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Procursator   作者: 来栖れな
第5章 深まる王都の影
25/56

5-3

少し、それぞれの価値観、思考、潜在意識みたいなものが話の中で出てきます。

差別などの表現とも絡むので、ご注意下さい。

「…はぁ?王立図書館に行く??」


リビングというにはお粗末なその場所にある簡素な木のテーブル席で、今後のそれぞれの行動を話し合おうという時だった。

俺の怪訝な響きを含む言葉に、テヤンははっきりと頷き返す。


「シレーヌの…帝国の姫巫女の文献を調べたい。旅の目的地の詳細な場所がわからないのは面倒だからな。」


そんなことをシレッと話す、テヤンに些か呆れながら急速な焦りを感じてしまう。


「あ〜…、テヤン。そっちは俺とゼクスで調べとく。」


「…何故だ?」


テヤンが少し眉を寄せ、こちらを不思議そうに見てくる。


「いや、そんなことより…そうだ!姫さんに王都見せてやれよ!こんなでかい都、なかなかに見れないし、色々面白いものが見れるかもしれないぞ〜」


誤魔化すようにそう早口に捲し立てれば、テヤンは何か違和感を持ったようだが、納得はしたようだった。

一度だんまりとしたまま俺の瞳をジッと観察した後、軽く息を吐き、瞼を閉じる。


「…何を企んでるか知らないが、程々にな。いくら警備が甘いとはいえ、お前がこの国の反逆者であることは変わらない。」


「うわぁ〜…すっごい言い草。それを言うならお前の"大切な姫さん"も追われてる身なんだから、気をつけろよ〜」


そう言ってニヤッと意地悪く笑ってやると、テヤンは少し機嫌悪そうにその瞳を僅かに細めた。

テヤンは、俺がわざとらしく彼女の名前を呼ばなくなったことが気に入らないらしい。

-お前が思っているより、名前っていうのは呪いなんだよ…

何も知らない哀れな隣人に、内心苦笑いを浮かべてしまう。


「…アベル。お前……」


「ほらっ!王都はでかいんだから、回るなら早い方がいいぞ〜」


テヤンが言いかけた簡単に予想がつくその言葉の続きを遮り、わざと急かすような言葉で話を終わらせる。


「…テヤン。さっきの嬢ちゃんに王都でも目立たない服を渡しておいた。お前も出掛けるならそっち着替えたらどうだ。」


タイミングよく、二階から降りてきたゼクスがテヤンに声をかけ、無理矢理話に区切りがつけられる。


「………あぁ。」


何か言いたげな視線を俺にチラリと寄越した後、軽くため息を吐き、そのままゼクスと入れ替わるように階段を上っていく。

その背を見送った後、今度はテヤン以上に騙されてくれない灰色の目がこちらを向く。


「何をそんなに隠したがってる?あの嬢ちゃんが亜人なことと関係があるのか?」


「………ゼクス、"亜人"は差別用語、紅狼(ブルートヴァルフ)においてそれは禁句だ。」


亜人。

この大陸において、人間とは異なる種でありながら、人間と似た国家や集落を作る者たちを指す。

人間がごく自然に使うこの単語は、我がギルドでは使用を避けられている。

というのも…


「…別にテヤンも、ルイーザも、クラウスも、他の"混ざり者"たちだってそんなに気にしてない。」


このギルドにおいての古参と呼ばれる者たちの半数、および他にも数多くのメンバーが人間とは違う血が混ざっている、"混じり者"だ。

テヤンのように完全に種族が違う者はいないが、それでもこの人間の王国に置いて彼らの存在は極めて稀で、異質で、受け入れられづらい。


「…無意識でそうやって区別して拘ってるのはお前だ。根底から根付いてしまった教育が抜けきらないのもわかるが、アイツらの手を使いたいと思うならそういうのは出すべきじゃない。」


「………前から言ってるが、俺はそんなこと、もう思ってない!!テヤンを拾った時に、そういうのは捨てようって決めたんだ!!何を懸念してるか知らないが、もうこの話は良いだろうがっ!!」


