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最終話:二人はいつまでも

 読まなくても内容的には問題ありませんが、二話同時更新なのでこの最終話の前にもう一つ投稿しています。


 今回は八突とお狼の旅の行く末ってなお話♪


 八突とお狼の二人は今日も歩いていた。


 橋国らるるとの出会いも、すでに過去のものとなり、適当に道なりに、時に道なき道を。

 そんな感じで歩き続け、たどり着いたのは「烏麦村」という小さいながらも一つの商会が取り仕切る村だった。



「ほれ、お狼。お前さんならもう少し村の手前から分かっていたんだろうが、良い匂いがするだろう?」


「ああ、確かにするねぇ~。あたいの鼻孔をくすぐる美味そうな匂いが♪」


「この村は烏麦クッキーってぇお菓子作りが盛んでな。

 工場での生産なんて当たり前の手段のみならず、

 農場でクッキーを栽培したり、鉱山からクッキーを掘り出したり、ロケットで別の星のクッキーを持って帰ったり、

 はては錬金術で金をクッキーに錬成するほどにクッキーが浸透している村だ。

 噂じゃもっと凄い方法でクッキーを生産しているそうだが、クッキー関連の商売は柳瀬商会が情報を規制していて俺も全ては知らないがね」


「あたいの予想だと、異世界へ行ったり、過去へ行ったりという事までやっている気がするさね」


「それ位はやってそうだなぁ~。

 まぁ、流石にそれ以上はないだろうけどな」


「幾らなんでも、これ以上にクッキーに拘るクッキー狂いなんぞ居らんと思うよ」


「「HAHAHA♪」」



 互いの顔を見合せて笑い合う八突とお狼。

 これもまたいつもの光景だが、ここから先はいつもの光景とは違う場面へと移る訳なのだが、それをどう説明するべきか……。


 まず、最初に言うならば、……そうだな。八突とお狼は村を取り仕切っている柳瀬商会へと向かい、クッキーコーナーに行ったのだ。


 勿論、クッキーを食べるため。


「おやおや、お客さんですか。

 この商会はクッキーで近隣の市町村に大きな影響を持っているのです。

 一億枚でも一兆枚でも、天下のタイクーンの家柄である剣御礼家の跡取り様とそのお連れ様でしたら好きなだけ食べて行ってください♪」



 出迎えたのは一人の老婆。


 この店の奉公人のようだが、年の割には動きに洗練されたものがない。


 八突達が店に入った時、老婆はクッキーを袋詰めしていたが、割れたクッキーまで袋詰めしていたのだ。

 名の知れたクッキー屋の奉公人にしては問題がある。


 しかしクッキーを食べることで忙しかったのでお狼は考えることをやめた。


 八突は老婆の正体に気がついたようだが。



「さて、ところで婆さん。

 この店の人間じゃあないだろう?」


 八突がクッキーを頬張りながら老婆を見る。鋭い視線!


 対する老婆は八突の武士的タイクーン・オーラで睨まれながらも怯むことなく見つめ返す。


「はて? 何のことやら分かりかねますね?」


「今の俺の目を見ることが出来る時点でお前さんは人外だよ。

 俺は今、視線に毒属性の魔力を込めている。

 人間なら発狂しているさ」



 言うが早いか八突は視線に込められた魔力を火属性に変え、熱視線によるアイビームが老婆を襲う。


 だが、おお! 目の前で起こっている事実を淡々と語るべきこの地の文ですら認識出来ないほどの高速で老婆は避けた!!


 まるで触手めいた奇妙な動きは、機械のような正確さとは正反対。

 だからこそ老婆は八突の直線的な目ビーム攻撃を避けれたのだ。



「なぁ~るほどね。

 お前さんは確か、らるるの従者の月野 明日香だったっけか?」


 老婆が人間には不可能な動きをしたからか、八突暗殺を企む明日香の変装は解かれてしまった。


 どうやらこの老婆は明日香の変装だったようだ。



「らるる様の恋心を踏みにじったお前を許す訳にはいかない。

 八突、貴様は私が殺す!」



 八突は再度、アイビームを繰り出すが、それを気にせず明日香は突き進む。


 当然、今度の攻撃は明日香に命中するが気にせず突っ込む明日香!


 これはおかしいぞ? 八突は明日香の攻撃が触手であったことから草属性の魔法使いだと予想し、効果抜群の火属性魔法で攻撃しているというのに、喰らったところで何の影響も無いようだ。



「ふふん、私の属性は草と水!

