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魔王殺しノクト  作者: 藤原 光希
第二次ルミナリア大戦編

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134話 死王ヴァルディス

今回から新章です!いつもお読み頂きありがとうございます!

「黒焔葬(こくえんそう)!」


 ノクトの杖から黒い炎が放たれ、迫るアンデッドを焼き払った。


 だが、その後ろから新たな群れが押し寄せる。


「ノクト、右からも!」


 ライナが前へ踏み込んだ。


「烈焔轟拳(れつえんごうけん)!」


 炎を宿した拳がアンデッドを打ち抜き、爆炎が背後の群れまで吹き飛ばした。


 ベルガルド王国の大通りは、死者で埋め尽くされていた。


 兵士も、商人も、幼い子どももいる。


 かつてここで暮らしていた人々が、生気を失った瞳で四人へ手を伸ばしていた。


「氷晶障壁(ひょうしょうしょうへき)!」


 ノエルが両手を広げ、背後の道を氷壁で塞ぐ。


 そのとき、通りの奥から悲鳴が聞こえた。


「助けて!」


 倒れた荷車のそばで、母親が子どもを抱き締めていた。その隣では、足を怪我した老人が動けずにいる。


 逃げ場を失った住民たちへ、アンデッドが迫っていた。


「私が道を開くわ!」


 エリシアが聖剣を構える。


「聖滅七光(せいめつしちこう)!」


 背後に七つの光の紋が浮かび、巨大な光矢が放たれた。


 白い光が群れを貫き、住民たちへ続く道を開く。


 ノクトとライナは、その隙に駆け寄った。


「立てるか?」


「父が歩けないんです!」


「アタシにつかまって」


 ライナが老人を支え、ノエルは子どもの前に膝をついた。


「大丈夫。僕たちと一緒に行こう」


「こちらへ!」


 脇道から傷だらけの鎧を着た騎士が現れた。


「生存者を保護している場所があります!急いで!」


 ノクトとエリシアが追ってくる群れを食い止め、住民たちを逃がす。


 最後にノエルが氷壁で道を塞ぎ、四人も騎士の後を追った。


 案内されたのは、街の外れにある古い石造りの建物だった。


 窓は板で塞がれ、入り口には騎士たちが立っている。


 全員が中へ入ると、重い扉が閉じられた。


 ようやく、死者の足音が遠ざかる。


 建物の中には、多くの住民が身を寄せ合っていた。


 泣いている子ども。毛布にくるまる老人。扉を見つめ、家族の帰りを待つ人々。


 助け出した母親は、その場に座り込んだ。


「ありがとうございます……」


 ライナがそっと背中に手を添える。


 ノエルは老人の足に両手をかざした。


「白雫癒雪(はくてきゆせつ)」


 柔らかな雪が傷口へ溶け込み、老人の表情が少しずつ和らいでいく。


 案内してきた騎士が、四人へ深く頭を下げた。


「私は、この国の騎士団団長です。住民を助けてくださり、感謝します」


「俺はノクトだ。噂を聞いて来たんだが……王宮も奪われたのか?」


 団長は重い表情で頷いた。


「ええ。奪還を試みましたが、王宮のアンデッドは街の者たちとは違いました」


「違う?」


「走る者もいれば、武器を使う者もいます。そして、その群れを率いているのが――死王ヴァルディスです」


 近くにいた住民が、その名を聞いて顔を伏せた。


「奴の力は凄まじい。向かった騎士たちの多くが、帰ってきませんでした」


 団長は住民たちへ目を向ける。


「食料も残り少ない。いつまでも、ここにはいられません」


「王宮へ案内してくれ」


 ノクトの言葉に、団長が顔を上げた。


「奴を倒して、この国を取り戻そう」


「ですが、あの数を相手にするのは――」


「だからこそ、道や敵のことを教えてほしいの」


 エリシアが言った。


「この人たちが逃げるためにも、まず群れを率いている奴を止めないと」


 ライナとノエルも頷いた。


