驚いた。その回復速度は類を見ない早さだった。そしていつの間にか体中の怪我は全快していた。
「凄い!こんなに回復スピードが早い魔法は見たことないよ!」
ライナの言葉にエリシアも同感する。
「素晴らしいわ。ここまで質の良い回復魔法を使える魔法使いは少ないわ。」
ノエルは恥ずかしくなって顔を赤くした。でもどことなく嬉しそうだった。
アルマンはノエルに礼を言った。そして全快した足で立ち上がった。
「街にパンを買いに出てたら魔王軍の奴らに絡まれてな。背が高いもんだからすぐ目につけられるんだ。困ったもんだ。」
アルマンの背はおそらく190センチ近くあった。
「全くだ。とりあえず帰るとするか。助けてくれてありがとうな。」
「待って。聞きたいことがあるの!」
エリシアが口を開いた。
「何だ?」
「私達は魔王軍を倒すためにこの国にやってきたの。この国の現状を教えて欲しい。あと暁のことも教えて欲しいわ。」
アルマンはエリシアをじっと睨んだ。
「ここで話すには気が散る。ついてこい。」
こうしてノクト等はアルマンの家に向かうことにしたのだった。




