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魔王殺しノクト  作者: 藤原 光希
雪精王国セレナリア編

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115/139

115話 契約の印

いつもお読み頂きありがとうございます!これからお盆休みになるので、休み中は執筆活動に励みたいと思います!

 二人の剣が正面から激しくぶつかった。


 甲高い音が響き、足元の雪が大きく舞い上がる。


「くっ……!」


 エリシアは力負けし、雪の上を滑るように後ろへ押された。


 どうにか踏みとどまる。


 だがエルの姿は既に目の前から消えていた。


「風階(ふうかい)・参《烈風(れっぷう)》」


 背後から剣が迫る。


 エリシアは振り向きながら聖剣で受け止めた。


 すぐに斬り返そうとするが、エルは一瞬で横へ回り込む。


 右から、左から、休む間もなく剣が襲いかかってきた。


 防ぐだけで精いっぱいだった。


「僕の速さについてこられる人は久しぶりです。やはり見事な剣さばきですね」


 エルの声があらゆる方向から聞こえてくる。


「ですが、今のあなたに僕は止められませんよ」


「まだ勝負はついていないわ!」


 エリシアの周囲に幾つもの光輪が現れた。


「聖環多重(せいかんたじゅう)!」


 左側の光輪が砕け散る。


 続けてその内側にある光輪にもひびが入った。


 エリシアはエルが進む先を読み、聖剣を振り抜く。


 二人の剣がぶつかり、白い火花が弾けた。エリシアはそのまま踏み込み、エルの脇腹を斬りつけた。


 血が飛び散り、白い雪を赤く染める。


 だが、傷口を翡翠色の炎が包み込んだ。


 裂けた服の下で、傷がみるみるうちに塞がっていく。


 エルは顔色一つ変えず、剣を振り下ろした。


 エリシアは聖剣で受け止める。


 二人の顔が近づいた。


「何度斬っても同じです」


「そうかしら?」


 エリシアはエルの銀髪へ目を向けた。


 傷が治った直後、毛先で燃えていた翡翠色の炎がわずかに小さくなっている。


「傷を治すたびに、その炎は弱くなっているわ」


 エルの目がわずかに細くなった。


「不死身でも魔力まで無限ではないのでしょう?」


「よく見ていますね」


 エルは剣を押し込みながら笑う。


「ですが、先に魔力が尽きるのはあなたです」


 エリシアの腕が震えた。


 エルの言うとおりだった。


 魔王兵との戦いで、既にかなりの力を使っている。


 そのうえ、エルと戦い始めてからも魔法を使い続けていた。


 残っている魔力は、もう多くない。


「あなたをこの先に行かせるわけにはいかない!」


 エリシアは力を振り絞り、エルの剣を弾き返した。


 白金の光をまとった聖剣を、何度も振るう。


 エルはそのすべてを受け流していった。


 剣が光輪を一枚、また一枚と砕いていく。


 最後の光輪が砕かれた直後、エルの剣がエリシアの腕を切り裂いた。


「うっ……!」


 鮮血が飛び散る。


 エリシアは痛みに耐えながら、後ろへ跳んだ。


「もう限界でしょう」


 エルが剣先を向けてくる。


「まだよ……」


 エリシアは傷口を押さえ、エルを睨んだ。


「ライナとノエルが今頃、戦ってくれている。ここを通すわけにはいかないの」


「その体で、まだ戦うつもりですか?」


「立っていられるうちはね」


 エリシアの背後に、七つの光紋が浮かび上がった。


 それぞれの光紋から、巨大な光の矢が作り出されていく。


「私は絶対に、ここを退かない!」


 エリシアが聖剣を振り下ろした。


「聖滅七光(せいめつしちこう)!」


 七本の光矢が、一斉に放たれた。


 エルは風をまとい、光矢の間を駆け抜ける。


 一本目と二本目をかわし、三本目を剣で弾く。


 四本目もエルの体を捉えられない。


 だが、残る三本の光矢が空中で向きを変えた。


「っ……!」


 一本がエルの肩を貫く。


 続けて、もう一本が太ももへ突き刺さった。


 動きの止まったエルへ、最後の一本が正面から迫る。


 エルは剣を振り上げ、光矢を受け止めた。


「今度こそ逃がさない!」


 エリシアの足元に、白金の光輪が現れる。


「聖輪破突(せいりんはとつ)!」


 光輪が弾けた。


 エリシアの体が一直線に加速する。


 最後の光矢を防いだばかりのエルは、剣を構え直すことができない。


 白金の光をまとった聖剣が、その胸を深く貫いた。


 エルの口から血がこぼれる。


「届いた……!」


 だが、エルは笑っていた。


「捕まえました」


 胸を貫かれたまま、エリシアの手首をつかむ。


 翡翠色の炎が傷口を包み、聖剣の刃をのみ込むように肉が塞がり始めた。


 エリシアは剣を引き抜こうとする。


 だが、抜けない。


「しまっ……!」


 エルの剣が、エリシアの首へ振り抜かれた。


 エリシアはとっさに身をひねる。


 刃は首を外れたが、肩口を深く切り裂いた。


「うっ……!」


 全身から力が抜けそうになる。


 それでもエリシアは聖剣から手を離さなかった。


 すぐ目の前で、エルの胸が翡翠色の炎に包まれている。


 炎が傷口へ集まるたび、その奥で小さな紋章が脈打っていた。


 不死鳥とエルをつないでいる契約の印。


 エリシアの瞳に白金の光が宿る。


「見つけたわ」


「何を……?」


「その力のつながりよ!」


 エリシアは空いている手を、エルの胸へ押し当てた。


「聖光解鎖(せいこうかいさ)!」


 乾いた音とともに、契約の印が白く弾けた。


「ぐっ……!」


 エルが初めて苦しそうな声を上げる。


 翡翠色の炎が大きく乱れ、一瞬だけ消えた。


 エリシアは胸から聖剣を引き抜き、後ろへ跳んだ。


 エルの胸から血が流れ落ちる。


 再び翡翠色の炎が現れたが、先ほどまでの勢いはない。


 胸に浮かぶ契約の印には、細いひびが入っていた。


「何をしたのですか……?」


 エルの顔から、笑みが消えていた。


「不死鳥との契約を解こうとしたのよ」


 エリシアは傷ついた肩を押さえながら、聖剣を構え直した。


「完全には切れなかったみたいだけど、その印を壊せば傷は治せなくなる」


 エルは胸の印に手を当てた。


 翡翠色の炎が、不安定に揺れている。


 エリシアは剣先をエルへ向けた。


「次はその印ごと斬るわ」

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