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Procursator   作者: 来栖れな
第3章 芽生え、色づく時
17/56

3-6

「…じゃあ、さっさとブレゲンツを出るのが得策か?」


「だろうなぁ〜…で、一応ギルドで背格好似てるやつにゾーリンゲンの方に逃げる振りしてもらうか…」


-王都までの道のりは見晴らしが良すぎるし、まぁ、妥当な案か…

アベルとこれからのことを打ち合わせながら、頭の中で簡易的にこれからの予定を組み立てる。


街中を適当に走り回り、王国騎士を混乱させた後、ひっそりとここを訪れれば、ちょうどシレーヌが以前にも彼らに襲われたという話をしているところだった。

-お姫様が無謀なひとり旅、何かあるとは踏んではいたが…


同行者にアベルがいる時点で、俺からしたらお尋ね者が2人に増えただけの、些細な変化だ。

ただそうは言っても、警戒しなければいけない点が増えるのもまた事実である。

アベルは、シレーヌが追われていることを隠していたのに腹を立てていたみたいだが、勝手に彼女の旅に混ざったのはアベルなので、それはお門違いだと俺は思う。

そんな意味も込めて、アベルの不機嫌さに気付いていながら無視して話を進めている。

まぁ、それに対しても、アベルはかなりご立腹だ。

証拠に、いつもの嘘くさい貼り付けた笑みが見事に真顔のまんまになっている。


一方、シレーヌはと言うと…


「これ…変じゃない?」


「全然変じゃないっすよ〜!!濃い藍色が白い肌に生えて、もう最高です!!いや〜、美人さんは何着ても似合うっすね〜。あっ、シレーヌさんの白い民族衣装ももちろん似合ってたっすよ?もう、女神様かっ!ってくらいに!!でも、せっかくの美人さんなんすから色々着飾って楽しまないと勿体ないっすよ〜」


真剣な話をし始めた俺たちから引き離され、イーサンに色々と構われている。

どうやらイーサンはマクファーレンの女性服、新作モデルをシレーヌに着せてみたかったらしく、次々と着せ替え人形のように服を変えては楽しんでいる。

まぁ、それは別にいいんだが…


「おおっ!?これめっちゃいい!!テヤンさんっ!!これヤバイぐらい似合ってるっす!!どうっすか?」


何故か時々、こうして俺の意見を聞いてくる。

深いため息を吐きながらそちらを見れば、疲れたのか、はたまた人に見られることへの気恥ずかしさか、頬を染めたシレーヌがスッと目に入る。

淡いピンクの、柔らかでたっぷりとした布地で作られた、軽やかな印象のワンピースだ。

デコルテは覆われているが、腕は肩よりも深いところから肌が出ていて、暑苦しくない。

ウエストに切り返しが入り、そこから自然に広がるスカート部分も、身体の動きにフィットし、とても動きやすそうだ。


そして何より、1つ前に見せてきた踊り子のような際どい衣装じゃなく、目のやり場にも困らない。


「…似合ってるんじゃないか?」


「おおっ!?初めてテヤンさんからのお褒めの言葉!!これは持ってく物リスト決定っすよ!!」


俺の言葉に着ているシレーヌ以上にはしゃいだイーサンが、そんなことを言いながらまたシレーヌに新しい服を渡している。

今度は外套のようだ。


「…イーサン、まさかシレーヌちゃんに似合うの全部押し付けるつもりか?」


アベルの棘の含んだ言葉に気付いていながら、イーサンはニカッと笑い返す。


「大丈夫っすよ!全部マクファーレン商会特性、マジックバックに突っ込むんで、重くない、がさばらない、邪魔にならないっす!それに、シレーヌさんなら変装道具の1つや2つや3つ、持ってないと目立っちゃいますよ!!」


