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魔王殺しノクト  作者: 藤原 光希
雪精王国セレナリア編

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123/141

123話 姉弟の再会

いつもお読み頂きありがとうございます!とうとうセレナリア編も終盤に近づいていってます!ぜひ今回もお楽しみ下さい!

 ノエルは一人、氷の宮殿を走っていた。


「ノクト!」


 声を上げても返事はない。


 長い廊下の先に大きな扉が見えてくる。


 扉は半分ほど開いていた。


 ノエルは足を止めず、その中へ入った。


 そこは氷で作られた広い王室だった。


 床には大きな亀裂が走り、何本もの氷柱が折れている。


 壁には黒く焼けた跡も残っていた。


 ここでノクトが戦った。


 その相手が誰なのかも、ノエルには分かっていた。


「ノクト……?」


 壊れた王室を見回す。


 そのとき、玉座の前に立っていた人影が振り返った。


 長くまっすぐな銀色の髪。


 涼しげな水色の瞳。


 幼い頃よりも大人びていたが、見間違えるはずがなかった。


「姉さん……」


 セラフィーヌも驚いたようにノエルを見つめていた。


「ノエル……?」


 二人の間に沈黙が流れる。


 セラフィーヌは信じられないように目を見開いたまま、ゆっくりと近づいてきた。そして確かめるようにノエルの頬へ触れる。


「本当に、ノエルなのね……」


「うん」


「どうして、ここに……」


「姉さんに会いに来たんだ」


 セラフィーヌの目が揺れた。


 次の瞬間、ノエルの体を強く抱き締める。


「ずっと会いたかった……」


 耳元で聞こえた声は、かすかに震えていた。


「あなたが生きていると知ってから、何度も会いに行こうと思った。でも、どんな顔をして会えばいいのか分からなかったの」


「僕も会いたかったよ」


 ノエルも姉の背中へ腕を回した。


 懐かしい温もりだった。


 もう二度と会えないと思っていた姉が、今は目の前にいる。


「ノエル……」


 セラフィーヌは、なかなか弟を離そうとしなかった。


 ノエルも、このままでいたかった。


 それでも、王室の奥にある扉が目に入る。


 扉の周囲だけ、分厚い氷に覆われていた。


「姉さん。ノクトはどこ?」


 セラフィーヌの腕が止まった。


 ゆっくりとノエルから離れる。


「ここにはいないわ」


「嘘だよ」


「どうして、そう思うの?」


「この部屋に闇属性のマナが残ってる。ここでノクトと戦ったんでしょ?」


 セラフィーヌは何も答えなかった。


 その沈黙だけで十分だった。


 ノエルが奥の扉へ向かう。


 セラフィーヌは、その前に立った。


「姉さん、どいて」


「ノエル。今すぐ王都へ戻りなさい」


「ノクトを連れて帰るまで戻らないよ」


「あなたには関係のないことよ」


「ノクトは僕の仲間だよ。関係ないわけない」


 ノエルは姉の横を通ろうとした。


 その瞬間、足元から氷の槍が突き出した。


「っ……!」


 ノエルは慌てて後ろへ下がる。


 槍の先が顔のすぐ前で止まっていた。


「帰りなさい」


 セラフィーヌの声から、先ほどまでの温かさが消えていた。


「どうして?」


「あなたを巻き込みたくはないの」


「もう巻き込まれてるよ。ノクトは僕の大切な仲間なんだ」


「ノエル」


「それに、僕は姉さんを止めるためにここまで来たんだ」


 セラフィーヌの手に冷気が集まる。


 一本の氷の槍が作り出された。


「私はあなたと戦いたくないわ」


「僕だって戦いたくないよ」


「それなら帰りなさい」


「嫌だ」


 セラフィーヌが槍を振る。


 鋭い氷がノエルの横を通り抜け、背後の床へ突き刺さった。


 最初から当てるつもりがなかった。


 ノエルにも、それは分かっていた。


「脅しても無駄だよ」


「次は外さないわ」


「姉さんは僕を傷つけられないよ」


「決めつけないで」


 セラフィーヌの背後に、十数本の氷の槍が現れる。


「最後に言うわ。帰りなさい、ノエル」


「帰らない」


「どうして分かってくれないの!」


 氷の槍が一斉に放たれた。


 ノエルは王室の中を走る。


 一本目が足元へ突き刺さる。


 二本目が横の壁を砕く。


 三本目が進む先を塞いだ。


 そのどれもが、ノエルの体を外している。


 セラフィーヌは攻撃しているのではない。


 自分を王室から追い出そうとしている。


 それでもノエルは出口へ向かわなかった。


 姉のいる場所へ走っていく。


「来ないで!」


 セラフィーヌが槍を突き出す。


 ノエルは体をひねってかわした。


 切っ先が肩をかすめ、服が裂ける。


 浅い傷から血がにじんだ。


「ノエル……!」


 セラフィーヌの動きが止まる。


「僕なら大丈夫だよ」


 ノエルは傷を押さえながら、姉を見つめた。


「これくらい、すぐに治せるから」


「そういう話をしているんじゃないわ!」


「分かってるよ。姉さんは僕を逃がそうとしてる」


