第七話:仕事は早く、誰よりも
本日二度目の更新。
騒動の解決編ですね。
達坊の案内に付いていく八突とお狼。
どんなに大きな街でも……、いや、大きな街だからこそ人通りが少ない場所はある。
元々、木村地家があった十番通路付近も人通りが多くなかったのだが、それよりも奥まった場所に今の木村地家はあるようだ。
「長々と歩かせてしまい、すいませんでした剣御礼さん。
ここが今の僕らの住む家です」
恥ずかしそうに言う達坊に思うところもあったが何も言わずに八突とお狼は、そのボロ家に入る。
「これは……」
八突は目を疑った。
六畳ほどの薄汚れた掘立小屋に、最低限の生活用品。そして奥に横になっている男。
これが八突のよく知る筋肉加工の大職人、木村地親方の家だというのか?
現状を言葉にすることなど、八突には出来っこない!
「どうした達也……、埃が立つからあまりはしゃいでくれるなよ」
「違うよ父さん、お客さんだよ。
それも剣御礼さんが来てくれたんだ!」
そこで寝ていた木村地親方が起き上がる。
その姿を見た八突は驚き、お狼は八突の珍しい表情に心配そうな顔をする。
親方は体中を包帯で覆い、首を動かすのさえ不自由にしているのだ。
「久しいね、剣御礼の坊ちゃん。
ちょっと待ってくれよ、今起きる」
「いえ、そのままでいいですって!
……本当にお久しぶりです親方……」
「……」
「……」
「見ての通り、これが今の俺さ」
「親方……」
親方は八突に止められながらも礼儀として起き上がり、真っ直ぐに八突の目を見てこれまでのことを語り出した。
木村地親方は剣御礼家とも代々関係があり、八突とも、その父とも昔馴染みで、多くの仕事を任されていた腕の良い職人であった。
弟子の育成にも力を入れ、この動雷の里の発展に大きく貢献した人物。
そんな男がなぜ、こんなみすぼらしい格好をしているかと言えば弟子の一人が親方の権力を全て持って行ったからなんだそうだ。
「あいつだきゃあ許せねぇ!
俺の他の弟子たちを王都に推薦して自分はこの街の発展に従事するだなんて綺麗事言っといて、実質この街の独裁をしているだけじゃねぇか!」
「父さん、落ち着いて!」
達坊に抑えられるものの、語るうちに親方も興奮を抑えきれないようだ。
「なぁ、剣御礼――いや八突殿。
お前ももう一人前の男だし、これを言うのは俺の信条に反する。
だが、お前の親父さんにこの街の現状を伝えてほしいんだ!」
「それは勿論だが、これまでに出来なかったのか?」
親方が言うには、若い職人が抜け出してこの街の現状を余所に伝えようとしてもその前に殺されているのだそうだ。
いま街にいる年配の職人や訪れる商人たちは皆、親方をこんな目に合わせた弟子の息がかかっているそうだ。
おまけに親方自身は大火傷で身動き出来ず、まさに八方ふさがり四面楚歌ってぇわけだ。
分かり易いくらいに打つ手無しだねぇ~。
「よし来た! 俺が何とかしてやるよ」
だが、八突が自分からこの地に来た以上、打つ手無しなどではない。
この八突のセリフは、決して安請け合いした訳ではないのだから。
勿論、昔馴染みの親方に同情したわけでもないぞ。
命の危険があっても、苦労すると分かっていても、それでも親方やこの街を助けたいと思ったからだ。(あと意外と簡単に解決できそうだから)
そこに理由を求めるほど八突は野暮ではなく、そんな彼に惚れたお狼もまた同じだった。
親方の家を後にして二人は少し話し合う。
「お前さん、何か手はあるのかい?」
「なぁに、俺の手は二本しかないが、世の道理は多く知っている方さ。
ようするに、何とかするさ♪」
「相変わらず行動に『義』があるのに考え無しの男だねぇ。
でも、考えずに義に従った行動が出来るってのが、さらにあたいを惚れさせるのさ♪」
「ははっ、だからこその俺だ!」
お狼は八突の腕を取り、さらに人気の無い場所へと行く。
「ところでどうする八突?
