第十三話:クレープ殺人事件
膝に矢を受けた衛兵が居そうな町。
突然の始まりはいつものことだが、今回の話の始まり方は特に突然性に満ち溢れる始まり方だと最初に言っておこう。
まず、何が突然かと言うと、女性が倒れていた。
「ほぉ~、こりゃどう見ても死んでるな」
「そうさね。頭が悪い奴でも気付けるくらいに分かり易く死んでいるねぇ~」
八突とお狼はその死体を「死んでいる」という、ごく普通の感想を持って眺める。
その女性は確かに死んでおり、首から上が消失し、手にはイチゴのクレープを持っていた。
死因は鈍器のようなもので頭部を殴られたことによる頭部の爆発四散。壁に破裂した頭部の残骸があることから間違いないだろう。
首から下は無傷なため、近くの奉行所から来た与力・同心の調べですぐに身元も分かり、所持品などからこの近くに住む空岸 亜舞さん二十四歳と判明。
事件を担当した与力千人隊長はこの事件を振り返ってこう言うのだ。
「ん? あぁ、幸運というべきか、俺が現場に向かった時には全て解決済みでね。
俺自身も詳しく知りたいなら調書を読んでくれよ」
そう言うのはここ、白走町の町奉行所に勤める、石津 省三。
梯子降りの世界大会で金メダル常連の彼と、今回の話の内容とも言える事件を語って行こうじゃないか。
◆ ◆ ◆
ここ白走町に限ったことではないが、各市町村の町奉行所には捜査課が一課から四課まである。
一課だけ見ても、傷害を扱う強行犯捜査。強盗、強姦を扱う強盗犯捜査。放火担当の火災犯捜査。誘拐、人質籠城、企業恐喝、ハイジャック、爆破事件などの特殊犯捜査などなど、その職務は多岐にわたる。
二課は詐欺、贈収賄、選挙違反などの知能犯捜査。
三課は窃盗、スリ、通貨偽造などの盗犯捜査。
四課は暴力団担当、マル暴として知られているので、ここの課長は代々「薬丸(ヤク○)」という苗字の人間が就くという風習がある。
世襲制ではないが、この風習のために代々同じ薬丸家が役目を引き継ぐことが多いが、そもそもこの町の近辺に野生のヤクザは生息しておらず、存在意義がないので誰が就こうと問題ない役職と言えるだろう。
今回、この地の文と一緒に事件を振り返っていく石津与力千人隊長はこの何処にも属さない与力だ。
彼の職務内容については、「異端審問官」とでも言えばいいのだろうか。
分かり易く言うなら裁判権を持つだけでなく、独自に悪人を捕まえて断罪する処刑人のようなものだ。現行犯死刑も日常茶飯事である。
この世界では、どうしようもない屑は見敵必殺しても良いのではないか? と、まともに議論された結果、極めて優秀な与力をこの役職に任命し、裁判権と銃と刀の携行と使用を許可している。
そんな彼がいつものように出前によって届けられたの「ザル・優曇華」を見て楽しんでいる時、今回の事件は起こった。
(「ザル・ウドン」はナウなヤング達にバカウケなので、石津隊長はその風潮への反発から、あえて優曇華の観察を食事の代わりにしているのだ。
「ザル・ソバ」は死にかけの老人が最期に食べる物という風潮があるため、そもそも人気がない)
「なに? 頭部が爆発四散した密室殺人事件で犯人を捕まえたから来てくれだと?
しかも捕まえたのがこの国のタイクーンの剣御礼家の者だと!?
