エピソード6-6
私が慌てる姿を見て楽しんでいるとか?
少しずつ追い詰めるのが面白いとか?
どちらの理由にしても、私は理解できない。
「君がなにも答えないってことは、見ても問題ないってことだよね?」
どうしてそういう結論になるのかも分からない。
そもそも、人のバッグの中を見ていいわけがない。
仲のいい友達同士だってそんなことはしない。
それなのになんで初対面のこの人たちにバッグの中を見せなきゃいけないの?
そこでようやく、頭が冷えた。
だけど、それに気づいたときには、もう遅かった。
男の子の手が私のバッグへと伸びてくる。
「……ちょっ!」
私は慌てて、バッグに入れたままの手とは反対の手で取っ手を掴んだ。
「なんで今さら抵抗してんの?」
「……いやっ、やめて!」
「大人しく見せなよ」
表情ひとつ変えずにそう言う男の子が怖かった。
寒くもないのに鳥肌が立ち、足が震える。
「いい加減、手を放しなよ」
「いや」
大きな声で拒絶したいのに、思うように声が出ない。
「残念だな。大人しく言うこと聞いてたら、痛い思いもしなくて良かったのに」
「……えっ?」
その言葉の意味を考える間もなく、乾いた音が響いた。
同時に頬が熱くなる。
……えっ? なに? なにが起きたの?
私は膝の上にあるバッグから、ゆっくり視線を上げた。
さっきまで私を睨んでいた男の子も、隣で黙ってやり取りを見ていた男の子も、驚いた表情で私を見ている。
……あれ? もしかして私……叩かれたの?
そう認識するまでに少し時間がかかった。
熱を持った頬を押さえながら状況を整理する。
どうやら私は、この男の子に頬を叩かれたらしい。
……叩かれたといっても、力いっぱいではない。
軽く当たった程度だ。
痛みなんてほとんどない。
叩かれたと言うほどでもないのかもしれない。
それでも――私に恐怖を植え付けるには十分だった。
人に叩かれたことなんてない。
友達はもちろん、親にだって手を上げられたことはなかった。
だから、この男の子の行動は理解できなかった。
他人に叩かれたという屈辱。
それを第三者に見られているという羞恥。
そして、私を叩いたにもかかわらず、相変わらず平然としている男の子。
口元には薄い笑みまで浮かんでいる。
その瞳はやはり笑っていなくて……。
表情から感情を読み取ることができない。
それが余計に恐怖を煽った。
「……ここじゃなんだから……」
……怖い……。
「別の場所でゆっくり話そうか?」
……怖い……。
「行こう」
……怖いっ!
私は固く目を閉じ、全身を強張らせた。
目を閉じていても、男の子の手が伸びてくる気配が分かる。
怖い!
恐怖に息を呑んだ、その時だった。
「……おい」
低い声が私の耳に響いた。
次の瞬間、肩を大きな手で掴まれ、私は力強く誰かに引き寄せられた。