 火の魔法は威力等倍なだけでなく、貴様を暗殺する前準備として、らるる様の特性『豊満な胸(火・氷属性半減)』を特殊魔法で交換しておいたのよ」


「の割に、チンチクリンのストン体型じゃねぇか」


「体は変わらないものよ!

 らるる様が愛してくれるのだから、私は自分の幼児体型も気に入っているの。

 それよりも、貴様は自分の心配をすることね」



 こんなことを言われれば八突でなくとも相手の攻撃に備えようとするだろう。


 そりゃ~自分の攻撃が通用しなかったことで隙が生まれているのだ。相手はその隙を突いてくる。


 しかし、ここではっきりと言っておかねばならないのは暗殺者である明日香の殺害対象だ。


 彼女は主人のため、恨みを晴らすために暗殺に来ている訳だが、何も八突だけが対象ではない。


 当然、らるるが欲していた八突の隣――すなわち妻(予定)の立ち位置に居たお狼も殺害対象である。



「なっ!?」


「気付いてももう遅いよ!

 私が今回、この暗殺に用意したのは映画撮影で使うような特殊メイクによる変装だけでなく、武器なんだからね!」



 な、なんと!? 明日香が取り出したるは毎分200発もの弾を撃ちだす回転式機関砲!


 それだけならまだ八突にも手はある。

 確かに銃弾という物理攻撃を防ぐのは八突の魔法や体術では難しいが、それなら避ければ済む話だからだ。


 問題なのは、この回転式機関砲が誰を狙っているかと言うことだ。


ずごごご~!


 派手な音を響かせながら放たれた銃弾は、これまで八突と明日香の戦闘に目もくれずにクッキーを食べ続けていたお狼を狙って放たれた。


 この状態のお狼は自慢の耳を含む五感の全てをクッキーに集中している。避けられない。



「んむ? 八突?」


 振り向いたお狼の頬を、飛び散る鮮血が染める。


 クッキーを頬張りながら振り返ったお狼が見たものは、自分を庇って銃弾の雨あられに全身を貫かれた八突の姿だった。



「ふん、貴様ならそうすると思っていたさ!

 だからこそ先に殺させてもらったわ!」



 明日香の計画はこうだ。


 まず村に来た八突とお狼の二人はクッキー屋である柳瀬商会にやってくる。


 そこで特殊メイクで老婆に扮した明日香が襲撃し、クッキーに釘付けのお狼を無視して八突と一騎打ちをする。


 しかしここで急に標的をお狼に変えることで、それを庇う八突は為す術もなく殺されることになる魂胆だったのだ。


 そしてその策は成り、八突は全身を高性能な回転式機関砲に貫かれ、相棒であるお狼も放心状態。


 勝った! 間違いなくこの勝負は明日香の勝ちだ! 彼女は心の中でそうほくそ笑む。


 だが……、お狼が妖怪であることを忘れてはいけない。



「このまま貴様も死んじまいなぁぁぁぁー!」


 ずごごご~! 再び放たれる銃弾がお狼を襲う。


 だが、その銃弾のすべてを失意の中にあるお狼は無意識にはたき落していた。


 これまでの彼女の実力から考えて、毎分200発もの銃弾を拳で撃ち落とすのは至難の業だというのに、何が彼女をここまで成長させたというのか!?


 愛情? 憎しみ? 怒り? いいや、その全てだ!



「お前さんの中ではあたいと八突を殺すのは決定事項なんだろうさ。

 だけどねぇ~、あたいがお前さんを殺すってのも、今この瞬間に決定事項になったさね!」



 静かに、それでいて内心では激しく。燃え上がる感情はお狼を立ち上がらせる。


 彼女はその腕に抱き寄せたボロボロの八突の遺体を見て、感情を覚悟に変えた。



「八突……、初めて会った時、お前さんはあたいを楽しませることを条件に命乞いをしたねぇ。

 実際に殺し合いをすれば自分が勝てたであろうに、あたいが女だから傷つけまいと思ったんだろうよ。

 そんなお前さんだからこそあたいは惚れた」



 お狼は、この瞬間も続く明日香の銃弾を片手で払い、気に止めることなく言葉を続ける。



「お前さん、結果的にはあたいを楽しませるどころか悲しませてるじゃないのさ。

 これは約束に反することってことで、あたいも約束を破らせてもらうさね。

 なぁに、あとのことは知らんが、少なくともお前さんに恥じることはしないさ」



 お狼は言葉をやめた。


 そして、お狼ですら判別が難しくなった八突の遺体を、彼女は喰らったのだ。



「なっ!? 八突の死体を食うだと!?

 この妖怪め! その死体は貴様を殺したあとに持ち帰り、らるる様のコレクションとして展示する予定なのだぞ!」


「知ったことかクソ虫が!