なんならあたいが狼の姿で背負って行ってもいいけどねぇ~」
「いんにゃ、お狼。
男が女に頼るのは子が生まれるときだけさ」
「お? そいならば、あたいとこのまま子づくりでも?♪」
「それはまだ早い」
すでに一端の夫婦と言っても過言ではないが、二人の認識が「まだ」夫婦ではないというのだから、この二人の関係はしばらくこのまま続くんだろう。
しかし、それはともかく今回の騒動の解決手段をどうするかと言うと、
「俺にはお狼みたいに妖怪じみた能力はないが、人間にしかない能力ってのもあるもんだ。
すなわち、転位魔法ってぇ~やつよ」
「ほう、魔法といえば人間、人間と言えば魔法使い、だが八突が魔法を使えるとはとんと思わなかったよ」
「まぁ、俺は貪欲だからねぇ~。
面白そうなものがあれば何でも学びたくなるし、この魔法だって以前の旅の途中で知り合った魔法使いに教わったものだからなぁ~。
使うべき力を必要としている人がいるってのに手を貸さないのは、人として楽しく生きるためにゃ捨て置けない」
「それでこそお前さんだよ。
またも惚れ直しちまったさ♪」
「俺もお前さんに好かれる俺、と言うのが大好きさ♪」
そしてここでカッコ良く締めていればいいのだが、昔の一人旅をしていた時のことまで思い出して語り出そうとする八突。
が、それはこの本編とは関係ないのでこのままさっさと問題解決へと乗り出そうと思う。
魔法が使えようが使えまいが、八突は己の信じる道を行き、その行く末が彼らしさに繋がるのもいつものことだろう。
◆ ◆ ◆
夜の闇に紛れて光を放つ魔法陣。
闇夜に乗じて侵入する者あり。
真っ暗闇の夜のデカイ建物は、お化けが出そうでやんなるし。
……とまぁ、似たような説明文を少し言葉を弄って繰り返してみたが、結局のところ、八突とお狼の二人が夜中に敵の本拠地へと侵入したところからこの解決編は始まる。
「しかし、こうまで楽に侵入出来ると拍子抜けなもんだ。
てっきり入った瞬間『曲者だー!』の掛声と共に矢なり鉄砲なりが撃ち込まれると思っていたんだが」
「楽が出来ることを喜べない捻くれてる八突もいいねぇ~♪
あたいは自分の楽しみ以外で無駄に苦労するのは嫌なもんだけどさ」
「ばっか、お狼。
旅は面倒を楽しむものだろ? それが望む望まざるに関係なく、目的達成までの過程こそが一番楽しいもんなのさ」
「……」
八突の考えを理解するお狼なのだが、それでもやっぱり楽出来るところは楽したいために、それ以上は何も言わなかった。
「それで? この建物の最上階に悪政を敷く親方の元・弟子さんがいるらしいけど、どうする?
普通に登るのかい?」
「うーん、それもいいっちゃいいけど、この警備の薄さでな~んか興が削がれる……」
「しかし目的以外にすることなどないじゃないのさ?
それとも八突が新領主にでもなるってのかい?」
「……仕方が無い。ここは領主を必要以上にぶん殴って憂さを晴らすってぇのはどうだ?」
「自分の中で答えの出ている問題を人に投げかけるのはよろしくないよ、とでも返させてもらうさね」
しかし八突の期待は最後まで裏切られることとなった。
領主の屋敷の中を調べてみても警備の人間は一人もおらず、全ての部屋を調べても誰も居ないのだ。
つい先ほどまで人が居たであろう気配はあちこちに痕跡として残っているのに誰も居ない。
まるで神隠しにあったかのように誰もいない屋敷。
憂さを晴らすことも出来ずに仕方なく親方の元へと戻った八突とお狼は親方に聞いてみるものの、何も分からないとのことだったそうな。
翌日、明るくなって再度調べに行っても誰もおらず、領主一人の独裁状態だった動雷の里の状況が外にも知られることとなり、親方は外に出ていて今回戻ってきたかつての弟子たちに担がれて新領主へと就任。
はてさて、何がどうなっているのかまるで分からないが、八突もお狼も深く考えるのは好かんので考えなかった。
しかしこれは一体、何がどうなったのだろうか?
