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Procursator   作者: 来栖れな
第7章 焦げた真実、残された罪跡
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7-2

この章みんなごちゃごちゃ考えこんでて、めっちゃ重いです。(まだこれでもマシな方なんだけど、)

ご注意下さい。


柔らかな空色を時折白い雲が風に乗って通り過ぎていく。

さらさらとその風に釣られ音を立てる平原は、地面の青々とした快活な草花が北に向かって緩やかな登り坂を描き、この地を緑に染め上げる。

それはここより南、つい3週間ほど前にいた砂漠により近い場所では見られなかった色だ。

砂漠との境目、この英雄平原の入り口はもっと乾いた茶に近い緑の草が地を簡素に生えていただけだった。

ここはこの大陸において最も広大な土地を有して横たわる英雄平原の丁度真ん中辺りにある大きな湖。

ひたひたと湖面を揺らす素足の感覚が、妙にリアルで擽ったい。


ぼんやりとした意識が徐々に晴れやかになるのと同じ頃、視線の先にもうすっかり見慣れてしまった琥珀色の瞳が目に入る。

いつも暖かな光を穏やかに宿す瞳が何故かほんのり陰り、苦しげに眉が寄せられている。

-前の舞を終え湖から上がった時もこんな顔してたな…

そんなことをふと思った私に焦れたように、湖と陸とのギリギリで待っていたテヤンが私へと腕を伸ばし、いつもよりちょっと乱暴な手つきで私の手首を掴み、陸の方へと引っ張っり戻す。


「終わったんだろ?」


もう湖には用がないとでも言いたげないつもよりさらにぶっきら棒な硬い声でそう言いながら、私のことを水場から引き離すようにグイグイと手を引いて歩いていく。

気がついていないのだろう。

私の手首を掴む掌が異様に熱く、じくじくと焼かれるような体温で握り込まれ、痛い。

-…なんでテヤンはこんなに苦しそうなんだろう?

