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魔王殺しノクト  作者: 藤原 光希
ザルベック解放編

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21話 大地覇神バル=ガノス

いつも読んで頂きありがとうございます。ブックマーク、ポイント評価をよろしくお願いします!不定期で更新しています!

 崩れ落ちたゴーレムの残骸を見て、アルトは大きく息を吐いた。


 自分の手が、まだ震えている。


 恐怖ではない。


 緊張が解けた震えだった。


「アルト!」


 ミレオが駆け寄ってくる。


「すごくかっこよかったよ!」


 アルトは少し驚いたようにミレオを見る。


 それから、小さく笑った。


「ありがとうございます。ミレオ様」


 胸の奥に、久しぶりの感覚が戻ってきていた。


 誇り。


 そう呼んでもいいものだった。


 かつてアルトは、ヴェルノア学園の首席だった。


 教師たちからも、学友たちからも、そしてバルザック王からも期待されていた。


 自分の魔法でこの国を守りたい。


 いつかザルベックを代表する魔法使いになりたい。


 そんな夢を、誰にも言わずに抱いていた。


 だが魔王軍が来て、すべてが壊れた。


 ヴェルノア学園を占領した黒翼将ザイモンは、あまりにも残酷だった。


 逆らった生徒は殺された。


 教授たちも、何人も帰ってこなかった。


 友人がザイモンに喰われるところを、アルトは見てしまった。


 その日から、彼の中の何かが折れた。


 弱い者は強い者に逆らえない。


 この世界には、自分の努力など簡単に踏み潰す怪物がいる。


 自分では国を守れない。


 そう思い込んでいた。


 けれど、ノクトたちは違った。


 ライナも違った。


 勝てるかどうかだけで動いていなかった。


 怖くても、傷ついても、守りたいもののために前に出ていた。


 アルトは、ようやく少しだけ分かった気がした。


 強さとは、恐怖を感じないことではない。


 恐怖を知っても、守るために動くことなのだ。


「アルト、お願い!」


 ミレオの声で、アルトは我に返った。


「ゼルマンが、黒翼将と戦ってるんだ!僕を逃がすために、一人で!」


 アルトの表情が引き締まる。


「場所は分かりますか?」


「うん。こっち!」


 ミレオが森の奥を指差す。


 アルトは頷き、ミレオを抱き上げた。


「しっかり掴まっていてください」


「えっ?」


 次の瞬間、アルトの足元に風が巻いた。


 体がふわりと浮く。


 風魔法による高速移動。


 木々の間を、アルトは風のように駆け抜けていった。


 その頃。


 ライナとゼルマンは、バサルトと戦っていた。


 森の中はすでに荒れ果てている。


 木々は倒れ、地面には亀裂が走り、砕けた岩があちこちに転がっていた。


 ゼルマンが水を放つ。


 巨大な水の塊がゴーレムの両足に絡みつき、動きを鈍らせる。


「ライナ殿!」


「任せて!」


 ライナが地を蹴った。


 赤い髪が炎に揺れる。


 拳に宿った火が、ゴーレムの胴へ叩き込まれた。


 爆音。


 石の体に大きなひびが入る。


 だが、すぐには崩れない。


 バサルトが後方で淡々と指を動かす。


 割れた部分に土砂が流れ込み、ひびが塞がっていった。


「面倒くさいな、もう!」


 ライナは歯を食いしばる。


 ゼルマンが水で止める。


 ライナが炎で砕く。


 二人の連携は悪くない。


 むしろ、即席とは思えないほど噛み合っていた。


 それでも、相手のゴーレムはしぶとい。


 壊しても、固め直される。


 崩しても、別の土砂で補われる。


 バサルト本人は、ゴーレムの後ろから一歩も動かない。


「なるほど」


 バサルトが呟いた。


「二人なら、少しは戦えるみたいだね」


 彼は杖を軽く地面に当てた。


「壱ノ印(いちのいん)・地脈通導(ちみゃくつうどう)」


 地面の下を、何かが走った。


 ゴーレムの全身に土色の光が巡る。


 次の瞬間。


 その動きが、一気に速くなった。


「速い……!」


 ゼルマンが目を見開く。


 巨大な腕が、さっきまでとは比べものにならない速度で振るわれた。


 ゼルマンは水を盾のように広げる。


 だが受けきれない。


 衝撃で体が後ろへ押し飛ばされる。


「ゼルマンさん!」


 ライナが助けに入ろうとした。


 しかしゴーレムの足が、彼女の進路を潰すように踏み込んでくる。


 ライナは猫のように身をひねり、間一髪でかわした。


「まだ避けるか」


 バサルトの声が低くなる。


「なら、もう一段上げる」


 彼の足元に、さらに魔法陣が広がった。


「弐ノ印(にのいん)・地脈励振(ちみゃくれいしん)」


 地面が細かく震える。


 ゴーレムの瞳に鈍い光が灯った。


 動作だけではない。


 攻撃の重さ。


 崩れた箇所の再生。


 すべてが速くなっていく。


 ライナはゴーレムの懐に飛び込んだ。


 拳を叩き込む。


 石が砕ける。


 だが砕いたそばから土砂が集まり、傷を塞いでいった。


「再生が速すぎる!」


