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残忍で非道な描写が入ります。
ご注意ください。
賑わう大通り。
その中でも一際人が集まった広場で見たのは信じられない光景だった。
人々に取り囲まれるように少し目立つ台の上にあるのは大きな鉄製の檻。
何か楽しげに見に来ている人達へ話している男性の姿が、より一層その存在の異様さを拡張させる。
美しかったであろう薄緑色肌はいくつもの切り傷、どす黒い痣、そして所々に焼き爛れたような火傷の跡…
その足には囲われた檻と同じ重苦しい足枷が嵌められている。
わざとそうされたのだろう。
黒にほど近い緑色の髪は長かったり短かったり、ざっくばらんに切り刻まれ、とても痛ましい。
もう数え切れないほど酷い目に遭っているのだろう。
その瞳は濁ってしまい、もう何も写していないように見える。
蛇女族、別名ラミアと呼ばれる種族だ。
上半身が人型、下半身は蛇の形をとり、女性しか種族の中で生まれない…
他の種族を繁殖に利用することでその数を留めている稀な種でもある。
人型を留められているということは、それほどに人間の血が強いか、はたまたそれほど高位の血を引いているのか。
どちらにしてもこんな扱いを受けていい存在ではない。
巫女、もしくはそれに近しい神事を執り行う者たちにはよく知られているが、彼女たちは時々神の宣託を得ることのできるシャーマンだ。
神の導きを聞き届け、それを多種族に伝え、助ける。
そんな尊くも慈悲深い種族の彼女が、今、檻に入れられ、「本性を現せっ!」などと言われて鞭のようなもので叩かれている…
「なんて…惨い……」
わなわなと口元に持っていった手が震え、身体もそれに便乗しているかのように揺れが止まらない。
思わず後ずさり、座り込んでしまいそうになるのを咄嗟に手を伸ばしたテヤンに支えられる。
「…場所を変えるぞ。」
テヤンのいつもより硬い声を聞きながら、ほぼ引きづられるようにして私はその場を離れた。
「…なんだったの……あれ……」
大通りから少し離れた、裏道に繋がる道の端に置かれた石造りのベンチに腰を下ろし、私は自分の肩を掻き抱いた。
未だにあの凄惨な出来事が頭にこびりついて離れない。
「…大道芸、サーカス…いわゆる、"見世物"と呼ばれる人間の娯楽のひとつだ。」
「あんな…酷いことをして、見るのが楽しいっていうの?」
あの痛々しい傷の数々も、悲惨な格好も、決して長い時間をかけて行われたものではない。
蛇女族は昔、不死の象徴と呼ばれていたほど、異様に再生が早い。
肌や髪、鱗を傷つける程度なら死ぬことはないし、時間が経てば元通りに再生する。
つまり、あそこまで"傷が残っていた"ということは、再生が追いつく間もなく傷つけられ、再生がすぐに作用しないほどに弱らされているということ。
「…多くの人間にとってあれが当然。俺ら亜人は…人間にとって忌み嫌うもので、同等の価値はないものだからな…」
そう淡々とでも言いづらそうに瞼を伏せてそう言うテヤンの言葉を、どうしても信じたくないと思ってしまう。
「でもだからってあんな…魔物みたいに……」
自然とこみ上げ、留まることのできない涙が、視界を歪ませる。
「…実際ラミアたちは魔物に近い。」
「でも!彼女たちは…「俺もっ!…どちらかといえば魔物に近い部類だ。」
私の憤りをそのまま押し留めるようなテヤンの強い口調に、思わず圧倒され、言葉を失う。
「…シレーヌはあの檻の中身が魔物だったら何も思わなかったか?」
-魔物だったら?
-なぜそんなことを今聞くの?
テヤンの言葉の真意が掴めず、思わず視線を彷徨わせてしまう。
「シレーヌはさっき『魔物みたいに』って言った。それはつまり亜人を魔物と同等に扱うべきではないという考えだからだ。…もし、魔物が同じような扱いを受けていたら何も思わなかったんじゃないか?」
その言葉に、ようやくテヤンが言わんとする言葉の意味を理解する。
何かがグサリッと胸に突き刺さるような、鈍い痛みに襲われる。
「それは…だって……魔物は…」
-魔物は倒すべきものでしょ?
何故かその言葉が続かない。
いや、続けないのではなく、
続けられないのだ。
だって、私の目の前に立つ、この人は…
テヤンは襲ってきた魔物は倒していたが、それ以外の出くわしただけの魔物は必ず逃していた。
『アベル、やめろ。』
そうわざわざ声をかけて、制止を促すほどに。
倒した後でも、彼は必ず、力なく横たわる魔物に対して数秒目を閉じるのだ。
今ならなんとなくわかる。
あの行為の意味が…
「…俺は、ずっと魔物たちと共に森で暮らしていた。一緒に生活をしていたわけでもなく、時に狩り、狩られの関係を築き、森という場所で共生してきた。…俺からしたら、魔物も等しく、俺らと同じ"生き物"だ。」
当たり前のように私の常識とは違うことを言うテヤン…
でも、何故か妙にその言葉が自分の中に突き刺さり、グリグリと抉るようにして深く入り込む。
妙な悔しさとやるせなさと不甲斐なさで…先ほどとは違う意味で涙が止まらない。
「…悪い。気にしなくていい。お前にはお前の価値観がある。」
堪えきれず両手で顔を覆った私にそう言って優しく髪を撫でる手が、今は苦しくて堪らない。
「どちらにしてもあのラミアのことは…いや、あんな光景を見せてしまって悪かった。気がつくのが遅れた…」
そんなテヤンの私を気遣う言葉に、顔を上げることができず、無言のまま首を振る。
色々な感情がごちゃまぜになった一端が、思わず言葉となり溢れてしまう。
「…彼女を、助けることは…できないの?」
テヤンの手が強張り、その動きを止める。
-…やっぱり……
それがそのまま答えということだろう。
その時、
『ほう、それがそちの願いということで良いか?』
この場にはないはずの、別の第三者の不思議な声が、私の耳へ響いてきた。