テヤンは私がこの舞を踊るのが嫌…なのだろう。

正直、舞を踊っている時のことを何も覚えていないし、何も感じていない私には、彼が何故そんなに舞を良く思っていないのかわからない。

ただ彼は前の時も湖のギリギリで私を待っていて、こんな風にズンズンと私の手を引いて湖から距離をとった。

怒っているのとはどこか違うような…何かをグッと堪えているようなそんな痛々しく、苦しそうな背中が目の前にはあった。


「テヤン……手首が痛いわ。」


「っ!?…………悪い。」


私の声にハッとしたように身体を強張らせたのに、それでもテヤンの骨張った大きな手は私の手首から離されない。

ほんの少し緩められただけ。

まるで触れていないと不安だとでも言うように…


「狼の子よ、シレーヌを困らせるでない。」


いつの間に近寄って来ていたのか。

ターニャがテヤンのすぐ真横に音もなく降り立ち、その棒のように細い手をテヤンの腕に添え、いとも簡単に私からそれを引き剥がす。

拘束のなくなった自分の手首にくっきりと火傷のようなテヤンの手形が残っている。

それを隠すように自分の反対の手首で覆い隠し、チラリっとテヤンの表情を窺うように上目遣いに探れば、テヤンとしっかりと目が合ってしまった。

ギュッと顰められた後悔の滲ませた瞳。

ふいっと私から逃げる様に視線を外し、そのままザッザッと1人歩いて行ってしまう。


急に近づいて触れて来たと思えば、何かに怯え、拒絶する様に離れていく…

ここ数週間ずっと続く歪な距離感。


「案外彼奴も青いよのぉ〜」


ターニャがその背を視線で追いながら、呆れと愉悦を含んだ少しスレた笑みで、ニンマリとその口元を歪める。

そんな何ともないはずのターニャの表情に胸がさざめく様な、不安感を覚える。


「ねぇ、ターニャ?」


「ん?なんじゃ?」


美しい萌黄色の宝石の様な瞳が、私へとまっすぐ向けられる。


「ターニャは………」


そこまで言って、そこから先が言葉にならない。

それをきいてどうするの?と、頭の片隅で自分が、自分自身に問いかける。


「…なんでもないわ。」


無理やり、喉につかえた言葉を飲みくだし、その胸のざわめきさえ腹の底へとしまい込み、笑みを作った。

そんな私の浅ましい欲望を見透かす様なペリドットが私をじっと見つめたのち、静かに笑った。


「そうか。」


それは何処と無く、より一層無機質な冷たい声だった。


**×


精霊の森からテヤンとシレーヌの距離感がおかしい事には気がついていた。

というより、テヤンが一方的に何かに葛藤してることに。

そしてその何かが何なのかを、俺はきっとわかっている。

でも、だからって…


「相手が悪すぎるよな…」


少し先を歩く2人の背中を見ながら聞こえてないとわかっていながらそう口にする。


ゾーリンゲン山脈、標高3000mとひとつだけ飛び抜けたゾーリンゲン火山を中心に、その周りを険しい山々が連なって形成されるこの地域を張り巡らす山道は、圧倒的な高低差と歩きづらい整備されてないむき出しの岩石な道が険しいことで有名だ。

登れば登るほど空気は薄くなり、火山からの熱気で気温が上がる。

下りは下りで足場の悪い急な坂を断崖といえる岩肌の崖を横目に慎重に降りなければいけないので、精神がすり減らされる。

山道から転がり落ちれば、その先は霧に覆われた崖の底。

そこから這い上がり助かった人間というのを俺は聞いたことがない。


この土地に住み慣れた人間でも険しいというこの山道を、旅慣れて来たとはいえ山なんて見たこともないお姫様が登るなんて辛いわけがない。

現に小さいとはいえもうひとつ山を越えたシレーヌの華奢な背中は、呼吸を整えようと精一杯上下を繰り返している。

シレーヌに寄り添うようにすぐ近くで彼女の歩調に合わせ、チラチラ視線を向ける癖に一向に声をかけようとしないテヤン。

何度も手を差し伸べかけ、その度に何かに戸惑うように視線を揺らし、顔を苦しげに歪め、その手を引っ込める。

シレーヌもその葛藤の正体が何なのかわからなくともテヤンの心の揺れがわかっているからこそ、辛くてもテヤンに助けを求めようとしない。


シレーヌの方はわからないが、テヤンの気持ちと葛藤は手に取るようにわかってしまう分、下手に口出しが出来ない。

出来ればテヤンには引いてもらいたい。

それが俺にとっても、ギルドにとっても、たぶんテヤンにとっても最善の選択だ。

でも、もう戻れないほどの思いを抱え始めているのだろうことも見ていてわかる。

そしてそれをテヤン自身が気づいてるのか気づいてないのか、抑えつけようとしていることも…


「助けないのか?」


するりと背後からまとわりつくように俺の首に腕を回したターニャが、態とらしい煽るような口調で俺の耳元に囁いた。

自分は何もせず空に寝そべるようにして高みの見物で面白がっているターニャに、呆れと苛立ちとごちゃ混ぜのよくわからない感情から溜息をついてしまう。


「…じゃあ、お前が助けてやればぁ〜?」


「そちが"ちょっかいかけるな"と言ったのであろう?」


「…天邪鬼野郎。」


白々しくそんなことを言うターニャに思わず悪態を吐けば、ニヤリと悪趣味な笑みを返される。


「まぁ、妾たちが何もせずとも、"今の状況"は解決したようじゃぞ?」


そう言ってターニャが顎で示した少し先、結局フラついたシレーヌを咄嗟に受け止めたテヤンが、結局耐えかねてシレーヌを担ぐことにしたらしい。

自分で歩くと暴れるシレーヌを、無理やりその肩に担ぎスタスタとその急な山道を諸共せず登っていく。

-確かに"今の状況"は解決したが…


「もうなるようにしかならないか…」


「…他人のことを気にしてる場合なのか、"赤髪"。もう、ゾーリンゲンに入ったぞ?」


何処かやるせなく呟く俺をさらにささくれ立たせるような言葉と共に、何もかもお見通しな不気味な目が俺を楽しげに観察してる。



「お前の手によって焼かれた麗しの故郷と、10年ぶりの再会じゃぞ?」



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