「ライナ殿、足を止めます!」


 ゼルマンが両手をかざした。


 水が大きな塊となってゴーレムの足元へ流れ込む。


 両足を包み込み、重く絡みついた。


 ゴーレムの動きが、一瞬だけ止まる。


「今です!」


「うん!」


 ライナは大きく息を吸った。


 胸の奥で、火が弾ける。


「紅蓮爆装(ぐれんばくそう)!」


 轟音と共に、ライナの全身が紅に染まった。


 炎が鎧のように体を包む。


 髪が燃えるように揺れ、拳から熱が噴き上がる。


 空気が震えた。


 地面を蹴るたび、焦げ跡が残る。


 ライナは紅蓮の彗星のようにゴーレムへ突っ込んだ。


「はああああっ!」


 拳が連続で叩き込まれる。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 炎の爆発が、ゴーレムの体を内側から砕いていく。


 ゼルマンの水で足を封じられたゴーレムは、逃げられない。


 ライナの連打をまともに受け続けるしかなかった。


 やがて、ゴーレムの胸に大きな亀裂が走る。


 次の瞬間。


 巨体が崩れ落ちた。


 岩と土砂が地面に散らばり、森が大きく揺れた。


 ライナは着地し、荒い息を吐く。


「よし……!」


 ゼルマンも剣を支えにしながら、わずかに安堵した。


 だがバサルトは、笑っていた。


「俺が最大級の魔法を使うことになるなんてね」


 ライナの背筋に冷たいものが走る。


 バサルトは杖を地面に突き立てた。


「ちなみに、この魔法を見て生き残った者はいないよ」


 大地が、低く唸り始めた。


「地脈終律(ちみゃくしゅうりつ)――大地覇神(だいちはしん)バル=ガノス、覚醒せよ!」


 地面が裂けた。


 亀裂が森の奥まで走り、岩壁がせり上がる。


 地の底から、巨大な腕が現れた。


 岩盤。


 金属の層。


 赤く脈打つ溶岩。


 それらが組み合わさり、山そのものが人の形を取っていく。


 現れたのは、五十メートルを超える巨大なゴーレムだった。


 背には山のような岩塊を背負い、瞳の奥ではマグマが渦を巻いている。


 大地覇神バル=ガノス。


 その名にふさわしい、地の化け物だった。


 ライナは思わず見上げた。


「大きすぎ……」


 ゼルマンの顔から血の気が引く。


 あまりにも大きすぎる。


 先ほどまでのゴーレムが、子どもの玩具に見えるほどだった。


 バサルトはさらに詠唱を重ねる。


「参ノ印(さんのいん)・地脈覚醒(ちみゃくかくせい)」


 地面から光の柱が噴き上がった。


 バル=ガノスの瞳に、紅蓮の光が宿る。


 雄叫びが森を震わせた。


 それはもはや、ただ操られる岩の人形ではなかった。


 暴走する地神。


 そんな言葉が頭に浮かぶほどの圧だった。


 次の瞬間、バル=ガノスが動いた。


 速い。


 巨体からは想像できない速度で腕が振るわれる。


「避けて!」


 ライナが叫ぶ。


 ゼルマンは横へ飛ぶ。


 直後、巨大な拳が地面を叩き割った。


 衝撃波だけで、二人の体が吹き飛ばされそうになる。


 ライナは紅蓮爆装の勢いで空中へ跳び、体勢を立て直した。


 だが攻撃に移れない。


 近づこうとした瞬間、バル=ガノスの反応速度がそれを上回る。


 腕。


 膝。


 岩の破片。


 地面から突き出す石柱。


 全てがライナを追ってくる。


「くっ……!」


 ライナはかわすだけで精一杯だった。


 拳を届かせる隙がない。


 ゼルマンも水で足元を狙うが、規模が違いすぎる。


 水で濡らしても、すぐに溶岩の熱で蒸発する。


 固める前に、力で踏み潰される。


 バサルトは大地覇神の後方に立っていた。


 岩の守護神に守られながら、冷たい目でライナたちを見ている。


「無理だよ」


 彼は静かに言った。


「お前たちじゃ、バル=ガノスには届かない」


 ライナは歯を食いしばる。


 紅蓮爆装は発動している。


 全力だ。


 それでも攻撃できない。


 近づくことすら許されない。


 ゼルマンも剣を構え直すが、傷だらけの体は限界に近い。


 その時、風が走った。


 森の木々の間を抜け、アルトがミレオを抱えて戻ってきた。


「ライナさん!」


「ミレオくん!アルトくん!」


 ライナは振り返った。


「危ないから下がって!」


 アルトはミレオを地面に下ろし、バル=ガノスを見上げた。


 その巨大さに、一瞬だけ息を呑む。


 だが、足は下がらなかった。


「私も戦います」


 ライナは驚く。


「でも、あれは……!」


「分かっています」


 アルトは杖を握りしめた。


「それでも、今度は見ているだけにはなりません」


 ミレオも震えながら、拳を握った。


 まだ火は小さい。


 それでも、彼の手には確かに炎が灯っていた。


 ライナ。


 ゼルマン。


 アルト。


 そしてミレオ。


 四人の前で、大地覇神バル=ガノスが再び咆哮する。


 黒翼将バサルトは、その背後で静かに笑っていた。


 絶望の形をした巨神が、森に影を落としていた。

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