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第二十話:商人にも根性はあるんだぜ?

 最終回の一つ前のお話。


 二話同時更新ですので次話も含めるとそこそこ文字数多いです。

 旅を続ける八突とお狼。


 なんてことはない。いつもの導入である。


 しかし全てのものには終わりがあるもので、旅であれ、命であれ、始まったものは終わる。


 八突とお狼の二人旅が最終局面へと向かう今回のお話だが、はてさて二人はどのようにこの最大の危機を乗り越えるのだろうか?


 それとも困難にくじけるのか?


 ……いや、愚問だな。二人は何処まで行っても変わらないのだから。



 ◆ ◆ ◆



 八突とお狼が現在歩んでいる道の先には小さな村がある。


 名を烏麦村といい、一人の商人が村長として取り仕切る村である。


 村長の名は柳瀬 金治。彼の率いる柳瀬商会はこの村のみならず、近隣都市でも人気のある『烏麦クッキー』というお菓子で経済の9割をまかなっている。というか村内ではクッキーを独自通貨としている稀有な村だ。


 それで経済が回るだけの美味しさがあるクッキーだと言っておこう。


 だがそんな村の村長である柳瀬は、現在窮地に立たされていた。



「まいったな……これはどうしたらいいかまるで見当がつかない」



 一人、執務室にて今朝早くに届けられた手紙に目を通す柳瀬は呟く。


 手紙とはいうものの、その内容は親しい間柄の者に送る軽いものではなく、とある権力者が自分のために協力を強要する内容である。



「これまでこの村のクッキー産業を資金面で支えてくれた橋国家の命令だ。

 断ることは出来ない。……だが、受ければ私は死ぬ」



 内容はこうだ。

 剣御礼家の嫡子である剣御礼 八突が近々村に訪れるから始末しろ、この一言でまとめられている。


 勿論、手紙を出したのは代々宰相を務める橋国家の一人娘のらるるであり、出した理由も逆恨みだ。橋国家の現・当主の命令ではない。


 しかし、クッキーで発展した烏麦村に支援を決めたのはらるるであり、またこれまでも多くの便宜を図ってもらっている。

 彼女は八突と違って金を使った繋がりを作ることに力を入れていたのだから。


 この命令を断ろうものなら、烏麦村は橋国らるる率いる彼女個人の近衛軍によって地図から抹消されることとなるだろう。


 橋国家の力は元より、武力派である橋国らるる個人の持つ戦力は、一個師団を優に超える。


 中でも一騎当千と言われる橋国らるる親衛隊八人衆の実力は、冒険者ギルドのSランク相当だそうだ。


 命令を断れば、一人でもヤバい八人衆が全員で襲撃するという。


 これはもう詰んだ状況だろう。普通ならそう思う。

 この地の文だって三人称小説だからこそ、手紙の内容や橋国らるるの狂気を瞬時に理解できるのだ。


 柳瀬は……いや、柳瀬商会を含む烏麦村は滅びの道へと進もうとしていた。



「剣御礼家の者に手を出そうものなら死は免れない。

 かといって逆らえばこれも死。

 剣御礼家に暗殺話を流して味方しようにも、その前に殺される。

 ならばどうするか……」



 柳瀬は悪人ではない。これまでも商会を維持し、発展させるために清廉潔白な人生を送ってきたとは言えないが、それでも望んで誰かを不幸にしてきたことなど一度もない。


 村を守り、商会を守り、部下や家族を守り、その仲間たちの生活も全て守ってきた。


 だと言うのに突然の橋国らるるからの滅びの手紙だ。


 理不尽を怒鳴りたいが、それをすれば彼だけの問題では済まない。


 それだけ橋国家――橋国らるる個人はこの小さな村に大きな影響力を持っているのだ。



「しかし剣御礼家に歯向かうなど、どの道滅びしかないだろう。

 ならば恩を仇で返すようで悪いが、橋国らるる様には逆らわせてもらおう。

 私は一人の人間として、恩よりも義に従って死ぬ」



 明らかに今回のらるるの命令は間違っている。


 橋国家との決別。それがどれほどの重圧を伴う決断か、彼を間近で見てきた村の者たちならよく分かるだろう。


 だが彼は誰にも打ち明けることなく、被害を自分一人に留めるために橋国家との決別を決意した。


 烏麦村はすでに立派に成長している。橋国家の権力で潰されようと、村の仲間が散り散りになろうと、いつか必ず再興出来る。剣御礼家の嫡子殿が救ってくれる。


 そう信じる柳瀬は、決断したのだ。



「聞いているんだろう?

 らるる様……いや、らるるは用心深いからな。

 私が裏切ることも想定して手紙と同時に暗殺者の一人も差し向けているはずだ」


 柳瀬がそう言うと、執務室の影から小さな少女が姿を現した。


「よく分かったわね。

 でも分かった上で裏切るだなんて、殺す前に真意が聞きたいわ」


 やってきたのはらるるの側近として、彼女の影に常に潜んでいた月野 明日香。

 彼女もまた、親衛隊八人衆の一人だ。


「真意も何もない。

 橋国家に逆らう方が、剣御礼家の嫡子殿を暗殺するよりも胸を張って死ねるのでな」


 覚悟を決めてしまえば言葉も淀まず、言いたい事が言える。

 柳瀬は覚悟を決めた目で明日香を見た。


「それは八人衆に滅ぼされることを理解したうえでの発言?」


「そうとも。……いや、少し違うな。

 義に厚い剣御礼家の嫡子殿がこれからお前達がこの村を使って行うであろう悪事を暴いてくれるという信頼からくる言葉だ」


「そう……、私はあなたが嫌いじゃなかったけど、らるる様を裏切るあなたはもう要らないわね。

 消させてもらうけど、最後に言い残すことがあるかしら?」


 明日香は殺すと決めた目で柳瀬を見る。柳瀬は殺される覚悟を持って明日香を見る。


「剣御礼様を舐めるな」


 その言葉を最後に、明日香の体から這い出した触手に柳瀬は貫かれ、骨も残らず全て食われた。


「それじゃ、らるる様のために作戦を開始しましょうか」


 何でもないように明日香は言うと、剣御礼 八突とその妻を名乗るお狼を殺害するための工作を行う。


 そして、八突達が村へとやってきたのは彼女の準備が終わってすぐのことだった。




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