21話 大地覇神バル=ガノス
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アルトはゴーレムを倒すことができてホッとした。
「アルト!凄くカッコよかったよ!」
「ミレオ様。ありがとうございます。」
アルトはかつての誇りを取り戻せたような気がした。ヴェルノア学園で常に首席だったアルトは、バルザック王からも未来を期待されていた。彼もそれを誇りに感じていた。
自分の魔法でこの国を守る。この国のために自らの魔力を使い尽くす。そして自分はこの国の優れた魔法使いとして、いつか必ず英雄となってみせる。そんな夢を彼は密かにずっと抱いていた。しかしザルベックが魔王軍に占領されてから、彼の考えは一変した。
ヴェルノア学園を占領した黒翼将ザイモンの一味は余りにも非情だった。学園の生徒を配下につける。逆らった者はムカデと化したザイモンが喰らう。
アルトの友人は何人もザイモンに喰われていた。それは友人等がこの学園の誇りのために魔王軍に反抗したためだった。彼の尊敬する教授も何人食べられたか分からない。
魔王軍に逆らう者は皆殺された。そのときに彼はこの世の摂理を理解した気がしたのだ。
弱者は強者に逆らえない。そしてこの世界にはザルベックの魔法使いとは比べものにならないほどに強い魔法使いがたくさんいる。
アルトは魔王軍のザルベックとは比べ物にならない強さに圧倒された。魔王軍は下っ端さえもが凄い魔法使いで、ザイモンに関しては今までに見たことのないほどに強い魔力の持ち主だった。
世界にはこんなにも強い魔法使いがいる。自分は一生をかけてもザイモンに勝てる気がしない。更に魔王軍には黒翼将よりも強い六魔星もいる。もはやこの国を守ることは自分では不可能だ。
ヴェルノア学園でザイモンの配下として働いていた彼は、ずっとそんなことを考えていた。だがザイモンと戦うノクト達を見て考えが変わったのだった。命を賭けて戦うことに意味を見い出す。その意味をしっかりと理解した気がしたのだった。
ミレオはアルトにゼルマンが黒翼将と戦っていることを伝えた。そして一緒に助けたい旨も。アルトは了承した。彼はミレオを抱き抱える。そして風魔法による高速移動でゼルマンの戦う場所に向かったのだった。
ライナとゼルマンは協力してバサルトと戦っていた。ゼルマンが圧力・流体による拘束型の水魔法を発動してゴーレムの動きを止める。そしてライナがゴーレムに強力な拳をお見舞いする。
二人の魔法によるコンビネーションは抜群だった。しかし巨大なゴーレムは中々に崩れない。
バサルトはゴーレムを強化する魔法を詠唱した。
「壱ノ印・地脈通導」
すると先ほどとは比べ物にならないほどに動きが速くなった。ゼルマンは攻撃を避けるのに必死だった。
ライナは持ち前の猫人族の素早さを発揮した。しかしバサルトはスピードを更に強化する魔法を唱えた。
「弐ノ印・地脈励振」
バサルトは地脈の流れを刺激し、マナ循環を増幅する。ゴーレムの動作だけでなく、攻撃・再生速度も大幅に上がった。
ライナは何とかゴーレムの動きを上回って攻撃を試みるが、ゴーレムの再生速度が速すぎた。
ゼルマンは水魔法でゴーレムの動きを再び制御した。大きい水の塊がゴーレムの両足を束縛する。
ライナは紅蓮爆装を発動する。ライナの全身が一瞬で紅に染まる。轟音とともに炎が弾け、髪と拳が火に包まれた。燃える炎が鎧のように身体を覆い、空気が震え続けている。踏み出すたびに地が焦げ、彼女自身が紅蓮の彗星と化した。
ライナはゴーレムに強力な打撃攻撃の連打をお見舞いした。するとゴーレムは崩れ落ちた。
「俺が最大級の魔法を使うことになるなんて。ちなみに俺がこの魔法を発動して生き残った者はいないよ。」
バサルトは自分が使える魔法の中で最上級のものを発動する。
「地脈終律――大地覇神バル=ガノス、覚醒せよ‼︎」
バサルトが杖を地に突き立てる。その瞬間、大地全体が鼓動を始めた。亀裂が走り、岩壁がせり上がる。地の底から、山脈そのものが形を変えて立ち上がる。
赤熱した溶岩が脈を打ち、巨腕が地を割る。現れたのは――高さ五十メートルを超える、山を背負う“大地覇神”。
全身が岩盤と金属の層で覆われ、瞳の奥にはマグマが渦を巻いている。
バサルトは更にゴーレムの強化魔法を詠唱した。
「参ノ印・地脈覚醒」
地が裂け、光の柱が噴き上がる。ゴーレムの瞳に紅蓮の光が宿り、雄叫びと共に地を揺らす。その姿は――もはや操られる者ではなく、暴走する地神そのものだった。ゴーレムの攻撃・反応速度・破壊力を3倍超に上げる魔法。紅蓮爆装を発動しているライナも攻撃を避けるのに必死になってしまった。
ライナはゴーレムに攻撃すら与えられなかった。かといってゴーレムの後方で魔法を操っているバサルトには指一本も触れられない。ゴーレムという守護神が余りにも強すぎた。
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