表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Procursator   作者: 来栖れな
第3章 芽生え、色づく時
16/56

3-5

前書いてた時も思ったけど、イーサン好きだわ〜

なんか、書いてて楽しい。うるさいけど。笑

ブレゲンツの街の、石造りの小道が特に入り組んだ路地裏通り、そこにひっそりと用意された裏口の戸を勢いよく5回拳で叩く。

表入り口から見ればとても立派なこの建物も、裏は案外シンプルで、素っ気ない。

-まぁ、それでも広い敷地を優に使って建ってることに変わらないがな。

向こうから3回叩き返され、こちらが今度は1回…

そんなお決まりの動作を繰り返しながら、チラリと横の華奢な少女を盗み見る。


テヤンがわざわざ騒ぎを起こしてまで逃げた事には驚いたが、容赦なく放るようにして託されたシレーヌの様子に合点がいった。

たぶん、確実に、この少女絡みだ。

「大丈夫か?」と問う俺の声に、力なく頷いたシレーヌは明らかに怯えていた。

仕方なくそのまま、テヤンが囮として引きつけてくれているうちに…とここまで急いだが。

-いったい、なにがあったのやら…


そこで、ガチャリと石壁と同色の戸が開き、押し通るように強引に身体を滑り込ませる。


「ちょっ!?強引っすよ!!」


「うっさい!緊急だ馬鹿野郎。」


誰かわかっているだろうに、そんな軽口を言って悪態を吐く男に、反射で言い返しながらシレーヌを中に引っ張り、すぐさま扉を閉める。


「うっわ…騒がしいから何かと思ったけど…アベルさん、とうとう人攫いっすか?いくら美人だからって…」


「攫ってねぇよ。あと、騒ぎ起こしたのはテヤンだから〜」


「えっ、テヤンさんっ!?テヤンさん、どこいるんすかぁっ!??」


「あー、うっさい!!落ち着け!!」


こっちは緊急事態で逃げ込んできたのに、そんな事はお構いなしにまくし立てる男に、イライラしながらも宥めるようにその両肩を抑える。

だいぶ肉厚でがっしりとした肩幅が、数年ぶりとなるその成長をしっかり伝えてくる。

日に焼けた小麦色の肌に、赤っぽい茶色の短髪。

髪色より少し淡い瞳は期待と興奮で爛々と輝いている。

イーサン・マクファーレン。

このブレゲンツにおける紅狼(ブルートヴァルフ)の支部長であり、この建物の持ち主、かの世界的に有名なマクファーレン商会の次男坊。

様々の国の御用達として利用される大商会の人間なのに、紅狼(ブルートヴァルフ)に入った変わり者だ。


「で?で?で?テヤンさんはどこにいるんすかっ!!」


「アイツはまだ囮中で走ってるよ!!」


「ま〜た走らせてんすか?なにしてんすか、アベルさん!!」


「少し黙れ!!そして落ち着かせろ!!」


ギルド創設者である俺に対し、全くの敬意を払わない、馴れ馴れしい態度。

そしてとにかく軽薄で、喧しい。

正直、このギルドのメンバーで1番苦手な相手だ。

イーサン相手だと、何故かこちらも激しく言い返してしまう。


「今はこの子を休ませたいんだよ!案内しろ!!」


俺の言葉にイーサンは一度瞳をパチクリさせ、さっとシレーヌへと視線を移す。

外套(マント)のフードの下でも、はっきりとわかる顔色の悪さに、スッとその表情は真面目なものに変わる。


「こっちっす。」


イーサンはそう言って素早く背を向けると、裏口から続く薄暗い石の廊下を、そそくさと進み俺らを案内した。


***


「落ち着いたっすか?」


そう言って私の前にお茶のお代わりを置いた男の人は、にこりと笑った。

焼けた肌からキラッと白い歯が覗く、人懐っこい笑みだ。

アベルとは言い争うような勢いあるやり取りをしていたが、今は気を遣ってくれているのか、響くような大声では話しかけてこない。


「はい、ありがとうございます。」


「いえいえ、なら良かったっす!あっ、このお茶、"華茶(はなちゃ)"って言って、今女性向けに売り出してる美味しくて、見た目も可愛いお茶なんすよ!ぜひ飲んじゃってくださいっす!!」


声は抑えてくれてるが、原来お喋りな人なのだろう。

一度喋り出すと止まらないんじゃないかと思わせるほど、この男の人は舌が回る。

若干その勢いに押されながらも、何だかんだと忙しく行われる気遣いに、少しほっこりとした気分になる。


私たちが案内されたのはこの建物で1番立派な客間なんだそうだ。

落ち着いて見回してみれば、そこかしらにある装飾、調度品、芸術品が、とても貴重で、価値あるものばかりだと、すぐに見て取ることが出来る。

-すごい待遇ね…

当然のようにソファで寛ぐアベルを横目に、気後れしつつも、その珍しさに大きな室内を見回す。

-なんの建物なのかしら?個人の屋敷??