シレーヌを使って宣伝したいという、言わない本音も透けて見えるが、それ以上にイーサンの建前も一理あると、思った。

ここしばらくで慣れてしまっているが、シレーヌは色味、容姿、どれを取っても目立つ。


「マジックバックって、前に言ってた亜空間バックのことか…まさか実験台に使うつもりじゃないよね〜」


「失礼っすね!ちゃんと安全確認済みっすよ!!そんなこと言ってるとウチの荷馬車貸してあげないっすよ?」


「それじゃあ、お前の敬愛するテヤンさんは、あの過酷な砂漠を荷物担いで移動することになるな?」


「ぐぬぬぬ…相変わらず俺には意地悪っすね、アベルさん。」


「お前が俺への態度を改めたら優しくしてあげるよ〜」


そんな子供のようなアベルとイーサンの言い合いを無視し、試した外套を持ってオロオロ戸惑っているシレーヌの方に近づく。


「…気に入ったものと、そうじゃないので分けて置いとけばいい。後はイーサンが適当にまとめて渡してくれる。」


「これ…お金とかどうしたらいい?」


「気にしなくていい。アイツも、好きで渡してるからって押し付けてくるだろうし。」


シレーヌは俺の言葉に戸惑っていたけど、実際俺は、イーサンから物を渡されて金を請求されたことがない。

自分から頼んだ物だったりすると取られたりするらしいが…


「そうそう!シレーヌさんは、なんて言ったって"特別な"お客さんなんで!それは"献上品"として受け取ってくださいよ〜」


こちらの話もきちんと聞いていたらしいイーサンが、シレーヌに向かってパチリとウインクを飛ばす。

言い方に何か含みを感じるからもしかしたら…既にシレーヌが他国の王族であることを見抜いているのかもしれない。

-マクファーレン商会は諸外国色々回ってるもんな…


「あっ、そうだテヤンさんっ!武器、持つ気ありません??ちょうどテヤンさんが好きそうなの出来たんですよ〜!!」


「…とか言って、絶対テヤンのために作らせただろ。」


キラキラと期待に溢れた瞳で、興奮気味に話しかけてくるイーサンの後ろで、アベルが少し嫌味っぽい、拗ねた口調でブツくさ文句を言っている。

ちょうどそのタイミングで、コンコンッと客間の扉が叩かれた。


「おっ、きたきた!」


「失礼します。あっ、アベルさん、テヤンさん、お久しぶりです。」


待ってましたとばかりにイーサンが開けた扉から入ってきたのは、1人の従者。

確かイーサン専属の従者さんで、この支部を訪れる時、必ずと言っていいほど顔を合わせている。


「イーサン様、こちら必要かと思い、お持ちしました。」


「さっすがぁ〜!わかってるね、リチャード!ありがとう!!」


従者が差し出した、大きな布袋に入れられたそれを受け取ると、イーサンはニコニコと笑い、また「これ、下の2人に渡してきてくれる?」と言って、彼を退室させた。

そしてこちらに振り向くと、その大きな布袋を持って俺の方へと戻ってくる。


「これ見てみてください!俺、一押しの自信作っす!!」


そう言って、イーサンが布袋から取り出したのは、パッと見シンプルなテヤンの身の丈ほどある大剣だ。

黒く滑らかで、鈍い光沢をもつ刃に、装飾が何もないこれまた黒い革の柄。


「…邪魔そうだな。」


「まぁ、そう言わずに!」


「素手の方が早い。」


「騙されたと思って!一回、一回持つだけ!!」


しつこく懇願され、仕方なしにその大剣へと手を伸ばす。

受け取ってまず感じたのは、しっくりと馴染む柄の感触。

次いで、予想より断然軽いその重さに思わず目を見開いた。

そして気がつく、その刃の薄さ、使われた金属の特殊さに…


「ねっ?」


イーサンが誇らしげに、俺に向かって嬉しそうにはにかむ。


「…いいのか?」


護衛した旅人から聞いたことがある、最近取れるようになった希少で、異様に軽く、それなのにとても丈夫な、高額で取り扱われる金属があると。


「…もうバレてますが、テヤンさんのために作ったんすよ。貴方以外、誰にも渡すつもりはありません。」


「…わかった。有り難くもらう。」


俺が大剣を布袋にしまい直すのを、イーサンは嬉しそうに見ていた。

その様子をシレーヌは微笑ましそうに、アベルはどこか呆れた表情で見守っている。


「…イーサン、もう気が済んだならサラとトーマを呼んできてくれ。」


その言葉に、イーサンはもうわかっているとばかりに、得意げな笑みを浮かべた。


ここで第3章切るので、砂漠の王都編が第4章にズレます。

話も、大幅に改稿前後でズレてますので、ご注意下さい。

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