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魔王殺しノクト  作者: 藤原 光希
雪精王国セレナリア編

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133/139

133話 魂の正体

今回でセレナリア章も終わりです!とうとう物語も終盤です!いつもお読み頂きありがとうございます!

 ノクティルは、冥澄の女神をじっと見つめていた。


「私は、ずっとあなたを探していました」


 無彩の空間に静かな声が響く。


「生と死を司る神。あなたなら、生きとし生ける者の魂に触れることができる。私は魂の正体を知るために、ここまで来たのです」


 ノクティルが話し終えると、冥澄の女神は何かを伝えるように彼を見つめた。


 言葉は発していない。


 それでも、その瞳を通して女神の意思がノクティルの中へ直接流れ込んでくる。


 ノクティルは一瞬だけ驚いた表情を見せた。


 やがて、その顔にぎこちない微笑みが浮かぶ。


「そうですか」


 鏡のような水面に、いくつもの波紋が広がっていく。


「生と死の狭間に存在するこの世界は、私たちの胸に残された記憶から生まれている」


 ノクティルは自分の胸元へ手を添えた。


「そして魂とは、その者が生きてきた記憶の集合体であると……」


 冥澄の女神は、何も答えなかった。


 ノクティルはしばらく女神を見つめたあと、深く頭を下げる。


「教えていただき、ありがとうございます」


 その背後に、現実へ続く黒い裂け目が現れた。


 ノクティルは裂け目の前まで歩き、一度だけ足を止める。


「しかし、やはり……」


 寂しそうな笑みを浮かべた。


「一度亡くなった者を、本当の意味で甦らせることはできないのですね」


 死人の身体を魔法で動かすことはできる。死人の身体を魔法で作ることもできる。だが失われた記憶までは取り戻せない。


 ノクティルは女神に背を向け、夢と現実の狭間から姿を消した。


 それからしばらく後。


 ノクトたちは傷ついた身体と消耗した魔力を癒やすため、セレナリア王国に滞在していた。


 セラフィーヌが眠る氷宮は、国の管理下に置かれた。


 周囲には騎士が配置され、国王の許可を得た者以外は立ち入ることができない。


 ノエルは毎日のように氷宮を訪れ、氷の中で眠る姉へ声をかけていた。


「姉さん、今日も来たよ」


 返事はない。


 それでもノエルは、胸元のペンダントを握りながら笑った。


「必ず、その氷から出してあげるからね」


 セレナリアには、少しずつ日常が戻り始めていた。


 壊れた家屋は修復され、市場には再び人々の声が響いている。


 しかし、世界に平穏が戻ったわけではない。


 街では、ある不穏な噂が広がっていた。


「遠く離れた国が、アンデッドに占領されたらしい」


「住民が次々とアンデッドに変えられているそうだ」


「俺は見たぞ。アンデッドと魔王軍が争っているところを」


 宿屋の食堂でその話を耳にしたノクトたちは、互いに顔を見合わせた。


「アンデッドと魔王軍が戦っていた?」


 エリシアが眉をひそめる。


「魔王軍が生み出したアンデッドじゃないってこと?」


「別の誰かが操っているのかもしれないな」


 ノクトは険しい表情で答えた。


「それに、国を一つ支配できるほどの数だ。放っておけば、さらに被害が広がる」


「まだ生き残っている人がいるかもしれないよ」


 ライナは不安そうに両手を握った。


「助けに行こう。今なら、まだ間に合うかもしれない」


「僕も一緒に行くよ」


 ノエルが迷うことなく言った。


「いいのか?」


「うん。姉さんのそばにいたい気持ちはある。でも、ここで待っているだけじゃ何も変わらないから」


 ノエルは胸元のペンダントを握った。


「旅を続けていれば、いつか姉さんを氷から出す方法も見つかるかもしれない」


 ノクトは三人の顔を順番に見つめ、静かに頷いた。


「ああ。みんなで行こう」


 旅立ちの日。


 ノエルは最後に、セラフィーヌが眠る氷宮を訪れた。


 決して溶けることのない氷の中で、姉は静かに目を閉じている。


 ノエルは氷の表面にそっと手を触れた。


「待ってて。姉さん」


 短く別れを告げると、仲間たちのもとへ歩き出した。


 それから、ノクト、エリシア、ライナ、ノエルの四人はセレナリア王国を旅立った。


 アンデッドの情報を求め、いくつもの街や国境を越えていく。


 初めは、正体の分からない噂にすぎなかった。


 しかし旅を続けるほど、アンデッドに襲われた村や、住民が一夜にして消えた町の話を耳にするようになった。


 セレナリアを離れてから、しばらく経った頃。


 四人は、廃墟となった村で実際にアンデッドと遭遇した。


 青白い肌に、光を失った瞳。


 かつて村人だった者たちが、うめき声を上げながら壊れた家々の間をさまよっていた。


 さらに旅を続けた先では、魔王軍の兵士たちがアンデッドの群れと争っていた。


 魔王兵が剣を振るい、押し寄せるアンデッドを次々と斬り倒している。


 しかし、倒しても群れは止まらない。


 噛みつかれた魔王兵が地面へ倒れ、しばらくするとアンデッドとなって仲間へ襲いかかった。


「本当に、魔王軍と戦っている……」


 エリシアが息をのむ。


「やっぱり、あいつらを操っているのは魔王軍じゃない」


 ノクトは遠くの戦場を見つめながら呟いた。


 魔王軍とは異なる、新たな勢力が動き始めている。


 四人はアンデッドが現れた土地をたどり、各地で情報を集め続けた。


 旅先の村では、夜になると家々の扉が固く閉ざされた。


 道を歩く死者に見つからないよう、明かりすら消して息を潜めている。


 人々が恐れているのは、もはや魔物だけではなかった。


 昨日まで隣で笑っていた家族や友人が、アンデッドとなって帰ってくる。


 そんな恐怖が、世界中へ広がろうとしていた。


 やがて四人は、すべての噂が一つの国から始まっていることを突き止めた。


 セレナリア王国から遠く離れた国。


 ベルガルド王国。


 かつて多くの人々が暮らしていたその国は、今では無数のアンデッドに支配されているという。


 ノクトたちはベルガルド王国の国境へたどり着いた。


 門は壊され、見張りの兵士もいない。


 その向こうからは、人間のものとは思えない無数のうめき声が聞こえてくる。


 ノクトは漆黒の杖を握り、国境の先を見据えた。


「行こう」


 エリシア、ライナ、ノエルが静かに頷く。


 四人は、アンデッドに支配されたベルガルド王国へ足を踏み入れた。

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