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Procursator   作者: 来栖れな
第5章 深まる王都の影
24/56

5-2

アベルの少し毒の含んだ言い回し、結構好きなんです。笑

自分たちは"白"なのだとそう厚顔に主張するような壁はいつ見ても不快な気分になる。

いっそ真っ黒に塗り潰してやれたなら、少しは胸がスッとするんだろうか?


「お疲れっす、マクファーレン商会の荷馬車で〜す!チェックお願いしますっ!」


そんなことをおくびにも出さず、にこやかで何処かうざったい笑みを浮かべる。

声のトーンはいつもより高め、少し遊ばせた口調に、独特の跳ねるトーンをつければ、イーサンの真似など容易にできる。

ターバンに目立つ赤紙を隠して仕舞えば、だいぶ背格好も似てきたその姿は、親しいものが見なければわからないだろう。

はっきりと違う瞳の色も、この照りつけるような眩しい日差しの中では、そうわかるものじゃない。


「…マクファーレンか。いいぞ行って。」


「あざっすっ!!」


-こりゃまた、予想以上のザル警備…

随分と長いこと近づくことを避けていた王都だが、最後に来た時はもっと検問が厳しく、それこそ荷馬車の中身までいちいち調べられていた。


「これはまた…"例の噂"は本当ってことかねぇ…」


そんな独り言を呟き、乾いた唇をペロリと舐める。


王都、"砂上に輝く都"とも呼ばれるこの巨大な街は、大陸の半分ほどを占める人間たちの国の首都であり、その中心にはアーサー国王の住まう城がそびえている。

中心部の最も高い場所に建てられた白く輝く王城。

城を見上げるように坂道に並ぶ華やかな街並みは、見事なまでに白い石造りに統一されている。

城から東西南北、それに加えて4本、合計8本作られた大きな通りは、常に多くの人でごった返している。


「派手だねぇ〜…」


-街も人も、何もかもが…うざったい。


「お〜い、門抜けたぞ〜」


「…呆気なかったな。」


気がついているだろうが、一応後方へ声をかければ、後ろからカタリッと小さな木の音がする。

木の箱の中に2人仲良く隠れていたテヤンとシレーヌが蓋を開けて出てきたのだろう。

予想通り、チラリと顔を後ろへ向ければ先に箱の外へと出たテヤンが、シレーヌが出るのに手を貸してやっている。

-仲がよろしいことで…


「最近、王都は荒れてるらしいからそっちに人員割かれてるらしいぞ〜」


「…だったらもっと検問を厳しくするべきじゃないのか?」


「…それが疎かになってしまうほど、"いろいろ"気を取られてるってことだろ〜」


そんなことを言いながら、ガタガタと揺れる荷馬車で大通りを突っ込んでいく。


「とりあえず、マクファーレン商会に向かうぞ〜」


王都は確かに街はでかいが、大通りは人が多いし、横道は意外に細い。

移動では邪魔になってしまう荷馬車を置くために、ひとまず商業地区で最も目立つ大きな建物を目指し、進むことにした。


***


白い石造りの三階建ての大きな屋敷のような建物。

様々な旗や数え切れないほどの商品のチラシ、正面入り口前にも並べられた煌びやかな商品が他とは逸脱して目を惹く。

…そのマクファーレン商会王都店から少し離れた、裏通りへと続く横道をいくつか曲がった先にある小さな家が、この王都における紅狼(ブルートヴァルフ)の拠点だ。

一見、小さくて狭い家のように見えるが、中は隣の家の中と繋がっており、3つ小さな家を外だけ騙眩かしてそれぞれ1つの居住区のように見せている。


「もうそろそろ来るとは思ってたが…女連れとはな。」


入り口すぐの壁に寄りかかり、そう憎まれ口のようなことを低く聞き取りづらい声で呟いたのは、ゼクス。

サイドを刈り上げたオレンジの短髪に、グレーの鋭い瞳をした体躯のがっちりとした大男。

機嫌悪そうに寄せられた眉間のしわと、左目から頬、さらに首から肩まで伸びる大きな傷跡が目立ち、怖くて近寄りづらい印象を与えるらしいが、とても面倒見の良い男だ。