おいおい、ここはいつからタイクーンの一族が観光に訪れるほど有名になっちまったんだ?」
最初、電話で報告を受けた石津は何かの冗談だと思った。
そりゃそうだろう。剣御礼家と言えば町奉行所にて与力千人隊長という高位役職に就く石津と比べても雲の上の人間なのだ。
そんな凄い人が観光に来るほど、この白走町は観光名所がある訳ではない。
『そうは言っても隊長。
実際問題、現場に一番に駆けつけた俺は剣御礼家の嫡子どのに会っちゃった訳ですし、タイクーン・オーラを見せてもらったので嘘な訳ないッスよ』
「う~む、タイクーン・オーラを出せる人物なら剣御礼家の一族と見て間違いないだろう。
そもそも剣御礼家の名を偽名に使えるアホがいるのなら会ってみたいものだ」
剣御礼家は代々タイクーンとしてこの国を統治してきた歴史とオーラのある家柄のため、偽名でこの名を名乗る者は死すら生ぬるい地獄を味わう、と憲法にも明記されている。
石津隊長も叩き上げなので、今の地位に昇るための昇進試験でも何問か剣御礼家に関する問題が出ていたのでよく知っている。彼は詳しいんだ。
「よし、それじゃあ犯人を捕まえたってことは、問題ないんだろうが俺が行くまで場を和ませておけ。
殺人事件が起きたんなら、偶然居合わせちまった一般市民は恐怖で自傷行為に走る可能性が無いとも言いきれないからな」
『了解しましたぁ~ッス♪』
やれやれ、と煙草に火を付ける石津隊長。犯人が問題なく捕まったのはいいとして、剣御礼家の者の手を煩わせてしまっただなんて上にバレたらなんと言われることか。
剣御礼家は悪人以外にはこれでもかと言うほどに寛容な一族なので、その一族内では問題にはならないだろう。
だがしかし、この国の宰相である橋国家などは剣御礼家に古くからつき従っているため、町奉行所の予算を八割カットしてくるなどのイチャモンを付けてきかねない。
為せば成る、は橋国宰相のお気に入りの言葉だと、石津隊長は宰相から直接小言をよく言われて頭の禿げあがった上司の顔を思い出す。
しかし上司の禿げたおっさんの顔を思い出しても面白くないのでそんな想像は止め、すぐに現場に向かうのだった。
◆ ◆ ◆
「と言う訳で、被害者が持っていたクレープがストロベリー味だったから容疑者の中で藁をとても(very)持っていた容疑者の一人、近藤 苺樹さんを疑った訳だ。
しかも読心術で心を読んだら『私が犯人だぜ! 証拠は鞄に入れたハンマーだぜ! 動機は狩りの途中に彼女から膝に矢を受けたからだぜ!』と考えていたのもあって捕まえたんだ。
密室に関しては、計画的な殺人だっただけに合鍵を事前に用意していたんだと」
「お前さん、説明口調長すぎじゃないかい?」
「そりゃ~、こんなちっぽけな事件はメインとして取り扱うほどでもないからさ」
現場に到着した石津を出迎えた剣御礼家の者は軽い口調で事件の説明をしてくる。
読心術が使えることもそうだが、直接見れば猿でもわかるタイクーン・オーラ!
この輝きの色は剣御礼家の直系であり、名刺交換で知り得た彼の名前は現・タイクーンの息子ではないか!
石津はへーこらしながら恭しく接し、剣御礼家次期当主の八突の傍で微笑む美少女にも愛想を振りまく。
獣のように鋭くも八突への愛情の深さを滲ませる彼女は剣御礼 お狼と名乗り、八突の嫁であると言う。
この説明に関しては読者のみなさんは分かっておられると思うが、八突は説明が面倒な時は基本的に省くため、お狼自身が適当にでっち上げて話しているのだ。
だから結婚など「まだ」していないし、披露宴や書類手続きすらしていない。
お狼の草の根活動の一環が、こうした市井の人々に剣御礼家次期当主はすでに結婚しているんだぞアッピルに繋がると言う訳だ。
そうして八突とお狼は事件のあらましを説明し終えた後は爽やかな笑みを残して去って行った。
この事件を振り返って石津与力千人隊長はこう語る。
「いやぁ~、ありゃお似合いの夫婦だったな。
なんせ強さと可愛さを兼ね備えた少女がべた惚れし、夫である剣御礼氏はとんでもなく紳士的だったのさ。
だから俺はこの出会いに感謝し、おまけで頼み込んで与力千一人隊長への昇進が決まったってわけよ♪」
八突とお狼は、偶然出会っただけの人間にも大きく影響を与えてしまうのだ。
彼らの今後はどうなることか、もう夫婦を名乗っても違和感がないことが素晴らしいな。うん。
と、言う訳で今日のお話はこの二人が実際夫婦に間違われたエピソードってわけだ。
与力千人隊長と与力千一人隊長は、軍隊階級で言うなら大尉と大将くらいには違います。
ちなみに石津隊長の愛用の煙草はショートホープです。
あのちっちゃな箱が可愛らしいのでギャップ萌えを狙ってみる本編に関係のない設定。