◆ ◆ ◆
八突とお狼、それに動雷の里の大半の人間が分からず仕舞いだった領主失踪事件。
少し時間を遡って何があったのかを語っていこう。
こんなことが出来るのも三人称小説というこの作品ならではのことであり、地の文としてもこうした描写を時間や場所を無視して語れるのを嬉しく思ったりする。
「あなたは少し、独裁が過ぎますね」
領主の屋敷にて、向かい合う二人の男女。
一人は動雷の里の領主、佐島 秀隆。
筋肉職人の木村地親方の弟子の中で最も人を操るのが上手かったために里一つをまるまる極秘裏に私物化している。
そんな男が一人の少女と向かい合っているのだが、なぜかその少女の方が上座に座り、佐島秀隆は超・下座。
これはこの二人の力関係を示しており、その違いとは権力だけでなく存在そのものの力の圧倒的な差を示しているのだ。
「な、何がでしょうか?」
佐島秀隆は脂汗を浮かべ、一つでも選択を間違えると即、死あるのみの状況だ!
それだけの凄味を目の前の少女は持っている!!
「気付いておられないのですか?」
「私には何のことなのかさっぱりで……」
佐島は本当に気付いていないのだから、こう答えるしかない。
必死に考えを巡らせるものの、これほどの圧迫を受ける失策はしていないはず。
「王都にいる木村地氏のお弟子さん方がこの地の不穏な空気を感じ取っています。
もう間もなくこちらにやってくることでしょう」
その言葉に佐島は恐怖する。
マズイ! 王都で酒池肉林に溺れさせてしまえば自分よりも優れた兄弟弟子たちでも親方への恩義を忘れて何とかなると思い、帰省してくることをまるで警戒していなかった!
自称、天才的頭脳を有する佐島だが、急な展開には弱く、あからさまに慌てた。
「それに今現在、タイクーンの血を引く剣御礼の子もこの地に着ているそうですがそのことには気付いておられますか?」
「なっ!? 剣御礼ですと!?」
少女はため息をつく。
この程度でうろたえるなど、所詮は小物。自分たちが求める器ではないということだ。
「佐島さん。私たちはこれからあなたとの関係を全て断ちます。
いまここで剣御礼と対立するのは上としても望んでおりませんからね」
「待ってください! 必ずや剣御礼の者は消しますし、この地に向かっている兄弟弟子たちも秘密裏に消しておきますのでそれだけはどうか……。
貴方の組織と手を切られるのは非常にまずいのです!」
「それはそちらの都合でしょう。
私は知りませんよ」
ここに動雷の里の領主、佐島秀隆の命運は尽きた。
文字通り、命が尽きたのだ。
「なので、あなた諸共消させてもらいます」
佐島の返答は無し。
それもそのはず、少女の体から無数に伸びた幾千幾万の触手に全身を貫かれ、絶命しているのだから。
「(ゴキュゴキュ)」
触手は佐島の体を串刺しにしつつも血の一滴も滴らせない。
すべてを飲み干すと、ミイラとなった死体すらも容赦なく飲み込んだ。
「ふぅ、しかし私にこのようなうつけ者の始末をさせるだなんて本部は何を考えているのでしょうか?
あぁ、そう言えば剣御礼の子が来ているのでしたね。
万が一にも失敗しない私だからこそこの地の粛清を任されたのだとしたら光栄に思うべきでしょう」
少女は立ち上がり、屋敷の人間を全て喰い終わると消えた。
まるで最初から存在していないかのように消えた少女に気づける者は誰もおらず、この屋敷に剣御礼八突が来るのはもう少しばかり後のこと。
さて、この少女と剣御礼の面倒極まりなさそうな縁は、今後どうなっていくのやら。
木村地 雄吾
五万度の筋肉熱量を誇る、煉瓦作りで有名な街の親方。
西から海を越えて伝わってきた「煉瓦」作りは、この地の男たちが筋肉で押し固めて作る芸術品であり、付近の街道にも敷き詰められている。
1000年経とうとも朽ちることはないといわれる。
そんな職人連中のトップだった。




