エピソード7-3
……いや、いや。どう見ても年下には見えないんですけど。
……てか、マサトさんの反応、おかしくない?
「『そうだけど?』って、私がいくつか知ってるの?」
「あぁ。今年の十月で二十二だろ?」
「……なっ……」
「あ?」
「なんで知ってるの?_」
私は自分の年齢をマサトさんへ話したことなんてない。
昨日だって名前しか言っていないし、今日だってゆっくり話す時間なんてなかった。
それなのに、なんでマサトさんは私の年齢を知っているのだろうか?
マサトさんの手を掴んでいた私の手に、思わず力が入る。
一瞬、その手へ視線を落としたマサトさんは、ゆっくり顔を上げた。
そして、その視線は私の目で止まる。
鋭い目に見つめられ、思わず視線を逸らしそうになった。
だけど、ここで逸らしちゃいけない。
そう自分に言い聞かせ、私はその目を見返した。
マサトさんもしばらくまっすぐこちらを見ていた。
だけど私があまりにも見つめ続けたせいか、それとも鬼気迫る顔を見るのが嫌になったのか、彼はふと私から視線を逸らした。
「マサトさん?」
「どこにいるのか調べたかっただけなんだ」
「えっ?」
「学生なのか社会人なのか……どっちにしろ、昨日の夜この繁華街で会ったってことは、お前の生活になにかしらこの街が関わってるかもしれねぇと思ったんだ」
「うん」
「だから調べた」
「調べたって……どうやって?」
首を傾げると、マサトさんはポケットからあるものを取り出し、軽く振った。
「……スマホ?」
「あぁ」
「……スマホでどうやって分かるの?」
「聞いた」
「聞いた?」
「あぁ。そして分かったのがお前の名前と歳とバイト先だった」
「はぁ? ……名前と歳とバイト先……」
マサトさんの話を聞いても、謎が解けることはなかった。
それどころか、むしろ増えた気がする。
聞きたいことはたくさんある。
あるのに、なにから聞けばいいのか分からない。
私はただ呆然とマサトさんを見つめていた。
そんな私を見て、マサトさんが少し困ったような顔をする。
「昨日、約束しただろ?」
「約束?」
首を傾げる私に、マサトさんはポケットからなにかを取り出して差し出した。
ここは薄暗い路地裏だ。
街灯もない場所では、それが何なのか見分けることさえ難しい。
私は差し出されたものを受け取った。
指先に触れたのは薄いビニールの感触だった。
「これ……私に?」
「あぁ」
私はおそるおそるビニールから中身を取り出した。
「これってハンカチ?」
「あぁ」
その瞬間、頭の中でいくつかの記憶が繋がった。
昨日、マサトさんへ貸したハンカチ。
そのハンカチが汚れてしまったから、新しいものを持ってくると言ったこと。
そして、その約束を果たすために必要だった私の情報。
マサトさんはケイタイを使って、私の名前と年齢とバイト先を調べた。
……だから、バイトが終わったあと、マサトさんは店の前にいたんだ。
あれは偶然じゃない。
マサトさんは約束を守るために待っていてくれたんだ。
「ありがとう」
「別に」
ぶっきらぼうな返事だった。
けれど月の淡い光に照らされたマサトさんの表情は、どこか照れているようにも見えた。