少し煤けた酒場だったロッハウの紅狼(ブルートヴァルフ)本部とは違い、ここは支部でもあるが、表向きは他のことに使われているのだそうだ。

というのも、全てこの男の人がマシンガントークで話してくれたことだが…


「イーサン、いい加減少し黙ってくれない?シレーヌちゃんもそんなんだから気後れしてるでしょ?」


-いや、気後れしてるのはこの部屋の豪華さにです…

そんなことを思い、苦笑いしつつも、アベルの助け舟を少し有り難くも思う。


「…テヤンは?」


「ん?もう戻ると思うよ〜」


呆然としてる間にテヤンに担ぎ上げられ、そのまま気がついたらアベルにここへと連れてこられたため、その後テヤンがどこに行ったとか私はわかっていない。

というより、そんな余裕がなかった…


「シレーヌ…さん、でいいっすかねぇ?数日?いや1週間前くらいからかな?なんかたぶん貴女のこと、王国軍が探してるみたいなんすけど、なんか心当たりないっすか?」


「…そんな前からなのか?」


「そうっすよ?もう、そのせいか今週ずーっと商売あがったりでっ!なんであんなに王国騎士をゾロゾロさせるんすかねぇー?」


イーサン…と呼ばれた男の人のその言葉に、大陸に着く直前に起こったあの出来事を思い出した。

-あの人たちが来ていた服の白いのだった…つまり、そういうことなのだろう。

私が考え込むように黙ってる間に、またアベルとイーサンという人が、話しを続けている。


「…大陸に上がる前、私の乗っていた船があの兵士さんたちと似た、白い服の人たちに襲われました。理由はわからないけど…たぶん、それだと思うわ。」


私の言葉にアベルは一瞬目を見開くも、どこか納得した表情を見せた。

どうやら、もうこの騒ぎが起こった時点で、予想はついていたらしい。


「白い制服…ってことは、王直属っすよね?」


「白地に何色の縁取りか覚えてるか?」


「ごめんなさい、そこまでは…」


あの時は魔法で撹乱し、私だけ海に飛び込んで逃げるので精一杯だった。

だから、白い制服だったということ以外何も覚えてなかったし、それがまさか王国の兵だとは思いもしなかった。


「…そのこと、テヤンには話してるのの?」


笑みのない、真剣な顔でアベルが鋭く私を射抜くように見た。

その無機質な言葉に、スッと背筋が寒くなる。

-それは…


「俺が敢えて聞かなかった。事情はあると思ってたが、それも含めて引き受けた。シレーヌは悪くない。」


「あーーっ!!テヤンさんっ!!」


急にその場に加わった聞き慣れた声。

淡々と、落ち着いた声に堪らず振り返れば、涼しい顔したテヤンが、スタスタと私たちの座るソファの方へと歩いてくる。

次いで、半ば叫ぶような声でテヤンの名を呼んだイーサンという人が、テヤンに今にも飛びつかん勢いで突っ込んでいく。


「お久しぶりっす!!1年と5ヶ月と16日間お会い出来てなかったっすけど、お変わりないっすか?てか、ないっすよね?いや〜、相変わらずマジカッコいいっす!男の鑑っすね!!」


「…イーサン。うるさい。」


イーサンという人は、テヤンの至近距離で急に立ち止まると、テヤンの両手を掴み、ブンブンと振り回してはニコニコと笑って、テヤンに話しかけている。

対するテヤンは珍しく、明白に嫌そうな表情で、呟くように苦言を呈している。


「ははっ、そんな素っ気ないところも最高にクールっすね!!いやぁ〜痺れます!マ・ジ・で!!」


そんなテヤンの様子に全くメゲる様子もないイーサンさんに、テヤンはあからさまに重いため息を吐き、その手を振り払う。


「…テヤン、」


こちらにやってきたテヤンに、声を掛けた。それなのに、何を話していいかわからず、そのまま俯いてしまう。

-ごめんね?

-なんで助けてくれたの?

-まだ依頼受けてくれる?

-ありがとう。

-大丈夫?


-…私を、見捨てない?


ごちゃごちゃと浮かぶ言葉が、頭をかき乱し、何も浮かんでこない。


ただ叱られるのを待つ子供のように絨毯を見る私の頭を、テヤンは何も言わずにポンと撫でた。

ここ数日、不意にしてくれる、慰めるような軽い掌の温もり…


恐る恐る顔を上げれば、いつもとなんら変わらないテヤンの顔が、私をじっと見ていた。


「問題ない。」


迷いなく、言い切られたその言葉に、スッと身体が軽くなる。

-あぁ、ほんとこの人は…


テヤンはそれ以上何も言うことなく、私の隣へとドカッと腰を下ろした。

そしてそのまま隣のアベルと、何やらまた会話をし始める。

その横で私は、真っ赤になった頬を隠すように、しばらく俯いたまま顔を上げられずにいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