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魔王殺しノクト  作者: 藤原 光希
雪精王国セレナリア編

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112/139

112話 それぞれの戦場へ

少し投稿が遅くなりましたが!すいません!

 ノエルがすべてを話し終えると、王室は静寂に包まれた。


 聞こえるのはライナのすすり泣く声だけだった。


 レイモンドは苦しそうに顔を伏せ、深く頭を下げる。


「すまなかった。王家がもっと早く真実に気づいていれば、君たち家族は……」


「謝ってほしくて、話したわけではありません」


 ノエルは涙を拭い、まっすぐ顔を上げた。


「姉さんのしたことが許されないのは分かっています。それでも姉さんは、最初から悪い人だったわけじゃない。それを皆さんに知ってほしかったんです」


 ノクトは静かにうなずいた。


「分かった。俺たちがセラフィーヌを止める」


 そして、ノエルをまっすぐ見つめる。


「今度こそ、ノエルのところへ連れて帰るよ」


「ノクト……ありがとう」


 ノエルは涙を浮かべながら微笑んだ。


 ノクトなら本当に姉を連れ戻してくれる。


 そう信じているような笑顔だった。


 レイモンドはしばらくノエルを見つめたあと、静かに立ち上がった。


「皆、ここへ着いたばかりで疲れているだろう。今日はもう休みなさい。部屋を用意させてある」


 ノクトたちは騎士に案内され、王宮の客室へ向かった。


 案内された部屋は、白と水色を基調とした落ち着いた造りだった。


 暖炉には火が灯り、大きな窓の向こうでは雪が静かに降っている。長旅で冷えた体を休めるには、十分すぎるほど暖かな部屋だった。


 ノクトたちは、暖炉を囲むように腰を下ろした。


 しばらく誰も口を開かなかった。


 やがてノクトが、意を決したように話し始める。


「みんなに話しておきたいことがある。俺が魔王軍にいた頃、セラフィーヌとはよく二人で任務に出ていたんだ」


 ノエルが驚いたように顔を上げた。


「姉さんと?」


「ああ。仲も悪くなかった」


「それで、何が言いたいの?」


 エリシアの問いに、ノクトは真剣な表情で答えた。


「俺なら、誰の血も流さずにセラフィーヌをここへ連れてこられるかもしれない。あいつは好戦的だけど、話の通じない奴じゃない。だから俺一人で、セラフィーヌのところへ行ってくる」


「一人で?」


 エリシアは勢いよく立ち上がった。


「駄目よ。危険すぎるわ」


「大勢で行けば、セラフィーヌも警戒する。話し合う前に戦いになるかもしれない」


「それは昔のセラフィーヌでしょ?今のあの人が、あなたの話を聞いてくれるとは限らないわ」


「分かってる。それでも、最初から武器を向けたくないんだ」


「なら、私も一緒に行くわ」


「それは駄目だ。エリシアを見れば、セラフィーヌは敵だと判断するかもしれない。俺一人の方が話しやすい」


「話を聞いてくれなかったら、どうするの?」


「そのときは、力ずくでも連れてくる。大丈夫だ。俺はあいつより強い」


「一人で闇魔法を使えるようになったからって、調子に乗りすぎよ!」


 エリシアはノクトを睨みつけた。


 その瞳に浮かんでいたのは、怒りよりも強い不安だった。


「あなた一人には行かせないわ」


「どうして?」


「だって……」


 心配だから。


 その一言が喉まで出かかったのに、どうしても声にならなかった。


 エリシアが黙り込むと、ノクトは安心させるように笑った。


「本当に大丈夫だ。もう一人でも完全な闇魔法を使える。前みたいに、エリシアの力を借りなくても戦えるんだ。それに一人なら戦いに気も使わない。」


 その言葉を聞いた瞬間、エリシアの表情が曇った。


 だが、ノクトは気づかなかった。


「もう勝手にしなさい!」


 エリシアは顔を背け、そのままソファへ座った。


 ライナとノエルが、気まずそうに二人を見比べる。


 しばらくして、エリシアがノエルへ視線を向けた。


「ノエルは、それでいいの?お姉さんに会いたくないの?」


 ノエルは膝の上で両手を握りしめた。


「もちろん会いたいよ。でも……怖いんだ」


「怖い?」


「姉さんが僕を受け入れてくれなかったらって考えると、怖い。姉さんの中に、僕の知っている姉さんがもういなかったら……」


 ノエルの声が小さく震えた。


 誰も何も言えなくなり、部屋に重い沈黙が落ちる。


 そのときだった。


 扉が激しく叩かれ、返事を待たずに一人の騎士が飛び込んできた。


「大変です!陛下がお呼びです!」


 騎士は息を切らしながら叫んだ。


「魔王軍が王都へ攻め込んできました!」


 ノクトとエリシアの口論は、そこで途切れた。


 ノクトたちは騎士に連れられ、急いで王室へ戻った。


 レイモンドは険しい表情で、騎士たちから報告を受けていた。


「敵はすでに王都へ侵入し、騎士団を次々と倒している。相当に強い剣士が指揮を取っているらしい。」


「相当に強い剣士?」


 ライナが聞き返した。


「ああ。報告によれば、誰も歯が立たないそうだ」


 レイモンドはノクトたちへ向き直った。


「頼む。この国を守るため、君たちにも力を貸してほしい」


 ノクトはエリシアを見た。


「王都へ来たのは剣士だ。セラフィーヌじゃない」


「まさか、今から行くつもりなの?」


「ああ。俺は予定どおり、セラフィーヌを説得しに行く。エリシアたちは王都を守ってくれ」


「ノクト!」


 ノエルが声を上げた。


「僕も行くよ。姉さんのところへ連れていって」


 ノクトは首を横に振った。


「まだ心の準備ができていないんだろ?無理をしなくていい。それに王都には、負傷した騎士や住民がいる。お前の力が必要だ」


「でも……」


「大丈夫だ。必ずセラフィーヌを連れて帰る。それまでに、姉さんに何を伝えたいのか考えておくんだ」


 ノエルは迷いながらも、ゆっくりとうなずいた。


「……分かった。姉さんをお願い、ノクト」


「ああ。任せろ」


 エリシアは納得していない様子だった。


 それでも今は、言い争っている場合ではない。


「王都は私たちが守るわ」


 エリシアはノクトをまっすぐ見つめた。


「でも、絶対に戻ってきなさい。話はそれからよ」


「分かってる」


 ノクトは一人で氷の宮殿へ。


 エリシア、ライナ、ノエルは、王都を襲う剣士のもとへ。


 四人は二手に分かれ、それぞれの戦場へ走り出した。


 その頃、雪に覆われた王都の大通りでは――六魔星エル=シェイドが、血のついた剣を静かに構え直していた。

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