3話 ザルベックの王子ミレオ
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活動報告に、ライナのイメージイラスト先のみてみんURLをアップしました!
ミレオの隠れ家は森の奥深く、獣道すら途絶えた先にひっそりと佇んでいた。
苔むした岩肌を背に、崩れかけた古い山小屋のような外観。だが中に足を踏み入れると、外見とは違って必要最低限の整えられた空間が広がっている。
ミレオは隠れ家でゼルマンという男性と二人で暮らしていた。
ゼルマンは五十を過ぎたばかりの男だった。背は高く、年齢のわりに筋肉はまだよく締まっている。その眼差しには、長い年月を生き抜いた者だけが持つ静かな強さがあった。
額には深い皺が刻まれ、灰色が混じりはじめた黒髪はいつも後ろに撫でつけられている。
彼はミレオの父であるバルザック王の一番の側近である者だった。魔王軍が襲来したとき、王がゼルマンに命じてミレオを逃したのだ。
ゼルマンは最初、見知らぬ二人を見て驚いた。ノクトたちはゼルマンに自己紹介をする。
ノクトは名だけを告げて、自分をただの旅人だと伝えた。彼の次に赤髪の女性が自らの名を告げた。
彼女はライナという名前だった。猫人族と人間のクウォーターで、見た目は完全に人間だ。今はとある場所を目指している途中で、たまたまザルベックに通りかかったらしい。
ノクトとライナはゼルマンにこの国の状況を聞いた。
ザルベックは、豊かな大国に比べれば小さな領土しか持たぬ辺境の国だった。それでも人々は誇りを持って暮らしていた。
丘陵を流れる小川は透き通り、畑は小さいながらも四季折々の実りを生み出した。かつては平和な国であるザルベックだった。しかし突然、魔王軍からの襲来を受けて状況は一変した。もうこの国に王はいない。ただ魔王軍の幹部がこの国を支配しているということだった。
「私は王を守れなかった‥‥」
ゼルマンは寂しそうに呟く。彼は王の言いつけを守って、今までずっとミレオを守ってきたのだった。
「王子。お願いですから急に私の側からいなくならないで下さい。今回はこの人達のおかげで助かりましたが、あやつらは子ども相手でも容赦しません。」
するとミレオは激しく泣き出した。それは悔しさからくる涙だった。
「どうしてパパが殺されちゃったの。パパはいつでも正しい人だった。あいつらみたいに弱い者いじめは絶対にしない。困っている人がいたら絶対に助ける。パパのことが嫌いな民を僕は見たことがない。どうしてそんなに優しい王様が殺されなきゃいけないの。パパが悪いことをしたのを僕は今まで見たことがない。
どうしてパパは死んだの?パパが魔王軍より弱かったから?ならこの世界で一番に偉いのは、力の強い者なの?力が弱い人達は、どんな暴力にも黙って見ているしかできないの?優しい人よりも悪い人の方が生きやすいの?そんな国はパパの国じゃないよ。」
ミレオの涙は絶えなかった。少年はこの世の理不尽に絶望をしていた。
するとライナがそっとミレオをそっと抱き締めた。
「ミレオくんの気持ち凄く分かる。今までずっと辛かったよね。でも大丈夫。本当に強い人っていうのは、戦いが強い人のことじゃない。誰かのために思いやりを持って行動できる人。だからミレオくんのパパはどんな人よりも強い人だったと思うよ。」
ライナの胸でミレオはしばらく泣いた。ゼルマンとノクトは黙ってその様子を見ていた。ノクトは自らの立場に腹を立てた。世界をこんなふうにしてしまったのは自らの父だ。それに今の世界が混乱してしまっているのも自分の兄のせいだ。自分はどのような気持ちで泣いている少年を見ればいいのだろう。ノクトはこの少年のためにザルベックを救いたいと強く思った。
ミレオはしばらく泣き続けた。しかしその後はすっかり元気になった。悲しい過去は涙と一緒に流し込んでしまったのだろう。
ミレオはライナにすっかり懐いたようだった。
「僕もお姉ちゃんのように強い魔法を使いたい!どうやったらあんな火のライオンを操れるの?」
「火のライオンを操る?それはもしかして猫人族の奥義ではないですか?」とゼルマンが尋ねる。
「私には猫人族の血が混じっているんです。クウォーターなんですけどね。」
「そうでしたか。」
ゼルマンの表情が一瞬だけ曇ったかのようだった。ノクトはそれに気がつきはしたが、そのことを深く考えようとはしなかった。
「お姉ちゃんの魔法めちゃくちゃカッコよかった!僕もあんな魔法が使いたい!あの魔法があれば僕だってパパやママを守れたはずだもん!」
「ミレオくんは自分のマナが何属性なのか知っているの?」
「それが分からなくて‥‥」
「ミレオ君は火属性だよ。」とノクトが呟く。
「どうして分かるんですか?」とゼルマンが驚いた。
「マナの色です。人によっては分かりにくかったりするんですけど、ミレオくんのマナは分かりやすい。火属性です。だからライナさんと一緒ですね。」
「ライナでいいよ。私もノクトって呼ぶから。それよりもノクトって凄いね!魔法も使わないであの大人数をやっつけちゃうし!それにマナの色が分かる人なんて聞いたことがないよ!」
「魔法を使わずに魔王軍を倒したんですか⁉︎いったいどうやって⁉︎」
「剣術には自信があるんです。」
「お兄さんの剣さばき凄かったなぁ!どうやったらあんなに強くなれるの?どんな練習をしたのか教えて欲しいな!」
「それは‥‥‥」
ノクトは言葉を失った。過去の死を実感するような訓練の日々を思い出したからだ。
「思い出したくないほどにしんどい練習かな‥‥‥」
「僕にもそれを教えて欲しい!」
「え?」
「もっと強くなりたいんだ!だから今日から僕の師匠になって欲しい!ライナもだよ!」
「でも‥‥‥」とためらいがちなノクト。
「いいじゃん、いいじゃん!ノクトも急いでるわけじゃないんでしょ?ならミレオくんに付き合ってあげようよ!」




