114話 不死身のエル
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エルと向き合った瞬間、エリシアの背中を冷たい汗が伝った。以前戦ったときとは比べものにならない。少し離れていても分かるほど、エルの魔力は強くなっていた。
「ライナ、ノエル。気をつけて。あいつは私が相手をするわ」
「分かった」
「うん」
エルは三人の顔を順番に見たあと、辺りを見回した。
「ノクトさんはいないようですね」
「あなたに教える必要はないわ」
「そうですか」
エルは笑顔を崩さないまま、後ろにいる魔王兵たちへ目を向けた。
「ここは僕が引き受けます。皆さんは二手に分かれて、王宮へ向かってください」
魔王兵たちが大通りの左右に分かれていく。
「行かせないわ!」
エリシアは聖剣を振り抜いた。
「光華一閃!」
まぶしい光の斬撃が、魔王兵たちへ飛んでいく。
だが、その前にエルが立ちはだかった。
剣を一度振っただけで、光の斬撃が真っ二つに切り裂かれる。
「そんな……」
「以前の僕と同じだと思わないでください」
エルの銀髪から、翡翠色の炎が大きく立ち上がった。
「僕は不死鳥と契約し、新たな力を手に入れました」
エリシアは動揺を押し殺し、聖剣を構え直した。
「どれだけ強くなっていても、ここは通さないわ」
「残念です。僕もできれば、皆さんとは戦いたくなかったのですが」
「騎士を何人も斬っておいて、よくそんなことが言えるよ!」
ライナが怒りをにじませる。
エルは血に濡れた剣を静かに構えた。
「命令ですから」
エルの足元に風が巻き起こる。
「風階・参《烈風》」
次の瞬間、その姿が消えた。
「エリシア!」
ライナの声が響いたときには、エルがエリシアの目の前にいた。
エリシアは反射的に聖剣を持ち上げる。
二本の剣が激しくぶつかり、エリシアの体が後ろへ押し飛ばされた。
「くっ……!」
「エリシアから離れて!」
ライナがエルの横へ飛び込む。
「烈焔轟拳!」
炎をまとった拳が、エルの顔へ迫った。
だが、その拳は空を切る。
エルはすでにライナの背後へ回り込んでいた。
「遅いです」
振り下ろされた剣が、ライナの肩へ迫る。
「ライナ!」
ノエルが両手を前へかざした。
「氷晶障壁!」
二人の間に氷の壁が現れ、エルの剣を受け止めた。
氷の壁に大きなひびが走る。
「助かったよ、ノエル!」
ライナが飛びのいた瞬間、エリシアが踏み込んだ。
「聖刃一閃!」
白い光の刃が一直線に走る。
エルは体をひねって避けようとしたが、光の刃が左腕を深く切り裂いた。
鮮血が雪の上へ飛び散る。
だがエルは痛がる様子もなく、自分の傷へ目を向けた。
銀髪の先で揺れていた翡翠色の炎が、傷口を包み込む。
裂けていた傷がみるみるうちに塞がり、流れていた血も止まった。
わずか数秒で、傷は跡形もなく消えていた。
「傷が……治った?」
ノエルが目を見開く。
エルは何事もなかったように剣を構え直した。
「この炎がある限り、僕は何度斬られても死にませんよ」
「本当に不死身ってこと……?」
ノエルの声が震える。
「そんなの、どうやって倒せばいいの……?」
ライナも信じられない様子でエルを見つめていた。
エリシアは聖剣を握り直す。
「なら、動けなくなるまで攻撃するだけよ」
「威勢がいいですね」
エルの姿が再び消えた。
だが、今度はエリシアも目を逸らさなかった。
右から雪を蹴る音が聞こえる。
「そこね!」
振り向きながら聖剣を振ると、エルの剣と激しくぶつかった。
「ライナ!」
「任せて!」
ライナがエルの脇腹へ拳を放つ。
エルは後ろへ跳んで避けた。
だがその着地点には、すでにエリシアが踏み込んでいる。
二人の攻撃が休む間もなく襲いかかった。
エリシアの斬撃を受け流し、ライナの拳を紙一重でかわしていく。
