第九話:雪山でもひと悶着
この話を書いていた時は何をやっていた時だっけ? なお話。
いや、この話は何かに執筆欲を刺激されて書いたと思うのですが、何をきっかけに書いたのか思い出せないんですよね。
とりあえず旅物語では欠かせない雪山でのお話。
季節的には珍しいが、吹きすさぶ氷雪が視界を悪くする土地にて。
八突とお狼の二人旅はどこを目指しているというわけでもないが、とりあえずこの氷雪の中、漠然と北を目指して進行中。
あっちへフラフラ、こっちへフラフラと、定まってはいないがそれでもゆっくりと北上し、今は夏だというのに薄着では肌寒く感じる場所にいる。
現在二人がいるのは北方の山岳民族“神無一族”の住まう神無山。その中腹に居た。
まぁ、山だから寒いのかもしれないが、そこでの出会いが今回の物語ってぇ訳だ。
それにしてもこの二人の旅の途中で見つける目的の面白さと言ったら羨ましい限りなもんだ♪
「お狼、お前さん元は狼だろう。
それだけ着こんでも寒いのかい?」
「阿呆、人化している時は体毛も薄いんだから仕方ないだろ。
でも、あたいが狼の姿に戻って人間に見つかると面倒になるだろ?」
「そりゃ狼は退治の対象だわな。妖怪なら尚更だ。
最悪俺まで一緒に銃で撃たれてあの世行きってぇ流れもありえるさ」
「だからこそ、無用な争いを避けるためにも人間の姿で耐えているあたいをお前さんの体温で温めようとは思わないのかい?」
「残念ながら、俺はここに来る途中で寄った峠の喫茶店でホッカイロを買いこんでいてね。
懐は温かいのさ」
金銭的な意味ではないが、少しはだけさせた八突の胸元に覗く貼るホッカイロ。
お狼はそれを奪い取ろうと躍起になるが、見事なまでに動きを予測して避けまくる八突。
だがまぁ、視界の悪い山道でそんなふざけっこをしていればどうなるかなど、もうお分かりだろう。
そう、足を滑らしてお狼が山の斜面を転がり落ちる。
八突は特に心配していないので「お~♪」などと歓声を上げながら見送ろうとしていたが、そこは連れ添ってそれなりの旅を続けているお狼だ。
一瞬にして尻尾を顕現させ、八突を絡め取ると二人揃って転がり落ちて行った。
まったくこの二人はこう言うところでも仲がいいことだな。
「おいおいお狼、お前さん俺が人間ってぇことを忘れちゃいないかい?
人間は崖から転がり落ちたら高確率で死ぬぞ」
「八突や、お前さんこそあたいが人間の姿の時は見た目通りの力しかないことを忘れちゃおらんか?」
「だが一瞬で元の姿に戻ることも出来るだろう」
「そっちこそ、古代武士秘伝の『受け身』で断崖絶壁から堕ちても助かるだろうに」
不毛な言い争い、仲が良いから起こる喧嘩。
まさにこれぞ古代武士の教えにもある『仲良く喧嘩しろ』という言葉通りだろう。
相手を掴む手は服に皺を付けたり髪を乱れさせないように配慮されているし、拳や蹴りは相手が防御結界を張った部分にのみ当てるようにしている。
これは二人が合意の上での仲良し度を上昇させるためのイベントのようなものなのだ。
しかし……しかしだ!
傍から見れば髪を掴み胸倉を掴み、殴り合い蹴り合いの帝釈天と阿修羅の戦った決戦のバトルフィールドめいた光景は、一般人から見れば神同士の戦いにも見えるだろう。
哀れにもこの光景を偶然にも見ていた善良なる一般人は二人の神がかった喧嘩を止めようと割り込んできたのだ。
「喧嘩はやめましょう!」
だが何と言うことか、二人は互いの防御結界を張ってダメージが通らない部分を狙うからこそ本気の攻撃を繰り出していたのだ。
その攻撃がこの第三者の急所に全弾命中! 花火のように華麗な鼻血を吹きだし、その闖入者は弧を描いて宙を舞った。
「な!? 一般人を思いッきし殴っちまったぞ、おい!!」
「八突のアンポンタン! 一般人の気配くらい古代武士から受け継いだ気配察知能力で感知するさね!」
だがやってしまったものは仕方ない。
どうやら他に人はいないようだし、偶々通りかかったこの不幸な一般人が不運だったということにしてそのまま立ち去るのも手だが、
それをやると物語が進展しないので声をかけよう。
「え~っと、お前大丈夫か?」
八突は問いかけるが、地面に降り積もった雪を鮮血に染めてうつ伏せに倒れるこの者はどうにも無事には見えない。
先ほどうっかり八突が殴った場所は鼻、お狼が蹴ったのは延髄。
つまり出血はコンマ数秒早く命中した八突の拳による鼻血だけで、直後に命中したお狼の延髄蹴りのおかげで血は止まっている。
歴史の中で、鼻血を止めるのに延髄チョップが有効とされた時代もあったので原始的治療を偶然にも行ったということでプラス・マイナス・ゼロとも言える状況。
倒れた若者は偶然にもこの二人の攻撃の当たり所が悪くとも良かったために置き上がることが出来た。
「こんな場所で喧嘩しちゃ駄目でしょーが!
血に釣られて熊が出てきたらどうするの!?」
どう見ても一升瓶2本分は鼻血を出しただろうに、不運な若者は置き上がって早々に八突とお狼を窘めた。
これが八突とお狼にとって、雪山での第一村人、榊 忠貴との出会いだった。