 セラフィーヌが息をのむ。


「僕を守りたいんでしょ?」


「そうよ。だから言うことを聞いて」


「嫌だよ」


 ノエルは首を横へ振った。


「僕はノクトを取り返す。それから姉さんも王都へ連れて帰る」


「それはできないわ」


「どうして?」


「私はもう戻れないからよ」


「姉さんは、本当に魔王軍にいたいの?」


 セラフィーヌは答えなかった。


「魔王の命令で、この国を滅ぼしたいと思ってるの?」


「黙って」


「姉さんは、そんなことを望んでないよね?」


「黙りなさい!」


 セラフィーヌの声とともに、冷気が激しく広がった。


 床を白い霜が走り、王室の壁が音を立てて凍っていく。


 ノエルは、それでも姉から目をそらさなかった。


「姉さん。もう終わりにしよう」


 ノエルが手を伸ばす。


「ノクトを解放して、一緒に王都へ戻ろう」


「戻ったところで、私は許されないわ」


「それでも僕は姉さんと一緒にいる」


「簡単に言わないで!」


 セラフィーヌの目に涙が浮かぶ。


「私は大勢の人を殺した!この国を裏切って、今度は魔王軍を連れて戻ってきたのよ!」


「知ってるよ」


「あなたの仲間だって傷つけた!」


「それも知ってる」


「だったら、どうして私を助けようとするの!」


「姉さんだからだよ!」


 ノエルの声が王室に響いた。


「何をしたって許されるなんて思ってない。でも、姉さんがこのまま壊れていくのを見たくないんだ!」


 セラフィーヌは唇を強く噛んだ。


「……帰って」


「帰らない」


「お願いだから、帰ってよ……」


 声が震えている。


 それでも、セラフィーヌは槍を構え直した。


 王室の奥。


 分厚い氷に閉ざされた部屋で、ノクトは顔を上げた。


 外から、何かが砕ける音が聞こえてくる。


 氷の槍が壁へ突き刺さる音。


 床が何度も揺れ、そのたびに天井から細かな氷が落ちてきた。


「セラフィーヌの奴、誰と戦ってるんだ……?」


 ノクトは氷に閉じ込められた両手を動かそうとした。


 だが、びくともしない。


 耳を澄ませる。


 激しい音に混じって、誰かの声が聞こえた。


「姉さん!」


 ノクトの表情が変わる。


「ノエル……?」


 聞き間違えるはずがなかった。


「おい、ノエル!そこにいるのか!」


 ノクトが叫ぶ。


 だが、分厚い氷に遮られ、その声は王室まで届かない。


「くそっ!」


 全身に力を込める。


 凍りついた腕に黒い魔力が浮かび上がった。


 しかし、すぐに弱まってしまう。


 セラフィーヌとの戦いで、魔力を使いすぎていた。


 それでもノクトは諦めなかった。


 何度も氷を壊そうとする。


 外から再び大きな音が響いた。


「ノエル!」


 ノクトは必死に体を動かした。


「聞こえるなら返事をしろ、ノエル!」


 王室ではセラフィーヌが槍を振り下ろしていた。


 ノエルは横へ飛び、床を転がる。


 振り下ろされた槍が氷の床を砕いた。


 続けて、セラフィーヌが槍を横へ払う。


 ノエルは後ろへ下がってかわした。


 その背中が開いた扉へ近づいていく。


 セラフィーヌは攻撃を続けながら、少しずつノエルを王室の外へ追いやっていた。


「帰って、ノエル!」


「嫌だ!」


「どうして!」


「今度は僕が姉さんを助けるんだ!」


 ノエルは床を蹴った。


 逃げるのではなく、セラフィーヌへ向かって走る。


「来ないで!」


 セラフィーヌが槍を突き出す。


 それでもノエルは止まらなかった。


 切っ先が胸へ迫る。


 セラフィーヌは寸前で槍をそらした。


 氷の槍がノエルの頬をかすめ、後ろの壁へ突き刺さる。


 ノエルはそのまま姉の胸へ飛び込んだ。


「っ……!」


 セラフィーヌの体を強く抱き締める。


「一緒に帰ろう、姉さん」


「離して……」


「離さない」


「ノエル……」


 槍がセラフィーヌの手から落ちた。


 床へ触れた瞬間、砕けて消える。


 セラフィーヌは動けなかった。


 弟を突き放すことも、抱き締め返すこともできない。


「もう誰も失いたくないの……」


「僕はここにいるよ」


「父さんも、母さんもいなくなった。もう何もかもが怖いのよ!」


 セラフィーヌの叫びとともに、魔力が膨れ上がった。


 激しい冷気が二人の間で弾ける。


 ノエルの体が後ろへ吹き飛ばされた。


「うっ……!」


 床を滑り、玉座の近くで止まる。


 セラフィーヌの周囲に、再び無数の氷の槍が現れた。


 その瞳から涙がこぼれている。


「どうしても帰らないのなら、動けなくするしかないわ」


 ノエルは痛む体を起こした。


 姉から目をそらさず、ゆっくりと立ち上がる。


「それでも僕は逃げないよ」


 王室の奥では、ノクトが戦いの音を聞きながら、必死に氷を壊そうとしていた。


「待ってろ、ノエル……」


 黒い魔力が、凍りついた腕を再び包む。


「今度は俺が、お前を助ける番だ」

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