115話 契約の印
いつもお読み頂きありがとうございます!これからお盆休みになるので、休み中は執筆活動に励みたいと思います!
二人の剣が正面から激しくぶつかった。
甲高い音が響き、足元の雪が大きく舞い上がる。
「くっ……!」
エリシアは力負けし、雪の上を滑るように後ろへ押された。
どうにか踏みとどまる。
だがエルの姿は既に目の前から消えていた。
「風階・参《烈風》」
背後から剣が迫る。
エリシアは振り向きながら聖剣で受け止めた。
すぐに斬り返そうとするが、エルは一瞬で横へ回り込む。
右から、左から、休む間もなく剣が襲いかかってきた。
防ぐだけで精いっぱいだった。
「僕の速さについてこられる人は久しぶりです。やはり見事な剣さばきですね」
エルの声があらゆる方向から聞こえてくる。
「ですが、今のあなたに僕は止められませんよ」
「まだ勝負はついていないわ!」
エリシアの周囲に幾つもの光輪が現れた。
「聖環多重!」
左側の光輪が砕け散る。
続けてその内側にある光輪にもひびが入った。
エリシアはエルが進む先を読み、聖剣を振り抜く。
二人の剣がぶつかり、白い火花が弾けた。エリシアはそのまま踏み込み、エルの脇腹を斬りつけた。
血が飛び散り、白い雪を赤く染める。
だが、傷口を翡翠色の炎が包み込んだ。
裂けた服の下で、傷がみるみるうちに塞がっていく。
エルは顔色一つ変えず、剣を振り下ろした。
エリシアは聖剣で受け止める。
二人の顔が近づいた。
「何度斬っても同じです」
「そうかしら?」
エリシアはエルの銀髪へ目を向けた。
傷が治った直後、毛先で燃えていた翡翠色の炎がわずかに小さくなっている。
「傷を治すたびに、その炎は弱くなっているわ」
エルの目がわずかに細くなった。
「不死身でも魔力まで無限ではないのでしょう?」
「よく見ていますね」
エルは剣を押し込みながら笑う。
「ですが、先に魔力が尽きるのはあなたです」
エリシアの腕が震えた。
エルの言うとおりだった。
魔王兵との戦いで、既にかなりの力を使っている。
そのうえ、エルと戦い始めてからも魔法を使い続けていた。
残っている魔力は、もう多くない。
「あなたをこの先に行かせるわけにはいかない!」
エリシアは力を振り絞り、エルの剣を弾き返した。
白金の光をまとった聖剣を、何度も振るう。
エルはそのすべてを受け流していった。
剣が光輪を一枚、また一枚と砕いていく。
最後の光輪が砕かれた直後、エルの剣がエリシアの腕を切り裂いた。
「うっ……!」
鮮血が飛び散る。
エリシアは痛みに耐えながら、後ろへ跳んだ。
「もう限界でしょう」
エルが剣先を向けてくる。
「まだよ……」
エリシアは傷口を押さえ、エルを睨んだ。
「ライナとノエルが今頃、戦ってくれている。ここを通すわけにはいかないの」
「その体で、まだ戦うつもりですか?」
「立っていられるうちはね」
エリシアの背後に、七つの光紋が浮かび上がった。
それぞれの光紋から、巨大な光の矢が作り出されていく。
「私は絶対に、ここを退かない!」
エリシアが聖剣を振り下ろした。
「聖滅七光!」
七本の光矢が、一斉に放たれた。
エルは風をまとい、光矢の間を駆け抜ける。
一本目と二本目をかわし、三本目を剣で弾く。
四本目もエルの体を捉えられない。
だが、残る三本の光矢が空中で向きを変えた。
「っ……!」
一本がエルの肩を貫く。
続けて、もう一本が太ももへ突き刺さった。
動きの止まったエルへ、最後の一本が正面から迫る。
エルは剣を振り上げ、光矢を受け止めた。
「今度こそ逃がさない!」
エリシアの足元に、白金の光輪が現れる。
「聖輪破突!」
光輪が弾けた。
エリシアの体が一直線に加速する。
最後の光矢を防いだばかりのエルは、剣を構え直すことができない。
白金の光をまとった聖剣が、その胸を深く貫いた。
エルの口から血がこぼれる。
「届いた……!」
だが、エルは笑っていた。
「捕まえました」
胸を貫かれたまま、エリシアの手首をつかむ。
翡翠色の炎が傷口を包み、聖剣の刃をのみ込むように肉が塞がり始めた。
エリシアは剣を引き抜こうとする。
だが、抜けない。
「しまっ……!」
エルの剣が、エリシアの首へ振り抜かれた。
エリシアはとっさに身をひねる。
刃は首を外れたが、肩口を深く切り裂いた。
「うっ……!」
全身から力が抜けそうになる。
それでもエリシアは聖剣から手を離さなかった。
すぐ目の前で、エルの胸が翡翠色の炎に包まれている。
炎が傷口へ集まるたび、その奥で小さな紋章が脈打っていた。
不死鳥とエルをつないでいる契約の印。
エリシアの瞳に白金の光が宿る。
「見つけたわ」
「何を……?」
「その力のつながりよ!」
エリシアは空いている手を、エルの胸へ押し当てた。
「聖光解鎖!」
乾いた音とともに、契約の印が白く弾けた。
「ぐっ……!」
エルが初めて苦しそうな声を上げる。
翡翠色の炎が大きく乱れ、一瞬だけ消えた。
エリシアは胸から聖剣を引き抜き、後ろへ跳んだ。
エルの胸から血が流れ落ちる。
再び翡翠色の炎が現れたが、先ほどまでの勢いはない。
胸に浮かぶ契約の印には、細いひびが入っていた。
「何をしたのですか……?」
エルの顔から、笑みが消えていた。
「不死鳥との契約を解こうとしたのよ」
エリシアは傷ついた肩を押さえながら、聖剣を構え直した。
「完全には切れなかったみたいだけど、その印を壊せば傷は治せなくなる」
エルは胸の印に手を当てた。
翡翠色の炎が、不安定に揺れている。
エリシアは剣先をエルへ向けた。
「次はその印ごと斬るわ」
お読み頂きありがとうございました!もしよろしければポイント評価、ブックマーク登録をよろしくお願い致します!