苛立つあまり近く目の前のテーブルを叩きつける。

バキッと明らかに割れた木の感覚が、はっきりとした痛みとなり、握られた拳へと帰ってくる。

ゼクスは俺と話すたび、いつもこの話題を口にする。

あまりにもしつこい、説教紛いの物言いは、いい加減うんざりする。


「…こんな下らない話をするために、俺を王都に呼んだわけじゃないだろ?」


ロッハウでテヤンから受け取った手紙は他でもない、目の前に立つゼクスからだった。

随分と昔から見慣れたその達筆で綴られていたのは確かな"兆し"…


「あぁ…そうだな。」


ゼクスはそう低く呟くと、俺の向かいの簡素な椅子の上にゆっくりと腰を下ろす。


「伝えた通り。アーサー王が倒れたとされる今がチャンスだ。あの"王太子"が玉座に着く前に仕留められるかが…俺たちの唯一の可能性ってとこだ。」


そう言ったゼクスは真剣な面持ちで俺のことをジッと見つめる。


「あの王太子は危険すぎる。」



***


-気のせい…だろうか?


「…テヤン?どうしたの?」


不安そうな、どこか戸惑ったようなシレーヌの顔が、こちらを覗き込むようにして見上げている。


「いや…何でもない。」


安心させるようにそう言葉を返し、さりげなく自分の方へシレーヌの華奢な肩を引き寄せる。

-何もないといいが…

人のごった返す活気ある大通り。

商業地区となっているこの通りは簡易的な出店はもちろん、少し高級な品揃えの専門店、ありとあらゆる店が立ち並んでいる。

2年前とは同じはずの、しかしどこか変質したその王都の雰囲気に、自然と警戒心を抱いてしまう。

-表情が陰りがあるせいか。

道行く人々、皆一様になにか不安のようなものを抱えている。


「迷子になっても困る。離れるなよ。」


「…わかってるわ。」


それらしいことを口にし、自然と手を引けば、シレーヌはどこか複雑そうな表情で大人しく返事を返した。

ここのとこ、俺に異様なまでに気を遣われるのが気に入らないのだろう。

-またあんなことに出くわすのはごめんだ。

俺の後をついてくるシレーヌを横目で確認しながら、人混みをすり抜けるようにして歩く。

今シレーヌは、裾や袖口のゆったりとした筒状の軽い生地で出来たくるぶし丈のワンピースを着ている。

王都民がよく着ているこの服は、多少形は違えど男女共に好まれている。

俺が着ているのも、シレーヌと同色のベージュで揃えられた男物だ。

男と違い、髪と顔の下半分を隠すベールから覗くシレーヌの表情は物珍しさと好奇心と、少しの不安が見え隠れしている。


「…見たいものがあれば言えよ。」


「…うん。」


気もそぞろな感じの返事を聞きながらも、その碧い瞳がキラキラと輝く様に思わず小さく笑ってしまう。

-そういえば、こうしてゆっくり街を回るのは初めてだったな。

ボーデンも、ロッハウも、ゾーリンゲンも、何だかんだと慌ただしく出発してしまったから、きちんと街並みを見ることはできてなかったはずだ。

そういうところはやはりアベルは気がきくなと、感心せざるを得ない。


…それは、大通りが噴水のある広場に差し掛かった所だった。


「何かしらあれ…」


人々が足を止め、何かを囲むようにして注視している。

チラリと見えるのは色鮮やかな、どこか見たことがあるようなテントの旗。

小さい子供からご老人まで、ワクワクと期待をのぞかせた表情でそれを見つめている。


「………大道芸だな。」


嫌な予感を抱きつつ、シレーヌが興味を持つ前に視界を遮ろうとし、もう遅かったことに気がついてしまう。


「…なっ……何よ、あれ………」


先程までの楽しそうだった表情が一変、それを見たシレーヌは青ざめた表情で肩を震わせていた。


上手く書けているといいのですが…


アベルは差別したくないと思っているのに、無意識の、潜在意識として差別をしてしまう人間族らしい人間で、

ゼクスは差別してしまう自分を意識しつつ、それを上手いこと隠しつつ、折り合いつけつつ生きている人間。


テヤンはすごく物語でいうなら魔物寄りな、自然の中に生きる者らしい価値観を持ちます。

シレーヌは…集落を作る種族たちらしい思想をします。


どれも間違いじゃないし、どれも正解じゃない。

それぞれの大切なもの、譲れないものを選んだり、受け取ったりした結果です。

それを変えようとするのも、変えたいと願うのも自分、

変わらない、貫くと強く定めるのも自分…


だから面白くて難しい。


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