↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Shine 1  作者: 白川桜蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/30

エピソード7-2

 怖い。

 震えがさらに強くなったとき、マサトさんは背中へ回した腕に力を込め、私の身体を強く引き寄せた。

 真っ暗な視界の中で聞こえるのは、マサトさんの心臓の音だけ。

 私はその音に意識を集中させ、ほかの音を聞かないようにした。

 何度か衝撃のようなものを感じた。

 それは私の身体へ直接伝わったものではなく、マサトさんの腕や足を通して伝わってきたものだった。

 そのたびに、低いうめき声のようなものが聞こえた気がする。

 マサトさんの声ではなかったから、多分、男の子たちのものだったのだと思う。

「ヒナ、走るぞ」

 呼吸ひとつ乱れていない声でそう言われ、私はようやく我に返った。

 数を数えられなくなってから、その声を聞くまで。

 私にはとてつもなく長い時間に感じられた。

 けれど実際は数秒だったのかもしれない。

 もし私が数え続けていたなら、本当に十を数える間にすべて終わっていたのかもしれない。

 強い力で腕を引かれ、ようやく身体が動く。

 目の前の大きな背中を見失わないように。

 力強い腕からはぐれないように。

 そして、この状況から逃げるように。

 私はもつれそうになる足で必死に走った。

「おい、神楽!! 逃げてんじゃねぇぞ」

「てめぇ、次会ったらただじゃ済ませねぇからな」

「お前のチーム、絶対ぇ潰してやるから覚悟しろよ」

 背後から飛んでくる怒鳴り声は、耳を塞ぎたくなるようなものばかりだった。

 あの人たちは、次にマサトさんへ会ったらなにをするつもりなんだろう?

 チームってなに?

 潰すってどういう意味?

 ……てか、マサトさんって一体何者なの?

 次々と疑問が浮かぶ。

 だけど、まだ消えきれていない恐怖と、走り出したばかりなのに酸欠気味の頭では、とても答えを見つけられなかった。

 完全に混乱している私の半歩前を走っていたマサトさんが、不意に足を止めた。

「マ……マサトさん?」

 早く逃げなきゃっ!

 立ち止まってる場合じゃないって。

 そう言いたかった。

 けれど乱れた呼吸のせいで言葉にならない。

 足を止めたマサトさんはゆっくり振り返ると、私の後ろを見据えながら、

「上等だ」

 不敵な笑みを浮かべた。

◇◇◇◇◇

 どれくらい走ったのか分からない。

 どの道を通ったのかも分からない。

 今、自分がどこにいるのかも分からない。

 全力で走った私は、マサトさんと一緒に細い路地裏にいた。

「ヒナ」

 力尽きて地面へ直接座り込んだ私の顔を、マサトさんが覗き込む。

「大丈夫か?」

 そう尋ねるマサトさんの呼吸は、まったくと言っていいほど乱れていなかった。

 どうしてマサトさんは、こんなに平然としていられるのだろうか?

 私が必死に呼吸を整えていると、

「飲むか?」

 差し出されたのはペットボトルのお茶だった。

「……これって……」

「さっき飲むって言っただろ?」

「……あっ……ありがとうございます……」

 私は受け取ったお茶の蓋を開け、そのまま喉へ流し込んだ。

 乾いた土が水を吸うように、カラカラだった喉が潤っていく。

「……ふぅ……」

 一気にペットボトルの半分ほどを飲み干し、大きく息を吐く。

「……なんとか、生き返った」

 思わず漏れた言葉に、

「なんだ? 死にそうになってたのか?」

 マサトさんは苦笑した。

「……久々に走ったから」

「久々?」

「学生の頃に比べたら、走る機会ってあんまりないでしょ?」

「……そうなのか?」

「えっ?」

 その返事に小さな違和感を覚えた。

 ……なんだろう? この感じ……。

 まるでマサトさんは……。

「確かに社会人になったら走る機会は減るかもしれねぇな」

「あ……あの」

「ん?」

「マサトさんって、何歳?」

「俺? 十八だけど」

「十八? ……あぁ、十八歳ね……うん、そっか。十八歳……」

「ヒナ?」

「……はぁ?」

「……え?」

「十八歳?」

「……おい?」

「十八歳って……私より年下じゃない」

「……あぁ、そうだけど?」

 あまりにも冷静な返答に、私は言葉を失った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。