112話 それぞれの戦場へ
少し投稿が遅くなりましたが!すいません!
ノエルがすべてを話し終えると、王室は静寂に包まれた。
聞こえるのはライナのすすり泣く声だけだった。
レイモンドは苦しそうに顔を伏せ、深く頭を下げる。
「すまなかった。王家がもっと早く真実に気づいていれば、君たち家族は……」
「謝ってほしくて、話したわけではありません」
ノエルは涙を拭い、まっすぐ顔を上げた。
「姉さんのしたことが許されないのは分かっています。それでも姉さんは、最初から悪い人だったわけじゃない。それを皆さんに知ってほしかったんです」
ノクトは静かにうなずいた。
「分かった。俺たちがセラフィーヌを止める」
そして、ノエルをまっすぐ見つめる。
「今度こそ、ノエルのところへ連れて帰るよ」
「ノクト……ありがとう」
ノエルは涙を浮かべながら微笑んだ。
ノクトなら本当に姉を連れ戻してくれる。
そう信じているような笑顔だった。
レイモンドはしばらくノエルを見つめたあと、静かに立ち上がった。
「皆、ここへ着いたばかりで疲れているだろう。今日はもう休みなさい。部屋を用意させてある」
ノクトたちは騎士に案内され、王宮の客室へ向かった。
案内された部屋は、白と水色を基調とした落ち着いた造りだった。
暖炉には火が灯り、大きな窓の向こうでは雪が静かに降っている。長旅で冷えた体を休めるには、十分すぎるほど暖かな部屋だった。
ノクトたちは、暖炉を囲むように腰を下ろした。
しばらく誰も口を開かなかった。
やがてノクトが、意を決したように話し始める。
「みんなに話しておきたいことがある。俺が魔王軍にいた頃、セラフィーヌとはよく二人で任務に出ていたんだ」
ノエルが驚いたように顔を上げた。
「姉さんと?」
「ああ。仲も悪くなかった」
「それで、何が言いたいの?」
エリシアの問いに、ノクトは真剣な表情で答えた。
「俺なら、誰の血も流さずにセラフィーヌをここへ連れてこられるかもしれない。あいつは好戦的だけど、話の通じない奴じゃない。だから俺一人で、セラフィーヌのところへ行ってくる」
「一人で?」
エリシアは勢いよく立ち上がった。
「駄目よ。危険すぎるわ」
「大勢で行けば、セラフィーヌも警戒する。話し合う前に戦いになるかもしれない」
「それは昔のセラフィーヌでしょ?今のあの人が、あなたの話を聞いてくれるとは限らないわ」
「分かってる。それでも、最初から武器を向けたくないんだ」
「なら、私も一緒に行くわ」
「それは駄目だ。エリシアを見れば、セラフィーヌは敵だと判断するかもしれない。俺一人の方が話しやすい」
「話を聞いてくれなかったら、どうするの?」
「そのときは、力ずくでも連れてくる。大丈夫だ。俺はあいつより強い」
「一人で闇魔法を使えるようになったからって、調子に乗りすぎよ!」
エリシアはノクトを睨みつけた。
その瞳に浮かんでいたのは、怒りよりも強い不安だった。
「あなた一人には行かせないわ」
「どうして?」
「だって……」
心配だから。
その一言が喉まで出かかったのに、どうしても声にならなかった。
エリシアが黙り込むと、ノクトは安心させるように笑った。
「本当に大丈夫だ。もう一人でも完全な闇魔法を使える。前みたいに、エリシアの力を借りなくても戦えるんだ。それに一人なら戦いに気も使わない。」
その言葉を聞いた瞬間、エリシアの表情が曇った。
だが、ノクトは気づかなかった。
「もう勝手にしなさい!」
エリシアは顔を背け、そのままソファへ座った。
ライナとノエルが、気まずそうに二人を見比べる。
しばらくして、エリシアがノエルへ視線を向けた。
「ノエルは、それでいいの?お姉さんに会いたくないの?」
ノエルは膝の上で両手を握りしめた。
「もちろん会いたいよ。でも……怖いんだ」
「怖い?」
「姉さんが僕を受け入れてくれなかったらって考えると、怖い。姉さんの中に、僕の知っている姉さんがもういなかったら……」
ノエルの声が小さく震えた。
誰も何も言えなくなり、部屋に重い沈黙が落ちる。
そのときだった。
扉が激しく叩かれ、返事を待たずに一人の騎士が飛び込んできた。
「大変です!陛下がお呼びです!」
騎士は息を切らしながら叫んだ。
「魔王軍が王都へ攻め込んできました!」
ノクトとエリシアの口論は、そこで途切れた。
ノクトたちは騎士に連れられ、急いで王室へ戻った。
レイモンドは険しい表情で、騎士たちから報告を受けていた。
「敵はすでに王都へ侵入し、騎士団を次々と倒している。相当に強い剣士が指揮を取っているらしい。」
「相当に強い剣士?」
ライナが聞き返した。
「ああ。報告によれば、誰も歯が立たないそうだ」
レイモンドはノクトたちへ向き直った。
「頼む。この国を守るため、君たちにも力を貸してほしい」
ノクトはエリシアを見た。
「王都へ来たのは剣士だ。セラフィーヌじゃない」
「まさか、今から行くつもりなの?」
「ああ。俺は予定どおり、セラフィーヌを説得しに行く。エリシアたちは王都を守ってくれ」
「ノクト!」
ノエルが声を上げた。
「僕も行くよ。姉さんのところへ連れていって」
ノクトは首を横に振った。
「まだ心の準備ができていないんだろ?無理をしなくていい。それに王都には、負傷した騎士や住民がいる。お前の力が必要だ」
「でも……」
「大丈夫だ。必ずセラフィーヌを連れて帰る。それまでに、姉さんに何を伝えたいのか考えておくんだ」
ノエルは迷いながらも、ゆっくりとうなずいた。
「……分かった。姉さんをお願い、ノクト」
「ああ。任せろ」
エリシアは納得していない様子だった。
それでも今は、言い争っている場合ではない。
「王都は私たちが守るわ」
エリシアはノクトをまっすぐ見つめた。
「でも、絶対に戻ってきなさい。話はそれからよ」
「分かってる」
ノクトは一人で氷の宮殿へ。
エリシア、ライナ、ノエルは、王都を襲う剣士のもとへ。
四人は二手に分かれ、それぞれの戦場へ走り出した。
その頃、雪に覆われた王都の大通りでは――六魔星エル=シェイドが、血のついた剣を静かに構え直していた。
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