第十五話:黄金の山の頂を目指して
麓の人間を見下ろすかの如く、しかしそれでいて見守っているかの如く。
母のような慈しみの母性と、父のような突き放した父性が合わさって荘厳な雰囲気をたたえて見える山――人呼んで『卓袱台山』。
ここはかつて、黄金に輝く巨鳥が暮らしていたと言うが、今はその影もないという噂のみが広まっている。
威光もすでに消え失せ、旅人達はその噂の真偽を知ろうと今日も山へと繰り出す。だが険しい山は頂上へと目指して進む者を拒む!
落石、魔物、地割れ。例を上げればキリがないがそれだけこの山は厳しい。
そして山の厳しさを知って逃げ出す者も多いが、だからこそこの山を制覇しようと登る者は後を絶たない。
山には自然の恵みが山のように(山だけに)あるので命を賭して向かう価値があるのだろう。
そんな中、この険しい山の登頂に成功した者が現れたのだ!
さぁ、もうお分かりだろう。
その登頂者こそ、旅に生きる男、剣御礼 八突とその相棒の妖怪、お狼である。
今回はこの二人が山登りをするお話だ。
「それにしてもお狼。
お前さんの体力も流石は妖怪って感じだなぁ~。
何だかんだで華奢な女子に見えるその細い四肢でこの山を制覇できるなんてよぉ」
「かっかっかっ♪ 今更な突っ込みじゃないか。お前さん。
あたいは妖怪の中でも『大』妖怪さね。 これ位の山ならお前さんに会う前にも登頂したことくらいあるさね♪」
「そーかい。確かに見た目通りじゃないのは知っちゃあいるが、それでもお前さんの可愛らしい容姿に騙されそうになってな」
「あたいは可愛らしいかい!?」
「ああ、可愛らしいとも。
ただし、俺が結婚するかと言えばそれは別問題だなぁ~♪」
この二人はすでに長年連れ添った夫婦のようにも見えるが、書類の上ではまだ正式に結ばれたわけではない。
肉体関係もまだなわけなのだから恋人であるかすらも疑問ではあるだろうが、実際にこの二人を見てその間に入ろうと思える者はいないだろう。
それだけ濃厚な恋愛っぽさを出しているのだから。
「ところで八突。
お前さんこの山に封印されているであろう伝説の黄金鳥を探しに来たのかい?」
「そりゃトレジャーハンターだのミステリーハンターだのの仕事さ。
俺がこの山を登ったのは、そこに山があるからだ。
特に何かが目的ってぇ訳じゃないさ」
しかしそれでも強いて言うならば、八突の目的は宝でも鳥でも面白い出会いがあれば、とは思っている。
だからこそ山を登り、頂上に到達し、伝説上の黄金の巨鳥の巣らしき場所に野営準備をしているのだ。
「なぁ、八突。今夜の野営準備は魔法で屋敷を建てないのかい?」
「おいおいお狼。
お前さん、この伝説の鳥の巣らしきものの痕跡を見て屋敷を建てろってか?
ここは鳥の巣で寝て鳥気分を味わう方が旅人~って感じじゃぁねぇかい?」
「いやいやいや、あたいはこれでも狼の妖怪だよ?
鳥の気分ってお前さん、捕食対象の気分になってどうしろってのさ?」
「弱者の気持ちを理解してこその強者だろう。
弱きを知り、それでも喰らう強者こそが揺るがない強さを持つ者だ」
相手の立場になり、それでも自分は強者の立場に居続ける。
人も妖怪も、弱い者の気持ちを知るからこそ、自分の大きさを知れるのだ。
ただしこれは自分よりも弱者がいる立ち場にいる場合であり、また逆に自分よりも強い者をを知らない弱き者は小さな器で満足できるという意味の言葉だ。
八突はお狼を楽しませるという約束で旅に同行させているため、こうした小さなやり取りの中にも人生を楽しくさせる秘訣をチョイチョイ混ぜてくるのだ。
そして八突の思惑に気づいたからこそ、お狼も神妙な顔をして耳を傾ける。
人の話を素直に聞くお狼の真面目さと愛情も立派であるが、相手に聞いてもらえるように話す八突の話術も称賛しておくべきだろう。
普通、こんな分かりにくい説明は「どうでも良い」の一言で片づけられるのだからな。
「そんじゃこの巨大な鳥の巣の塵や埃を風魔法で払い、汚れを水魔法で洗浄。
火魔法で浄化の炎に包み、草魔法で新しい鳥の巣を拵えれば今日の野営準備は完了だ♪」
「ん~? その行程だけど、古い巣を燃やして新調するくらいなら屋敷を建てても良くないかい?
