1話 魔王殺し
これから一話ずつ読みやすいように改稿していきます。前までは読み慣れない言葉、説明口調の表現などが多すぎたので、シンプルに読みやすくなるように努めていきます。
2016年6月14日以降に編集された話が改稿済みの話であるので、そちらを確認して読んでいって貰いたいです。
魔王が殺された。
魔王を殺したのは勇者ではない。
伝説の英雄でもない。
魔王の実の息子――ノクトだった。
父親を殺した罪で、ノクトは魔王軍から指名手配されている。
もし捕まれば死刑。
いや、死刑だけで済むはずがない。
魔王軍にとってノクトは、魔王を殺した最悪の裏切り者なのだから。
だからノクトは今日も逃げていた。
どこの国にも長く留まらず、身を隠しながら世界を放浪している。
だが魔王が死んでも、世界は平和にならなかった。
魔王亡き後、新たな魔王となったのはノクトの異母兄であるゼルク。
ゼルクは新たな魔王として、六人の最強幹部を選んだ。
新魔王に選ばれし六つの星。
それら六人は六魔星と呼ばれている。
ゼルクは六魔星に世界征服を命じた。
六魔星は一人でも国を一つ滅ぼす力があると言われている。実際にいくつもの国が魔王軍によって支配されてしまった。
国は滅びた。
街は焼かれた。
罪のない人々が苦しめられた。
ノクトが命を懸けて魔王を殺したというのに、世界は以前よりも悪くなってしまったのだ。
「……俺は何のために父さんを殺したんだろうな」
ノクトは誰にも聞こえない声で呟いた。
ここはザルベック王国。
つい最近、魔王軍によって支配された国だった。
かつては人々の声で賑わっていたのだろう。大通りには壊れた露店が並び、焼け焦げた建物がいくつも残っていた。
道端には痩せ細った人々が座り込んでいる。
誰も笑っていない。
誰も希望を持っていない。
国そのものが死んでいるようだった。
その時だった。
「遅い!もっと早く動け!このノロマ野郎が!」
怒鳴り声が響いた。
ノクトが視線を向ける。
そこには黒い腕章を付けた人々が、重たい荷物を運ばされていた。
老人もいる。
女性もいる。
子どもまでいる。
奴隷だ。
魔王軍に支配された国では、逆らった者や身分を奪われた者が、こうして無理やり働かされる。
監視役らしき中年の男は、少しでも動きが遅い者を容赦なく殴っていた。
「ほら、立て!休むな!」
男が老人を蹴り飛ばす。
老人は荷物を抱えたまま地面へ倒れ込んだ。
周囲の人々は誰も助けようとしない。
いや、助けられないのだ。
逆らえば殺される。
それを皆が知っているからだ。
ノクトは拳を握った。
ひどい世の中だ。
止めるべきだ。
だが、ここで目立てば魔王軍に見つかるかもしれない。
魔王殺しである自分がここにいると知られれば、この街ごと巻き込むことになるかもしれない。
ノクトが一歩踏み出しかけた、その時だった。
「僕の国の民に酷いことをするな!」
幼い声が響いた。
人混みをかき分けて、一人の少年が飛び出してくる。
まだ十歳にもなっていないだろう。
小さな体。
震える手。
それでも瞳だけは真っ直ぐだった。
「皆を解放しろ!」
監視役の男は少年を見るなり、ニヤリと笑った。
「これはこれは。殺された王の息子じゃないか」
周囲がざわつく。
少年はこの国の王子だった。
つい最近、魔王軍に殺されたザルベック王の息子。
もう守ってくれる兵士もいない。
もう従ってくれる家臣もいない。
それでも少年は逃げなかった。
「もうこの国の長は変わったんだ。ここは魔王軍のものだ。分かったら失せろ」
「黙れ!」
少年は男へ殴りかかった。
だが次の瞬間。
男の蹴りが少年の腹に突き刺さった。
「ぐっ!」
少年は地面を転がった。
口から血が流れる。
それでも少年は立ち上がった。
「お前たち魔王軍はクズだ!」
少年は叫んだ。
「パパは国の人から慕われていた!ザルベックをもっと良い国にしようと頑張っていたんだ!それなのに、お前たちが殺したんだ!」
男は面倒くさそうにため息を吐いた。
「うるさいな」
右手を持ち上げる。
「もういい。殺す」
男の掌から炎が溢れ出した。
魔法だ。
人間の体内にはマナという力が流れている。そのマナを使えば、人は魔法を扱うことができる。
男が使ったのは火属性の魔法だった。
炎は渦を巻きながら膨れ上がり、少年へ向かって放たれる。
巨大な火炎の渦。
少年の小さな体など、一瞬で焼き尽くしてしまうだろう。
少年は動けなかった。
目の前に迫る炎を見て、自分が死ぬのだと悟った。
ノクトは走り出そうとした。
だが間に合わない。
炎が少年へ届く。
そう思われた瞬間だった。
「間に合ったぁぁぁ!」
一人の少女が飛び込んできた。
燃えるような赤髪。
小柄な体。
しなやかな猫のような身のこなし。
少女は少年の前に立つと、炎を纏った拳を振り抜いた。
拳が火炎の渦にぶつかる。
爆音が響いた。
