第六話:筋肉ムキムキ、細マッチョマンの八突
さてさて、気ままな旅を続ける八突とお狼。
関所を手っ取り早く通り抜けて狐たちと飲んで騒いだ次に訪れたのは一体どんな地なのか?
まぁ、どうなるにしても二人の旅はいつもの如く楽しいものになることだろう。
「どうだ、お狼?
ここがこの国でも数少ない<煉瓦>作りで発展した石の街“動雷の里”だ」
八突が示す眼前に広がる巨大な街。
旅慣れないお狼にとっては二番目に見る人里だが、前に見た鬼長谷の地よりもずっと大きく人の往来が多い街だった。
「こいつは凄いねぇ~。
八突は前にもここに来たことが?」
「ああ、ここは西方から海を渡ってやってきた連中が広めた<煉瓦>ってぇ、変わった石を加工して売り物にしているんだが、その需要が多いらしくてな。
各地の領主はこぞってこの地の煉瓦を城造りに使うそうだ。
確か伝えた連中は西方諸国で信仰されているフロウム教って宗教家だって話だが、宗教よりもこの煉瓦が広まってりゃ何のために海を渡ったのか分かりゃしないな」
海の向こうにはまだまだ知らない土地や文化も多く、それはこの<煉瓦>という石も同じだった。
フロウム教の信者たちは皆、筋骨隆々の体をしており、その筋肉を巧みに使うことで普通の石(種類は問わず)を手でこねて砕いて押し固めるんだそうだ。
その筋肉熱量は五万度もあり、その熱に反応した石の中のエネルギーが熱源たるフロウム信者たちの混沌たる筋肉に呼応する。
すなわち『筋肉加工』という新たな職人技の伝来と言う訳だ!
「ほら、向こうの店を見てみな。
店先で筋肉隆々、筋肉男の変態達が好きなように石を押し固めてるぞ」
「へぇ~、これが筋肉加工ねぇ~。
本来の姿に戻ったあたいでも出来そうにない加工を、脆弱な人間が行えるというのには驚いたよ」
「フロウム教には筋肉を鍛える呼吸法があるんだが、この呼吸法ってのがこの国に昔から伝わる武士道の呼吸に似てるんだってよ。
俺も教えてもらったし、素質さえあれば案外簡単に出来るっぽいぞ?」
「ほう、なら試してみるかねぇ♪」
八突に教わりながら道端で呼吸法を試すお狼。
「「すーっ! はーっ! すーっ! はーっ!」」
試しに二人は道端に落ちていた小石を手に取って筋肉加工を試してみるが、お狼の手にした石は変形することなく粉々に砕け散った。
反対に、八突の手にした石は、最初は角ばっていたが丸みを帯びていた。
「ははっ、どうやらお狼には筋肉加工の素質はないみたいだなぁ」
「そういうお前さんだって人を笑えるほどの変化は無かろうが!
ふん、あたいみたいな可愛らしい少女が筋肉自慢など、根本から間違ってるさね」
「負け惜しみに聞こえるが流してやるさ。
それに加工出来なくとも石を砕くだけの握力はあるじゃねぇかい」
「その発言は流しているようには聞こえないけどねぇ~。
それと妖怪だから人化していても、ある程度本来の力は出せるさね」
この筋肉加工、一流の職人ならば石を撫でるだけで一般的な直方体のブロックから、石像まで一瞬で作れる技術である。
ようするに石を丸っこくしか出来ない八突にも、素質はさほど無いということだ。
「それにしても、昔は若い職人が沢山それぞれの店先で修行していたのに中年の職人ばかりが目立つな。
しかも悪人面だ」
「そりゃ八突が老けたのさ。
お前さんが前に来たときから年数も経っているのだろう?」
「ほんの数年前さ。
まぁ、単純に仕事がきつくて若手が育っていないだけかもな」
二人は筋肉加工自慢をする職人たちを眺めながら街中を歩く。
「筋肉加工ってのも見る分には面白いけど、腹が膨れるでもない。
なぁ、八突。あたいが今何を考えているか分かるかい?」
お狼の腹の虫が鳴く。
「腹ごしらえが先だって言いたいんだろ?
お勧めの店があるからそこに行こうか。
俺に筋肉加工の初歩を教えてくれた気の良い筋肉職人の営む大衆食堂だ♪」
「そいつは楽しみだねぇ~♪」
数多くの職人たちがしのぎを削り、切磋琢磨の毎日を繰り広げる“動雷の街”。
その大通りから大きく逸れ、「十番」と書かれた標識の通路の奥の奥。そこに八突の目的の店が……あった(過去形)。
「お前さん、記憶違いをしていたのかい?」
「いやいやお狼、俺はまだボケちゃ居ないしここで間違いないはず……なんだけどなぁ」
八突が過去に訪れたという食堂は確かに食堂としてそこにあったのかもしれないが、今二人の目の前にあるのは炭化した焼け跡である。
「ふん、どうやら火事のようだけど、こいつは臭いねぇ~」
「あん? 臭いって何がだ?」
「いやなに、あたいには生き物の悪意を見抜く嗅覚があるんだけどね、こりゃ不審火だよ。
事故や天災での火事じゃない。誰かがここの家主を殺そうとしたれっきとした犯罪さね」
お狼の言葉に驚く八突。
ここの主人は腕のいい筋肉職人でアリ、とても人に恨みを買うような人物ではなかったように記憶している。
そんな職人の家に何ゆえ火付けが起こるのか?
そのことを考えながら、ふと視線を感じた八突が背後を振り返るとそこには見知った顔があった。
「……剣御礼さん?」
「おお、木村地親方の息子の達坊じゃないか」
声の主は少年。名を木村地 達也と言い、八突が昔世話になった職人の息子だ。
「お久しぶりです剣御礼さん。
何から話せばいいかわかりませんが、良ければ今の僕の家まで来ませんか?」
「確かに聞きたい事は沢山あるし、お邪魔させてもらおうか。
今は見ての通り連れと一緒だがいいかい?」
チラッとお狼を見る達坊。
「八突の妻のお狼さね」
「押しかけ女房だがな」
「家はないがの♪」
「家に籠ってちゃ見つけられないものがあるんでね」
「あたいみたいな?」
「お狼みたいな」
えへへーと顔を見合わせる八突とお狼。これどう見てもバカップルだろ、というツッコミは不要。
そして早速、嫁さんとの仲の良さを見せつける八突のに懐かしさを覚える達坊。
少し驚いた顔をしながら達坊もまた、笑顔で歓迎する。
「僕らは剣御礼さんの奥さんなら大歓迎ですから是非とも来てください」
「すまないね。少し邪魔させてもらうよ」
何やら陰謀の影が渦巻く気がするが、はてさて八突とお狼は今回の職人の家放火事件を一体どのような手段で解決するのだろうか?