当初の伝説の巨鳥の巣にくるまって鳥気分で眠るって目的になることにはならないと思うんだけど」
「いや、その巨鳥の巣ったって、この山の山頂の荒れようからして何百年前に作ったのかも分からんし、近代建築の技術を身に付けた俺の作る巣の方が寝心地がいいだろう」
「寝心地よりもロマンを求めて鳥の巣で寝るのでは?」
「浪漫を求めつつも快適に寝たいから俺は魔法を覚えたんだよ。
この古臭い巣を燃やすのも俺らしさってもんだなぁ~」
八突はかつて快適な野宿をするために建築家に弟子入りしたこともあり、その技術と組み合わせた建築魔法は実際凄かったりする。
草属性の魔法は植物を自在に操るので、鋸や鉋がなくとも必要な形状に加工された木材を生やしたり出来るし、よくあるエロエロな展開を演出する触手魔法も草属性の魔法の派生だったりする。
この世界にも妖怪はいるが、ウネウネと蠢き怪しげな汁を先端から噴き出す触手は草魔法でしか作れないのだ!
……ゴホン、少し話は逸れたが、草魔法と八突の建築術の融合というのは作る物が鳥の巣だとしても本職の鳥が作るよりも快適なのである、と一言でまとめてしまおう。
「おっと、しまった。
草魔法で巣を新しく作り直そうとしたら『葉っぱ水着』が出来ちまったな」
八突が作り出したのは葉っぱで出来た水着。
ご丁寧に蔦植物を絡めさせ、色とりどりの花をあしらったその水着は、本職の人間が作ったものと比べても遜色がない品質だ。
勿論、うっかり作ってしまったものだし男女用両方があるので八突とお狼は二人揃って水着となり、新たに作り直した鳥の巣(八突お手製)にて二人は寝ることとなるのだが、水着姿で何もなく就寝などつまらん!
とは思わないかね? いや、これは地の文として盛り上がりを求めてしまう悪い癖なのかも知れないが、少なくとも二人の内の片方――お狼は世の常というものをよく理解しているのだ。
「なぁ、八突。まだ起きているかい?」
「……」
「寝たふりしようとあたいには分かるよ。
ほれ、その股間のものを差し出せば沈めてやるさね♪」
「……」
「なるほど……、あくまでも無視するってのかい。ならば戦争だ!」
お狼は拳を握ると隣で眠る八突の顔面に叩きつける。これは八突を気絶させてその間に行為に及び、責任を取らせる形でお嫁さんになろう作戦だ!
しかし、何と言うことか!? 八突は狸寝入りをしているだけに、金属製の茶釜に変身!
これぞ八突の家に代々伝わる技『寝込みを積極的に襲ってくる女性を諦めさせるの術』だ!
八突の家は先祖代々タイクーンとしてこの国の統治してきた由緒正しい家柄である為、好む好まざるに関係なく、周囲の女性は皆、積極的なのだ。
「あいたたたぁ~……、お前さん本気であたいの性欲を刺激してくれるじゃないのさ!
今度は本気で行くよ! 耐えられるものなら耐えてみるといいさね!!」
「何度でも来るといい。
俺はお前の誘惑に屈しない!」
対する八突も婚前の行為は行わないと決めている。
この先お狼と結婚するとしても、八突はまだお狼に惚れている訳ではないのだ。
一緒にいると楽しい、これからもずっと一緒にいたい。八突にとってお狼とはそういう認識の女である。
男として、彼女を守り、愛し抜く覚悟が出来ないうちは決して抱かない。八突のそんな気持ちにお狼とて気付いているだろう。
だとしても振り上げる拳は止めない。『それはそれ、これはこれ現象』である。
結局、手心を加えることもしないお狼だが、彼女の拳が金属製の茶釜に変身した八突を砕くことは出来ずに夜は明けるのだった、
◆ ◆ ◆
朝は快眠から目覚めた健康的な八突。
それとは反対にお狼は眠たげな。
まぁ、こんな朝もあるだろうが、二人は今日も、未知なる冒険を求めて旅を続けるのだった!
八突は男としてお狼に心から惚れる自信を身に付けるために!
お狼は女として八突に信念すら曲げて行為をさせるために!
進め! 二人の道が重なるのはもうすぐだ!