そして男の炎は、跡形もなく砕け散った。
少年は目を見開いた。
ノクトも思わず息を呑む。
こんな無茶苦茶な戦い方をする奴は初めて見た。
「こんな小さい子に暴力を振るうなんてあり得ない!」
赤髪の少女は男を睨みつけた。
「アタシがいなかったら、この子死んでたよ!?」
男は自分の魔法を消されたことに腹を立てていた。
「俺はそいつを殺すつもりだったんだよ。部外者はどこかに行け。じゃないとお前も殺すぞ」
「どうしてこんな小さい子を殺そうとするの!?最低!」
少女は少年を背中に庇った。
「この子はアタシが絶対に守るから!」
「守れるものなら守ってみろ!」
男は再び魔法を唱えた。
今度は炎の矢が何本も生まれる。
それらは一斉に少女へ放たれた。
少女は少しも怯まない。
右から来た炎の矢を拳で砕く。
左から来た炎の矢を蹴り飛ばす。
正面から来た炎を、さらに炎で弾き返す。
少女は全身に炎を纏っていた。
攻撃魔法を殴る。
蹴る。
吹き飛ばす。
普通の魔法使いとは明らかに戦い方が違っていた。
「なんだあいつ……」
ノクトは思わず呟いた。
男は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「調子に乗るなぁぁぁ!」
男は両手を広げた。
これまでとは比べものにならないほどの炎が集まっていく。
巨大な炎の波だった。
街路を埋め尽くすほどの火炎が、少女と少年へ襲いかかる。
周囲の人々が悲鳴を上げた。
だが少女は引かなかった。
むしろ一歩前へ出る。
「それが切り札?」
少女は両拳を強く握った。
足元に紅蓮の魔法陣が浮かび上がる。
「紅蓮獅霊召喚!」
地面を這う火花が円を描く。
魔法陣から溢れ出した炎が、巨大な獅子の形へ変わった。
燃え盛る鬣。
鋭い牙。
まるで炎そのものに命が宿ったようだった。
炎の獅子が咆哮する。
空気が震えた。
男の顔から余裕が消える。
「まさか……その魔法は……!」
少女は拳を振り上げた。
「焔獅子乱舞!」
炎の獅子が突進した。
巨大な炎の波を真正面から食い破る。
「なっ!?」
男の魔法は呆気なく破られた。
炎の獅子はそのまま男へ突っ込み、男の体を吹き飛ばした。
男は建物の壁に激突し、そのまま地面に崩れ落ちる。
炎の獅子は役目を終えると、火の粉となって消えていった。
周囲は静まり返った。
誰もが赤髪の少女を見ていた。
「す、すごい……」
王子の少年が呟いた。
少女は少年の方を向いて、にっと笑った。
「大丈夫?」
「う、うん」
「よかった!」
だが安心したのも束の間だった。
「隊長がやられたぞ!」
「囲め!」
「逃がすな!」
奥の通りから魔王軍の兵士たちが次々と現れた。
一人や二人ではない。
十人。
二十人。
さらにその後ろからも増えていく。
あっという間に、少女と少年は兵士たちに囲まれてしまった。
「うそ……多すぎない?」
少女の表情が少しだけ強張った。
彼女一人なら、この人数でも戦えるかもしれない。
だが後ろには少年がいる。
少年を守りながら、この数を相手にするのは厳しい。
兵士たちは剣を抜いた。
「殺せ!」
「逆らう奴は全員処刑だ!」
「王子もその女もまとめて殺せ!」
少女は少年を背中に庇いながら、歯を食いしばった。
「大丈夫。アタシが守るから」
そう言いながらも、額には汗が滲んでいた。
どうする。
どうすればいい。
少女が迷った、その時だった。
「おい」
静かな声が響いた。
兵士たちが振り返る。
少女も振り返った。
そこには黒い外套を羽織った青年が立っていた。
ノクトだった。
ノクトはゆっくりと前へ歩いてくる。
その表情は静かだった。
だが瞳の奥には、確かな怒りがあった。
「そんな大勢で一人の女の子を囲むなんて」
ノクトは兵士たちを見渡した。
「恥ずかしくないのか?」
兵士たちが睨みつける。
「なんだお前は」
「死にたいのか?」
「部外者は引っ込んでろ!」
ノクトは腰の剣に手を添える。
「見て見ぬふりはできない」
兵士たちも武器を構えた。
「ぶっ殺してやる!」
「一人で何ができるっていうんだ!」
一人の兵士が剣を振り上げ、ノクトへ斬りかかった。
だが次の瞬間。
兵士の剣が宙を舞った。
「え?」
兵士が間抜けな声を漏らす。
ノクトはいつの間にか剣を抜いていた。
誰の目にも見えなかった。
兵士は腰を抜かし、その場に座り込む。
「次に弱い者へ剣を向けたら、腕だけじゃ済まないぞ」
ノクトは静かに言った。
その声に、魔王軍の兵士たちは誰一人として動けなくなった。誰もがその強さに圧倒された。どうしてそれほどまでに強いのか。
なぜなら彼は――
魔王を殺した男だからだ。
お読み頂きありがとうございます。最新話まで順番に改稿していきます。
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