エピソード6-4
「うわっ、ひでぇ」
「めっちゃ痛そう」
男の子たちは、こちらが驚くほど大げさな反応をみせた。
……もしかしたら光の加減で、私には見えないだけなのかもしれない……。
そう思った私は角度を変えながら覗き込んだ。
けれど、やっぱり分からなかった。
なんでこの人たちには見えるのに、私には見えないんだろう?
首を傾げていると――。
「さて、お姉さん」
私に石をぶつけられてかなり痛いらしい男の子が、まくり上げていたジーンズを下ろし、ベンチに座る私の正面へしゃがみ込んだ。
……お姉さんって私のことだよね?
辺りを見回してみても近くに女の人はいない。
状況的に自分のことだと理解した私は、
「はい?」
バイトですっかり身についた営業スマイルを浮かべながら答えた。
「俺、お姉さんのせいでケガしちゃったんだよね」
「そうみたいですね」
「……」
「……?」
「……で、どう責任取ってくれんの?」
「責任?」
「そう、責任」
「……えっと……」
「……」
「どうしましょうかね?」
営業スマイルのまま首を傾げると、男の子は
「……ふざけてんのか?」
低い声を出した。
もちろん私はふざけているわけじゃない。
営業スマイルはほとんど癖みたいなものだ。
それにこの人の言っていることが正しいとは思えない。
だけど、私が石をぶつけてしまったのは事実。
だから、なんらかの責任を取らなければならないのだろうということは分かる。
ただ、こういうときになにをすればいいのかが分からない。
その意味も込めて尋ねたつもりだったのに、どうやら私の言動は、この人をさらに怒らせてしまったらしい。
鋭い目で睨まれた私は、ただ、その顔を見返すことしかできなかった。
張り詰めた空気が流れる。
「……まぁ、まぁ。女の子相手にそんな睨むなよ」
私の様子を見ていたのか。それとも、この険悪な空気を感じ取ったのかは分からないけれど。私を睨みつけていた男の子の肩をぽんと叩いたのは、友達らしい男の子だった。
「お前が睨むから完全に怯えてんじゃん」
……いや、この状況に戸惑っているだけで、別に怯えているわけじゃないんですけど。
その言葉を私は飲み込んだ。
せっかく仲裁に入ってくれたのだから、余計なことは言わない方がいい気がする。
そう思った私は、間に入ってくれた男の子と、その男の子になだめられている男の子を交互に見た。
「……でもこいつ、明らかにバカにしてんだろ?」
「そんなことねぇって。なぁ?」
仲裁役の男の子が私に視線を向けた。
「……えっ? ……あっ……はい」
突然話を振られた私は、戸惑いながらも頷いた。
「ほら、な?」
仲裁役の男の子は、まだ不満そうな顔をしている男の子へ視線を戻した。
「そんな感情的になるなって。ここは大人な解決法で解決しようぜ」
にっこりと笑う仲裁役の男の子。
「……あぁ、そうだな」
それを見て、ようやく男の子は睨むのをやめた。
……大人な解決法って……。
一体どんな方法なんだろう?
一応、私は成人式も終えているから世間的には大人だけれど……。
こんなときの解決法なんて想像もつかない。
「ねぇ、君いくつ?」
仲裁役の男の子が私に尋ねた。
「え?」
「歳だよ。何歳?」
「……二十一ですけど?」
「うん、じゃあ君も大人だから、自分が人を傷つけたら責任を取らなきゃいけないってことは分かるよね?」
「はい」
「それが分かってるなら話は早い」
仲裁役の男の子は、私を睨んでいた男の子とは違い、終始穏やかな口調だった。
表情だって、決して愛想がいいわけではないけれど、私を睨んだり怒鳴ったりすることもない。
……だけどなんでだろう?
ものすごく嫌な予感がする。
「……お金ですか?」
思いついたことをおそるおそる口にする。
「金? あぁ、もしかして慰謝料のこと? 君、金持ってんの?」
お金。
えっと、たしか財布の中には一万円くらい入っていたはず。
だけどお給料日まであと五日だから……ダメだ。
これは使えない。
もし使ったら、明日からご飯が食べられなくなってしまう。




