100話 雪女との戦い(1)
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雪女が向かった先は、集落から離れた山奥だった。
吹雪の中を進んだ先に、ぽっかりと口を開けた氷の洞窟があった。入口には鋭い氷柱がいくつも垂れ下がり、まるで獣の牙のように見える。
雪女は眠ったノクトを抱えたまま、その洞窟の中へ入っていった。
洞窟の内側は、外よりもさらに冷たかった。壁も床も天井も青白い氷に覆われており、奥へ進むたびに足元から命を吸われるような寒さが這い上がってくる。そして洞窟の奥には、広い空間があった。
そこには何人もの男たちが、氷の柱に閉じ込められていた。完全に凍っているわけではない。薄い氷の中で、かすかに胸が上下している。
まだ生きている。
雪女はノクトを空いた氷の台座の上に寝かせると、静かに微笑んだ。
「あなたもここで美しく眠りなさい」
その頃、少し離れた岩の陰から、エリシアたちが洞窟の奥を覗き込んでいた。
「見つけたわね……」
エリシアが小さく呟く。
ライナは氷に閉じ込められた男たちを見て、心配そうな表情を浮かべていた。
「みんな、生きてるよね…」
ノエルはフードの奥で表情を曇らせながら、静かに杖を構えた。
「早く助けよう。長くはもたないかもしれない」
三人は息を殺しながら、雪女の巣へと足を踏み入れたのだった。その時、雪女がゆっくりと振り返った。
「そこにいるのは分かっているわ」
エリシアたちは息を呑んだ。隠れていたはずだった。それなのに雪女はこちらを見ないまま気配に気づいていた。
「出てきなさい。せっかくここまで来たんだから」
エリシアは舌打ちをすると、岩陰から姿を現した。ライナとノエルもそれに続く。
「ノクトを返してもらうわ。それと、ここにいる人たちも全員解放してもらう」
「嫌よ。せっかく集めたのに」
雪女が微笑んだ。その笑みは綺麗だった。だが背筋が凍るほど冷たかった。
次の瞬間、洞窟の壁から氷の槍が何本も飛び出した。
「危ない!」
ライナが前に出て、拳で氷の槍を叩き砕く。砕けた氷がキラキラと宙に舞った。
「なかなかやるじゃない」
雪女が指を鳴らす。すると地面から冷気が噴き上がり、ライナの足元を凍らせた。
「うわっ!?足が!」
「ライナ!」
ノエルが魔法を発動する。
「精霊よ、凍てつく鎖を解いて!」
淡い光がライナの足元を包み込み、氷が音を立てて割れた。
「ありがとう、ノエル!」
「油断しないで。あの雪女、思ったより強い」
エリシアは剣を抜いた。刃に光のマナが宿る。
「なら一気に終わらせるわ」
エリシアが地面を蹴り、雪女へ斬りかかった。だが雪女の身体は白い霧のように揺らぎ、剣は空を斬った。
「なっ……!」
「私は雪そのもの。簡単には斬れないわ」
雪女の腕が伸びる。氷の爪がエリシアの頬をかすめた。
「くっ!」
エリシアは後ろに跳んだ。頬から一筋の血が流れる。
その時だった。
洞窟の奥から、冷たい笑い声が響いた。
「ふふふ……」
「侵入者だ」
「男じゃないのが残念ね」
エリシアたちは顔を上げた。
氷の柱の陰から、別の雪女たちが姿を現した。一人ではない。二人、三人、四人。白い髪を揺らしながら、何人もの雪女がゆっくりと歩いてくる。
「嘘でしょ……」
ライナが拳を構えながら呟いた。
最初の雪女が微笑む。
「ここは私一人の家じゃないの。私たちの家よ。」
洞窟の空気が一気に重くなった。冷気が増し、壁の氷がきしむ。
ノクトは氷の台座の上で、まだ深く眠っていた。
「ノクトを起こす時間はなさそうね」
エリシアが剣を構え直す。
「ライナ、前に出て。ノエルは後ろから支援。私が一番強そうなやつを斬る」
「任せて!」
「うん。絶対にみんなを守る」
雪女たちが一斉に手を掲げた。無数の氷の刃が洞窟の天井に生まれる。
そして次の瞬間、それらが雨のように降り注いだ。
「来るわよ!」
エリシアの叫びと同時に、三人は雪女たちとの戦いを始めたのだった。
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