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魔王殺しノクト  作者: 藤原 光希
第二次ルミナリア大戦編

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136/139

136話 守りたいもの

本日もお読み頂きありがとうございます!

 ノクトたちは答えを出さなければならなかった。


 だが誰も口を開けずにいた。


 エリシアは聖剣を握ったまま、ルミナシアで眠る兄を思い浮かべていた。


 何度呼びかけても返事はなかった。


 もう一度、兄と話したい。


 その願いをずっと抱えてきた。


「……本当に、兄さんを助けられるの?」


 ノクティルが彼女を見つめる。


「会ってみなければ断言はできない。だが、できる限りのことはする」


 この男を信じていいのか、まだ分からない。


 それでも兄が目を覚ます可能性があるのなら、確かめたかった。


「ルシエル兄さんを助けてほしい」


 声が震えた。


 ノクトはエリシアを見つめ、静かに頷いた。


「ルミナシアへ行こう」


 そしてノクティルへ向き直る。


「ただし、手を組むかどうかはその後だ」


「ああ。それでいい」


 ライナは黙って話を聞いていた。


 ノクティルへの怒りは消えていない。


 それでもエリシアへ顔を向けると、小さく頷いた。


「アタシも一緒に行くよ」


「僕も。お兄さんが目を覚ますといいね」


 ノエルの言葉に、エリシアは唇を結んだ。


「……ありがとう」


 こうして四人は、ノクティルを伴ってルミナシア帝国へ向かうことになった。


 いくつもの街を越え、長い道を進んだ。


 道中ではアンデッドや魔物に襲われることもあった。


 だがノクティルが前へ出ると、敵は次々と動きを止めて、その場に崩れ落ちていく。


 ノクトが杖を構える暇もなかった。


「……俺たちの出番がないな」


 ノクトが呟く。


 ノクティルは倒れた敵に背を向けた。


「先を急ごう」


 その強さを目の当たりにしても、ライナは彼と距離を置いて歩いていた。


 やがて一行は、エリシアの故郷であるルミナシア帝国へたどり着いたのだった。


 一方その頃、魔王城。


 ゼルクは、母エキディアの部屋を訪れていた。


 エキディアは長い漆黒の髪と、深紅の瞳を持つ女だった。


 黒いドレスに身を包み、窓辺の椅子に腰を下ろしている。


 息子の報告を聞くうちに、口元の微笑みが消えた。


「ノクティルまで裏切ったのね」


「ああ。ノクトたちとともに、ルミナシアへ向かっているそうだ」


「グラヴィルたちだけではなく、あの男まで……」


 エキディアは椅子から立ち上がった。


「全軍の指揮を、私に任せなさい」


「母上が出るのか?」


「ええ。魔王軍を裏切った者たちには、報いを受けてもらうわ」


 ゼルクを見つめる瞳に冷たい怒りが宿る。


「あなたの父が築いたものを、好き勝手に壊させるつもりはない」


「だが、グラヴィルの軍も攻めてきている。ルミナシアだけに兵を向けるわけにはいかない」


「分かっているわ。奴らにも備える。そのためにも全軍の指揮を私に委ねてほしいの」


 ゼルクはしばらく母を見つめたあと、頷いた。


「……分かった。全軍を母上に任せる」


 エキディアの口元に、薄い笑みが戻った。


「まずは、ルミナシアよ」


 世界を治めるルミナシア帝国。


 夫を殺したノクトと、裏切り者のノクティルが、そこへ向かっている。


「あの国を、もう一度滅ぼすわ」


 エキディアは窓の外へ目を向けた。


「今度こそ、立ち直れないようにね」


「母上。油断はしないでくれ」


「ええ。あなたもね」


 ゼルクが部屋を出ると、扉が静かに閉じられた。


 一人になったエキディアは、隣の空いた椅子を見つめた。


 かつて夫はそこに座り、彼女の話を聞いていた。


 低い声も、自分にだけ見せた笑顔も、今でもはっきりと思い出せる。


「……あなた」


 そっと椅子の背に触れた。


 もう一度、会いたかった。


 名前を呼んでほしかった。


 あの腕に抱きしめてもらえたなら、それだけでよかった。


 エキディアの頬を、涙が伝った。


 しばらくして涙を拭うと、彼女は魔王城の一角にある施設へ向かった。


 そこでは、親を人間に殺された幼い魔物たちが保護されていた。


 小さな角の生えた子鬼。まだ翼をうまく動かせない幼い飛竜。毛布の上で身を寄せ合う、牙の生えた獣たち。


 エキディアが近づくと、一匹の幼い獣が足元へすり寄った。


 彼女はその小さな身体を抱き上げた。


「どうして、私たちは殺されてしまうのかしら」


 背中を撫でながら、静かに呟く。


「きっと、人間が私たちを恐れているからね」


 魔物は生き抜くために人間を襲う。


 人間もまた、生き抜くために魔物を殺す。


 この子たちは、その争いの中で親を奪われた。


「結局、力のある者だけが生き残るのね」


 幼い獣が、彼女の胸に顔を埋める。


 エキディアはその身体を優しく抱きしめた。


「もう、こんな思いはさせないわ」


 夫も、この子たちの親も、二度と帰ってこない。


 それでも、今ここにいる命だけは守りたい。


「あなたたちのためにも……私たちを殺す者は、すべて滅ぼさなければ」


 幼い獣は、彼女の腕の中で安心したように目を閉じたのだった。

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