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救世の闇魔法  作者: なまけもの先生
冒険の始まり編
2/39

2話 ノクトの実力

男の掛け声でざっと10人以上の兵士が前に出てきた。


赤髪の女性は大勢の敵に囲まれた。女性はこれくらいの人数なら戦えると思ったが、更に何人かの兵士が戦闘に合流する。


 女性の後ろには無力な少年がいる。女性は少年を守りながら、この大人数と戦闘をすることは難しいと考えた。


 彼女は困惑した。するとどこからか声が響く。

 

「火属性の魔法使い。俺がこいつらと戦うから、あんたは少年を守ってやってくれ。」


 前に出たのはノクトだった。彼は腰にある鞘から刀を抜く。

 

「誰だテメェは⁉︎この人数相手にお前一人で戦うっていうのか⁉︎アホも度がすぎると命取りだな‼︎」


周囲の魔王軍兵士がドッと笑う。


「いいからかかってこい。」


「大した自信だな。お前もそこの赤髪と一緒で魔法に自信があるのか⁇でもな、どんだけ強い魔法もこの人数相手なら厳しいだろう。」


「いや、俺は魔法を使わない。」


周囲の兵士は再び笑った。魔法なしでこの人数の魔法使いと戦闘をするのは、普通に考えると致命的すぎた。


女性も「大丈夫⁇」と心配をする。


するとノクトは「任せておけ。」と呟いた。



「いっせいに来い。面倒だから。一気に片付ける。」


「舐めやがって‼︎お前らまとめてかかれ‼︎殺してしまってもいいからな‼︎」



 何人もの兵士が一斉に呪文を唱える。


 赤髪の女性は「あたしが何とかしなくちゃ」と考える。そして女性は再び魔法を発動しようとするが、ノクトが彼女に叫んだ。


「大丈夫だ‼︎あんたは少年を守ることだけに専念してくれ。」


「でも‥‥」

 

 女性はノクトの言葉を信用していなかった。それもそのはずだ。この人数相手に勝てるわけがない。


 正直、自分でも厳しい。いや、無理かもしれない。そう思っていたがノクトの言葉に従うことにした。



 幾つもの強力魔法がノクトを襲う。


 各々が自らの発動できる一番強い魔法を発動した。


 火、風、土、水。全ての一般属性の魔法がノクトに襲い掛かる。すると赤髪の女性は信じられない光景を目にした。


ノクトが魔法も発動せずに、鞘から抜いた剣だけで全ての魔法を消し去ってしまった。

 

 全員が息を飲み込む。魔王軍の兵士たちは、言葉を出すことさえも出来なかった。

 

「お前ら‼︎なに黙って見てる‼︎ぼんやりするな‼︎数を連発するんだ‼︎」


驚くほどの数の魔法がノクトに再び襲い掛かる。数はさっきの倍以上だ。


 炎の波、大きな竜巻、巨大な岩、何発もの水の銃弾。その全てをノクトは切り刻んでしまって、魔王軍の兵士をみんな斬り倒してしまった。


 ノクトが黒い腕章の人に近づいて「大丈夫ですか?」と尋ねる。すると「もう終わりだ‥‥」と黒い腕章をつけた奴隷が表情を変えて怯えていた。


「君はなんてことをしたんだ。これでもう君も私達も皆殺しだ‥‥」

 

 その場にいた黒い腕章の者たちが全員恐れおののいていた。すると少年が彼等の前に出て堂々と口を開いた。


「僕があなた達を守ります。バルネス家の名にかけて。」


「もう王様は死んだんだ‼︎この国はもう崩壊した‼︎君みたいな幼い子どもにできることなんて何もない。残された俺たちはもう一生奴隷をやっていくしかないんだ。失せろ‼︎」

 

 少年はザルベックの王家であるバルネス家の血を継ぐ者だ。名をミレオという。


 彼の家族はみんな殺されてしまった。親戚の者で魔王軍から逃亡して生き残った者もいるが、王家の直系で生き残っている者はミレオだけだった。

 

 彼は正義感が人一倍強かった。父はとても優しい王で、常に民から慕われていた。


 王は正義感が非常に強く、いつであっても悪を裁き弱い者を悪から守った。

 

 ミレオは父の背中を見て育った。そのためにいつも父の言葉が頭に残っている。


「ミレオいいかい⁇強さってのはね、困っている人のために使うんだよ。だからミレオは困っている人を絶対に見捨てない優しい王様になりなさい。」

 

 ミレオは黒い腕章の者に怒鳴られて言葉を失ってしまった。パパ。けっきょく誰かを助けられるのは、力のある者だけなんだ。


 僕は弱い。パパとは違う。僕が強いと思っていたパパでさえ国を助けられなかった。ならいったい僕はどうすればいいんだ⁇

 

 少年は涙目になった。少年に向かって「早くこの場を去れ‼︎俺たちまで殺されてしまう‼︎」と罵声が浴びせられた。すると赤髪の女性がミレオの手を引いた。


「君はザルベックの王子なんだよね⁇詳しく話を聞かせてよ。もしかしたらアタシたちが力になれるかもしれない。」

 

 ノクトはこの場から離れようとした。すると赤髪の女性がノクトを呼び止める。


「あなたもついてきて‼︎何だかビビビッてきたんだけど、あなたの力が必要な気がするの‼︎アタシ、バカだけど勘だけは凄く良いんだから‼︎」

 

 ノクトは一瞬迷ったが承知した。


ノクトは何か目的があってザルベックに来たわけでもない。時間を持て余していたので、可哀想な王子の話でも聞いていこうと思った。


 彼等はミレオの住む隠れ家へと向かった。時々、魔王軍の兵士に襲われたがノクトが皆やっつけてしまった。


 ミレオはこの人達なら本当にこの国を救ってくれるかもしれない。本気でそう思いながら隠れ家へと歩いて行ったのだった。 

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