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魔王殺しノクト  作者: 藤原 光希
雪精王国セレナリア編

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118/140

118話 風の不死鳥

いつもお読み頂きありがとうございます!魔王殺しノクトはまだまだ続きます!末長いお付き合いをどうぞ宜しくお願い致します!

 エルはセラフィーヌを背にかばい、剣を構えた。


 ノクトは杖を床につき、どうにか立っている。


 足に力は入らず、息をするたびに全身の傷が痛んだ。


「エル……邪魔をするな」


「聞けませんね」


「俺は仲間のところへ帰らないといけないんだ」


「今のあなたでは、ここから一歩も動けませんよ」


 エルの言うとおりだった。


 セラフィーヌとの戦いで、ノクトはほとんどの魔力を使い果たしている。


 それでも杖を握る手は緩めなかった。


「ノクト、もうやめなさい!」


 セラフィーヌが叫ぶ。


「それ以上魔力を使えば、本当に死ぬわ!」


「王宮ではまだみんなが戦ってるんだ」


 ノクトの体から黒い魔力があふれ出す。


「俺だけここで止まってるわけにはいかない」


 足元に現れた黒い魔法陣が、頼りなく明滅(めいめつ)した。


 魔力が足りない。


 ノクトは残っている力を、無理やり杖へ注ぎ込んだ。


 傷口から血があふれ、凍った床へ落ちていく。


「やめて、ノクト!」


 セラフィーヌの声を振り切るように、ノクトは杖を振り上げた。


「《冥印解放(めいいんかいほう)――漆黒龍(しっこくりゅう)、降臨》!」


 黒焔が噴き上がり、巨大な龍の姿を作り出した。


 漆黒龍が翼を広げると、崩れかけた氷の宮殿が激しく揺れた。


 だが先ほどの漆黒龍とは違う。


 翼の先は黒焔となって揺れ、体の形も安定していない。


 今にも消えてしまいそうだった。


「エル、危ないわ!」


「心配はいりませんよ」


 エルの胸にある契約の印が、翡翠色(ひすいいろ)に輝き始める。


 印に入ったひびから炎が漏れ出し、銀色の髪を包み込んだ。


 エルが剣を上へ向ける。


 広間に吹き込んでいた風が集まり、翡翠色の光へ変わっていく。


 その光はエルの背後で一つになり、巨大な不死鳥の姿を作った。


 広げた翼は左右の壁に届くほど大きく、風で作られた長い尾羽が炎のように揺れている。


 不死鳥との契約によって得た、エルの最上級魔法だった。


「《凰印解放(おういんかいほう)――翠嵐天凰(すいらんてんおう)》」


 不死鳥が翼を広げる。


 吹き荒れた風が広間に残っていた氷の破片を巻き上げた。


「エル!」


 その力を見たセラフィーヌの顔色が変わる。


「ノクトを殺さないで!」


 エルはセラフィーヌを横目で見ると、にやりと笑った。


「分かってますよ、セラさん」


 剣先がノクトへ向けられる。


「行きなさい」


 翠嵐の不死鳥が飛び立った。


「行け、漆黒龍!」


 ノクトも杖を振り下ろす。


 二体は広間の中央で正面からぶつかった。


 黒焔と翡翠色の風が弾け、床に幾つものひびが走る。


 漆黒龍が不死鳥の翼へ牙を立てた。


 風で作られた翼が崩れ、広間に散っていく。


 しかし、散った風はすぐに集まり、失われた翼を作り直した。


 不死鳥はその翼で漆黒龍を打ちつけ、鋭い爪で黒い体を引き裂く。


 黒焔が飛び散った。


「ぐっ……!」


 ノクトの体にも痛みが走る。


 杖を握る手は血で滑り、何度も力が抜けそうになった。


「まだだ……!」


 ノクトは杖を両手で握り、残された魔力を注ぎ続けた。


 漆黒龍が不死鳥へ食らいつき、そのまま壁へ叩きつける。


 氷壁が崩れ、冷たい夜風が広間へ吹き込んだ。


「押し切れぇぇぇ!」


 漆黒龍が黒焔を吐き出す。


 不死鳥の体が黒い炎に呑まれた。


 だが、エルの表情は変わらない。


 剣を横へ振ると、不死鳥を包んでいた黒焔が強い風に吹き散らされた。


「もう限界でしょう?」


「まだ……終わってない!」


 ノクトはさらに魔力を絞り出そうとした。


 その瞬間、足元の魔法陣が大きく揺らいだ。


 漆黒龍の片翼が消える。


「くそっ……!」


 黒焔を集め直そうとしても、もうノクトの体には何も残っていなかった。


 動きの止まった漆黒龍へ、不死鳥が迫る。


 鋭いくちばしが、その胸を貫いた。


 漆黒龍は苦しそうに吠えると、黒い炎となって崩れ落ちた。


 魔法陣も消え、ノクトの膝が床につく。


「そんな……」


 翠嵐の不死鳥は、勢いを落とさずノクトへ向かってきた。


 杖を構えようとしても腕が動かない。


 不死鳥が目の前まで迫る。


「エル!」


「大丈夫ですよ」


 エルが剣先をわずかにずらした。


 ノクトへ触れる直前、不死鳥の姿が崩れる。


 翡翠色の風が壁のように押し寄せ、ノクトの体を吹き飛ばした。


「ぐあっ!」


 凍った床へ叩きつけられ、そのまま何度も転がっていく。


 手を離れた杖が遠くまで滑っていった。


「ノクト!」


 セラフィーヌの叫びが広間に響く。


 ノクトは震える腕を床についた。


「まだ……帰らないと……」


 立ち上がろうとする。


 だが腕に力が入らず、再び床へ倒れ込んだ。


「もう終わりです、ノクトさん」


 エルの声が近づいてくる。


 ノクトは遠くに落ちた杖へ手を伸ばした。


「まだ、みんなが……」


 指先が床をかく。


 杖には届かない。


 視界が暗くなり、セラフィーヌの声も少しずつ遠ざかっていく。


「ノクト!しっかりして!」


 返事をしようとしたが、もう声も出なかった。


 杖へ伸ばしていた手が、力なく床へ落ちる。


 ノクトはそのまま意識を失ったのだった。

ありがとうございました!

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