 団長は四人を見つめたあと、机に地図を広げる。


「……私も行きます。王宮へ通じる水路があるのです」


 そのとき、遠くから低い咆哮が響いた。


 住民たちが息を潜める。


「死王の声です」


 扉の向こうで、無数の足音が動き始めた。


 団長は外の様子を確かめ、地図の道筋を指でなぞった。


「群れが王宮へ戻っています。水路を使うなら、今です」


 ノクトたちは残った騎士たちに住民を任せ、裏口を出た。


 暗い水路を抜け、王宮の裏庭へ上がる。


 徘徊するアンデッドを倒しながら進むと、団長が大きな扉の前で足を止めた。


「この先です」


 重い扉が開く。


 玉座には、黒い鎧をまとった巨大なアンデッドが座っていた。


 頭には歪んだ王冠。片手には、人の背丈ほどもある大剣が握られている。


「死王ヴァルディス……」


 団長が呟いた。


 死王の瞳に赤い光が灯る。


 周囲に並んでいた騎士のアンデッドたちが、一斉に剣を抜いた。


「来るぞ!」


 ノクトが杖を構える。


「黒焔葬(こくえんそう)!」


 黒焔が先頭の騎士たちを包む。


 ライナはその横を駆け抜け、立ち上がった死王へ踏み込んだ。


「烈焔轟拳(れつえんごうけん)!」


 拳が胸へ突き刺さり、爆炎が弾ける。


 黒い鎧に亀裂が走った。


 だが、巨体はほとんど揺れなかった。


 死王がライナを見下ろし、大剣を振り上げる。


「ライナ、離れて!」


 エリシアの声に、ライナが後ろへ跳んだ。


 直後、大剣が床へ叩きつけられる。


「氷晶障壁(ひょうしょうしょうへき)!」


 ノエルの氷壁が、飛び散る瓦礫から仲間と団長を守った。


 エリシアが死王の横へ回り込む。


「聖刃連鎖(せいじんれんさ)!」


 幾重もの光の斬撃が、亀裂の入った鎧へ叩き込まれた。


 胸が裂け、黒い魔力が噴き出す。


 それでも死王は止まらない。


 大剣を横に薙ぎ、エリシアへ迫った。


 ノクトが彼女の腕を引く。


 二人が床へ転がった直後、背後の石柱が砕け散った。


「これだけ傷を負っても……!」


 死王が低い咆哮を上げる。


 開いた扉から、無数のアンデッドが押し寄せてきた。


「後ろは僕が防ぐ!」


 ノエルが入り口を氷壁で塞ぐ。


 団長も剣を抜き、王室に残る騎士たちを食い止めた。


「ノクト、私が隙を作るわ!」


 エリシアが立ち上がり、聖剣を振り上げる。


「天断光刃(てんだんこうじん)!」


 巨大な光刃が死王の肩へ落ちた。


 大剣を持つ腕が下がる。


 その瞬間、ノクトが杖を突き出した。


「黒焔旋獄(こくえんせんごく)!」


 螺旋を描く黒焔が、裂けた鎧の内側へ食い込む。


 死王が膝をついた。


 だが、ライナの背後では、倒れた騎士たちが再び身体を起こしていた。


「まだ動くの……?」


 腕を失った者まで、残った手で床を這ってくる。


 入り口では、絶え間なく叩きつけられる剣が氷壁を削っていた。


「ノクト……長くはもたないよ!」


 ノエルの額を汗が伝う。


 ライナは団長とともに騎士たちを押し返し、エリシアはノクトの隣で聖剣を構えた。


 そのとき、死王が顔を上げた。


 大剣を床から引き抜き、巨体が一気に踏み込む。


「ノクト!」


 頭上へ刃が迫る。


 同時に、背後の氷壁が砕けた。


 ノクトは杖を握り締めた。


 だが、振り下ろされた大剣は、その目前で止まった。


 死王の腕に、黒い糸のような魔力が絡みついている。


「まだ、お前に死なれては困る」


 ノクトは声のした方へ顔を向けた。


 玉座のそばに、一人の男が立っている。


「ノクティル……!」


 ノクティルは死王へ手を向けたまま、静かに口を開いた。


「話は後だ。まずは、目の前の敵を倒そう」

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