 八突はあたいのものだ! 血の一滴すら渡すものか!」



 お狼にもはや言葉は通じないだろう。


 彼女は八突の人間離れした魔力をその身に取り込み、彼女自身が持っていた妖力に加え、八突が持つ霊力、魔力、気力のすべてを己が血肉とする。


 二人の長所が融合し、最強に見える!



「くっ、 こうなったら計画の前倒しになるけど仕方がないわね。

 らるる様親衛隊八人衆が総出で殺す!」



 明日香とて敬愛する主君のために負けられない戦いだ。


 なりふり構わず仲間の八人衆全員をこの場に呼び寄せ、数の暴力でお狼を殺そうというのだ。


 だが、しかし! おお、なんたることか。八突を食らって力を増したお狼に人間風情が数で勝てるはずなどないのだ!!



「我は八人衆が一人、“神速の”一野 二郎!

 神の如き速い足さばきを見抜けるか?」


 八人衆最速の男が単騎掛けをするが、今のお狼の速度は神をも超える。

 そして他の八人衆も似たような感じだったので割愛された。



「馬鹿な! 我ら八人衆はらるる様への忠誠心で肉体の限界を気合いで超えた集団だというのに、それすら凌駕するというのか貴様は!?」


「……」



 明日香の問いかけに何も答えぬお狼は、最後に明日香を憐むように見て拳を振り抜いた。



「忠誠心や愛情も立派だけどねぇ~、あたいはその愛情を捧げるべき相手を目の前で殺されちまった不甲斐無さをさらに持っているんだよ」



 塵も残さず消し飛んだ八人衆。

 お狼は自分の腹を撫でると、たった今食ったばかりの八突の肉の美味さと気持ち悪さに吐きそうになった。


 だが、吐くわけにはいかない。八突とは、もうこの方法でしか繋がることが出来ないのだから。


 お狼は一人、歩き始めた。



 ◆ ◆ ◆



 どれほどの月日が流れただろうか……。

 剣御礼家の跡取りであった八突の足取りと同時に、橋国家の一人娘までも行方不明になってから。


 そして八突の妻として各地で知られていたお狼の行方も知れぬまま。


 政府はこの事態をどう捉えるかで意見が割れたが、問題となる剣御礼家の当主と橋国家の当主の間はこれまでと変わらないことから両家の対立などという図式は出来なかった。


 跡取りを失くした剣御礼家も橋国家も、時を同じくして新たに後継ぎとなる子が生まれたのもあるだろう。


 旅に生きるのであれば、旅に死ぬこともある。

 八突の父は寂しくとも国を統治する者として涙など見せず、息子・八突の死を伝えてくれた義娘・お狼のその後を案じながら、しかし変わらずに国を治め続けた。


 そうしてタイクーンや宰相も何代か世代が変わった頃、ある二人組の噂が巷に出回っていた。


 何でもその二人組というのは、狼の耳と尻尾を生やした可愛らしい娘さんと、体が透けた幽霊のような背の高い男だという。


 男の方は、体が透けていることに関しては「シースルーの服だ」と言い、

 娘の方も「ファッションさね」と言って耳と尻尾を嬉しそうにふりふりする。


 さて、この二人は何者なのか?


 二人を知る者がいなくなったことだし、この地の文も語るのをそろそろ終わろうと思う。


 これ以上の説明など野暮というものだ。


 二人は旅を楽しんでいるというのに、それを覗き見るような真似をすることになるのだからね。


 かくして、一人の旅人とそれに連れ添った妖怪は、旅に生き、旅に死に、そうしてまた旅を続けるのだった。



「人間死んだらあの世に行くのがルールだろうが、まだこの世のすべてを旅してないからな。

 それに、旅の相棒を残したまま逝くわけにゃあいかねぇよ。

 約束しただろ? 満足させてやるってよ」


「二度とあたいを満足させないまま消えるんじゃないよ?」


「だがそれも旅の醍醐味さ」


「愛してるよ、お前さん」


「俺は変わらねぇよ」


「ってことは、最初からあたいに惚れていたんだねぇ~♪」



 世界を旅し尽くしても、その世界は毎日進化していく。

 つまり始まりはあるのに終わりが無いと言っているようなものだ。


 二人の関係は最初からずっと変わることなく続いて行く関係だったとさ。



 ~おしまい~



 これにて完結です。


 このあとの展開を語るのは地の文さんも言っていますが野暮ですし、作者としての感想ってのは活動報告にでも書こうと思います。


 では、ここまで読んでいただきありがとうございました。

 また次回作かどこかでお会いしましょう♪

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