32話 新たな出会い
ノクトたちは暁のアジトを出て、ベルナール王都の通りを歩いていった。レオンから貰った地図を頼りにユリウスのいるアジトを目指す。
ベルナールは貧困の差がはっきりとしている。表通りは一見、眩しいほどに整っていた。白い壁の屋敷が並び、石畳は磨かれ、魔導灯が昼間から青白い光を灯している。
絹の服を着た貴族たちが馬車で行き交い、宝飾店や菓子屋の前には甘い匂いが漂っていた。この国では魔王軍側に寝返った貴族が沢山いて、彼らは裕福な生活を過ごしていた。
一歩、通りの端に目を向ければそれは別世界だ。細い隙間には痩せた子どもがうずくまり、穴のあいた靴で地面を擦っている。拾い物の袋を抱え、貴族と目が合わないように顔を伏せていた。
広場の中央には、炎の紋章を掲げた石柱と、使い込まれた処刑台。
掲示板には新しい税率と、「反逆罪により処刑」と書かれた名前の列。
人々は紙を一瞥するだけで、すぐ目を逸らして足早に去っていく。
ノクトたちは大通りを外れ、下り坂の路地へ入ろうとした。すると大きな衝撃音が聞こえてきた。おそらくどこか近い場所で争いが起こっている。
ノクトらは衝撃音のする場所に向かった。するとやはり争いが起きている。一人の青年が魔王軍の五人組を相手に戦っていた。
青年の名はノエル。性別をあまり感じさせない柔らかな雰囲気の青年だった。
肩にかかるくらいの淡い銀青色の髪が、風に揺れるたびふわりと頬にかかる。大きめの瞳は薄い水色をしていた。
ノエルは魔王軍からの攻撃を氷属性の魔法で完全に防いでいた。
透明色の氷から成るドームがノエルともう一人の少年を包む。その氷のドームは魔王軍たちのどんな魔法を突き通さなかった。
「氷魔法って珍しいね。あの人数相手でもピクリともしていないよ。でもどうしてあの人は防御魔法しか使わないんだろう?」とライナが不思議そうにしている。
「防御魔法しか使えないとかかしら?でもそんな話は聞いたことないわ。」
「まぁとりあえず助けに行くか。困ってそうだしな。」
「待って!」とエリシアがノクトを止めた。
「私とあなたはよっぽどのことがない限りは魔法を使わないようにしましょうね。闇と光の属性を使えばすぐに噂が広まるわ。できるだけ潜入していることはバレたくないでしょう?」
「分かってるよ。あれくらいのレベルならば魔法はいらない。」
ノクトは剣を抜いた。そしてあっさりと魔王軍共をやっつけてしまった。
「大丈夫ですか?」とノクトは氷属性の魔法使いに声を掛けた。するとノクトは違和感を感じた。
(この青年どこか顔立ちがセラフィーヌに似ているな‥‥‥)
ノクトはじっとノエルを見つめた。するとノエルも意味ありげそうにノクトを見る。そして少し間の後にノエルが口を開いた。
「助けてくれてありがとう。」
ノエルの声は少し高めでおっとりしていて、話すテンポもゆっくりだった。
ノエルは幼い子を連れていた。その子がノエルに礼を言う。
「ううん、僕は何もできていないよ。助けてくれたのはこのお兄さんだね。」
ノクトはノエルともう一人の子に詳しく話を聞いた。するとどうやらノエルは魔王軍に襲われていた子を助けようと思ったらしい。しかしノエルは攻撃魔法を使えないらしかった。
「防御魔法と回復魔法しか使えないって珍しいわね。それでもこの子を助けたのは偉いわ。」
(攻撃魔法が使えない?まさかこいつ本当にセラフィーヌの‥‥‥)
ノクトは黙り込んでいた。そしてライナが少年にどうして魔王軍に襲われていたのかを尋ねた。すると驚くことにこの青年は元々ベルナールの王族だったらしい。
「凄いね。ミレオに引き続いてこの国でも王族様と接触するとは‥‥‥」
ライナは驚いた。少年の名はテオ・ラヴォワ。王族ラヴォワ家は魔王軍によって崩壊したらしい。そして少年は姉と叔父と暮らしているようだった。
「叔父が魔王軍に捕まってしまったんだ。だから叔父を助けにいきたくて、とりあえず魔王軍を捕まえた。やっつければ叔父の居場所を教えて貰えると思ったんだ。」
「それで返り討ちにあったってことね。青年がいなければ死んでいるところよ。それにその青年の防御魔法はかなり強力だわ。守ってくれたのがその青年で感謝することね。」
「でもその叔父さんを助けてあげたいね!アタシ達の目的は魔王軍を倒すことなんだから、その叔父さんの救出が近道になるかもだよ!」
ライナの発言に皆が賛成した。
「あ、あの‥‥‥」
ノエルが自信なさげに口を開いた。
「僕も連れて行って貰っていいですか?一緒に魔王軍と戦いたいんです。
僕は一人では戦えない。でも防御魔法と回復魔法には自信があるから。だから皆さんの役に立てると思うんです。だからお願いします!」
ノエルが頭を下げる。
「分かったよノエル。一緒に戦おう。」
ノクトが口を開く。そして頭を上げたノエルと握手を交わしたのだった。