紅狼(ブルートヴァルフ)でも一番の古株であり、アベルとはギルド創設以前からの長い付き合いらしい。

他にはない渋い魅力がある35歳、ギルドでは圧倒的な最年長だ。

-まさか王都にいるとは思わなかったな…

そんなことを密かに思う俺のことは気にする様子もなく、アベルがゼクスに不服そうに顔を歪めている。


「なんだよ〜その言い方…確かに女の子は連れてるけど、俺のツレじゃなくて、テヤンのだから!テ・ヤ・ン・のっ!!」


「ほぉー…そりゃ珍しいな。女の依頼人か。」


アベルの食ってかかるような物言いを完璧にスルーし、意外だと言いたげにゼクスかこちらに視線を向けてくる。


「まぁな。」


「おいっ!なんで俺の時は女連れとか言って揶揄ってきたのに、テヤンはしないんだよ!!」


「…女とあれば見境なく手を出すお前とテヤンは違うだろ。」


「俺だって好みはあるから!選んでるからっ!!」


「…選んでてあの数は逆にタチが悪いな。」


旧知の仲だからか、ゼクスと話しているとアベルは普段にはない幼さを覗かせる気がする。

それを本人は嫌がっているのか、あまりギルドのメンバーが集まっている前では、ゼクスと積極的に話そうとはしない。

そんな2人の様子をシレーヌが物珍しそうに見ながらも、タイミングを探るようにそわそわと身体を揺らしている。


「ゼクス。話し中悪いが、先にシレーヌに挨拶してやってくれ。」


「ん?…あぁ、悪い。」


どっしりとした重みを伝える足音とともに、ゼクスがこちらに歩み寄ってくる。


「えっと…シレーヌです。」


「ご丁寧にどうも。ゼクス、こいつらと同じ紅狼(ブルートヴァルフ)のメンバーで、今は王都支部長代行をしてる。」


近づいてきたゼクスに、改めてその大きさに驚いたのだろう。

圧倒されたように少し口籠ったシレーヌに、ゼクスは自然な仕草でがっしりとした手を差し出し、シレーヌもそれにほっそりとした手を重ねた。

-代行なんかしてたのか…


「おいおい、間違っても握りつぶすなよ〜?」


アベルの茶化すような言葉をゼクスは気にすることなく、2人の握手はあっさりとした感じで終わる。


「…テヤン、このお嬢さんだが、あまりひとりで歩かせないようにしろよ。」


「ん?何かあったのか?」


再び俺の方へ向き、神妙な顔でそう言ったゼクスに、アベルが不思議そうな顔を向けている。


「最近の王都の治安はすこぶる悪い。何者かによる殺人、人攫い、スリ窃盗…どれかしらは毎日起きてる。」


「それはそれは…」


「……」


険しい表情でそう語るゼクスに、アベルは少しばかり呑気で的外れな声を上げ、シレーヌは音もなく身体を強張らせた。


「この2年で、そんなに悪化したのか?」


「あぁ…」


俺が最後に王都を訪れたのが2年前。

その頃から少し物騒になり始めたと街で噂されてはいたが…

ゼクスの肯定の物言いといい、この1、2年で急激に悪化したといったところだろう。


「アーサー王が昨年からドワーフ小国に侵攻したのは知ってるな?」


「そりゃあねぇ〜」


「…聞いてはいるが、」


「3ヶ月ほど前にドワーフ小国を打ち滅ぼし、その矛先を竜人族(リザードマン)たちの湿地へと向けたらしい。」


その言葉が信じられず、思わず自身の拳を強く握りしめてしまう。

硬い皮膚に鋭い爪が突き立てられる感覚が、ありありと伝わってくる。


「やはり噂通り、アーサー王は大陸の統一に本格的に動き出した…というより、焦っているっと…」


アベルが自身の言葉を噛みしめるように呟き、その口元を歪める。


「…だが、そのアーサー王は、この1年ほど一度もその姿を平民の前に見せてはいない。」


続けて告げられたゼクスの言葉に、不穏だった影がより一層強く描き出される。


「…まぁ、確証のない噂はさておき、お嬢さんは目立ちそうだから、くれぐれも気をつけな。」


「はっ、はい…」


「…わかってるさ。」


そんな俺とシレーヌの返事にゼクスが小さく微笑んだ。


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