それでも、二人の攻撃はエルを捉えられない。
「二人とも!」
ノエルが両手を前へかざした。
「雪精同調!」
淡い光をまとった雪の精たちが現れ、エリシアとライナの背中へ溶け込んだ。
乱れていた呼吸が整い、重くなっていた体が軽くなる。
「ありがとう、ノエル!」
ライナが一気に間合いを詰めた。
「灼魂連砕!」
炎をまとった拳が、エルへ次々と襲いかかる。
エルは剣で受け流していくが、すべては防ぎきれない。
一発の拳が脇腹へ突き刺さった。
「今だよ!」
体勢を崩したエルへ、エリシアが聖剣を振り抜く。
「聖刃連鎖!」
いくつもの白い斬撃が、エルの体を切り裂いた。
その直後、ライナの最後の拳が胸へ叩き込まれる。
大きな爆発が起こり、エルの体が通り沿いの建物へ吹き飛んだ。
壁を突き破り、瓦礫の中へ消えていく。
「やった……?」
ノエルが壊れた建物を見つめる。
「まだよ」
エリシアは聖剣を下ろさなかった。
崩れた壁の奥で、翡翠色の炎が揺れている。
瓦礫を押しのけ、エルが立ち上がった。
服は裂け、全身から血を流している。
それでも傷は翡翠色の炎に包まれ、次々と塞がっていった。
エルは傷がすべて消えると、再び剣を構えた。
「三人とも、以前より強くなりましたね」
「今ので倒れないなんて……」
ライナの額を汗が伝う。
「ですが、僕を倒すことに夢中になっていていいのですか?」
エルの言葉に、エリシアは大通りの先へ目を向けた。
二手に分かれた魔王兵たちは、すでに大通りから姿を消している。
「まさか……」
「僕の役目は、皆さんをここで足止めすることです」
エルは笑みを浮かべた。
「もう十分に時間は稼げました」
エリシアは唇を噛んだ。
最初からエルを倒すことばかり考えさせるのが狙いだったのだ。
このまま三人で戦い続ければ、魔王兵たちが王宮へたどり着いてしまう。
だが、エルを放っておけば背後から追いつかれる。
「ライナ、ノエル。二人は王宮へ向かって」
「エリシアはどうするの?」
「私がエルを止めるわ」
「一人じゃ危険だよ!」
ライナが声を上げる。
「エルの速さに正面からついていけるのは、私だけよ。二人は魔王兵を追って」
「でも……」
「このまま三人でここに残るほうが危険よ。王宮には国王もたくさんの人たちもいるわ」
エリシアは二人をまっすぐ見つめた。
「お願い。二人にしか頼めないの」
ライナは拳を強く握った。
しばらく迷ったあと、ゆっくりとうなずく。
「絶対に追いついてきてね」
「ええ」
「約束だからね」
ノエルも不安そうにエリシアを見つめた。
「無茶しないで」
「大丈夫よ。ここで死ぬつもりはないわ」
ライナとノエルが王宮へ向かって走り出す。
「行かせませんよ」
エルが二人の後を追おうとした。
その瞬間、エリシアの体から白金の光が広がった。
「聖圧光臨!」
重い光の圧力が、エルの全身へ叩きつけられる。
「っ……!」
エルの足が雪へ沈み、周りの地面に亀裂が走った。
どれだけ速くても、一歩も動くことができない。
その間に、ライナとノエルは路地の向こうへ消えていった。
エリシアは魔法を解き、荒い息を吐いた。
すでに体は限界に近い。
それでも、聖剣を握る手から力は抜かなかった。
「ここからが本番よ」
エルの銀髪から、翡翠色の炎が激しく立ち上がる。
「一人で僕を止められると思っているのですか?」
エリシアは剣先をエルへ向けた。
「当たり前よ」
白金の光が、聖剣を包み込む。
「さあ、粛清を始めるわ」
「僕は死にませんよ」
「なら、何度でも斬るだけよ」
「ふふっ」
エルが楽しそうに笑った。
二人の間を、冷たい風が吹き抜ける。
次の瞬間、エルが雪を蹴った。
エリシアも聖剣を握り締め、真正面から駆け出した。
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