↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/31

優しさのかたち


『……人族でないって……どういうことだよ?』


『琥珀の君は紛れもなく人族だけれどねっ!あの瞳を持つものは人族ではとても稀有なんだね。あれはドルイドの瞳なのだよ。精霊と共に自然の力を愛する一族の事は主も耳にしたことくらいはあるだろう?あの瞳は彼らの一族でしか継承されないものなのだよ。太古の昔から異種族同士の婚姻は忌み嫌われていてね。何より私達のような長命種は欲というものに疎くてね、性欲なんてものはあまり持ち合わせていないのだよ。ドルイドなんてその中でも最たる一族さ。それが人族と子を成していたなんて何たる奇跡!琥珀の君はあの瞳を継承した何代目なのだろうねっあんなにも美しい瞳は中々お目にかかれない代物なんだねっ!ドルイドの中でも色素の薄い者ほど高い能力を持っていてね、先祖返りであの瞳になったのか、もしくは琥珀の君のご両親のどちらかがドルイドそのものなのか……とても興味深いとは思わないかい、主?』


 アグノールの怒涛の念話とその内容に、レオンは立ち尽くしていた。


 ……は?……ドルイド……?

 琥珀の瞳……言われてみればそんな眼をしている奴を見たことは無い……


「——い。おーい、レオン?」


「——ハッ……ぁ……わりぃ、何?」


「いや……大丈夫か?急に青い顔して立ち尽くしてるから……どうした?」


「あー……アグノールが、小難しいことを喋り続けてて……頭がパンクしそうなだけ……」


 ガシガシと頭をかいて、レオンもその場に座った。

 レオンの返事にジークは苦笑いを返し、リュシルとレナの方へ視線を向ける。

 ララノアも姿を消し、レナは火の球を小さく作ることを続けていた。


「球の大きさはその程度で良い。さっきも言ったようにその球の中に、魔力を凝縮するんだ。」


 いつの間にか、ヴィクトルがレナにも指導している。レナは自分の指先に灯る火の球を睨むように見て魔力を入れていった。


「球が大きくなるなら入れすぎだ。」


「……っ……この、くらい?」


「……良いだろう。それを体が覚えるまで反復練習すれば調整を覚えるはずだ」


「ありがとう!」


「だが……今はあと一、二個で終わりなさい。魔力が足りない」


「はーい」


 出来上がったものを的へ投げて、また新しく火の球を作り出す。苦手だった魔力調整が少しずつ出来るようになってきていた。


「え……レナが出来てる……」


 レオンが目を丸くして小さく呟いた。


「ヴィクトルの指導、分かりやすいぞ。小さな球の密度を上げて威力を増す。最小限の魔力で殺傷力が上がる。さすが中距離型って感じだな」


「へぇ……ん?てことは……リュシルのあの針、超怖くないか?」


「俺も思った。レオンがフリーズしてる間に、リュシルの針は七本まで命中率上がってたぜ?オマケに、見てるとスピードも上がってる気がするんだよなぁ……」


「……実戦でアイツがそれを使えるかどうかだな……」


「……そうだなぁ。優しすぎるからな……」


 レオンとジークは、八本目が的に当たらずに苦戦するリュシルを眺めながら話していた。

 レオンも領地の森で狩りの経験はある。上手く狐を仕留められた時はレナへ毛皮のプレゼントをしたりもしたが、自身も最初は生き物を傷付けることに抵抗を感じたものだ。

 リュシルの性格を考えると、魔物といえど命を奪うなんて出来るのかと考えてしまう。

 ……って、俺が考えることじゃないよな……


「——っはー!疲れた!」


 言いながらレナがその場に座り込む。魔力の残量が三分の一以下になると途端に疲労感が襲ってくるのだ。最初に大きな火の球を作らなければまだ出来ていたかもしれないが、あれがあったからヴィクトルに教えて貰えたようなものだろう。

 レナには理論やら何やらと説かれても殆ど理解が出来ない。しかし、ヴィクトルの様に端的にやる事だけを言われたらスムーズに操作が出来たのだ。実家やアカデミーではいつもレオンと比べられて、悔しい思いも沢山していた。

 ——でも、今では魔力操作が得意なレオンも、魔力酔いで苦しんだ末に身に付けた技術だって、私が一番知ってるから……

 悔しいけれど、苦しんで技術を身につけたレオンを素直に尊敬していた。だからこそ「いつか自分も出来たらいいな」と思う程度で、追いつけない気がして本気でやろうとしていなかったのかもしれない。

 レナはレオンの方を見ると、グッと親指を立てた。レオンは溜息混じりに笑って頷く。


「仲良しだなー」


「べっ、つに……そんなんじゃねぇし……悪くもないけど……」


 朗らかに笑うジークに、レオンはそっぽを向いて小さく反論する。仲は悪くはないとは思うが、改めて言われると気恥ずかしいものがあった。


「君もそろそろ休みなさい」


「……は、はい……」


 ヴィクトルがリュシルを支えて座らせる。


「「「…………」」」


 三人はそれを無言で見つめ、何も言わずにそれぞれ視線を逸らした。


『——琥珀の君は見かけによらず過保護なようだね?あの麗しい見目に加えて甲斐甲斐しさも持ち合わせているだなんて、天性のたらしというのは彼のようなものを言うのではないかい?主もツンケンばかりしてないで、もう少し分かりやすい優しさを持ち合わせた方がレディ達からの視線が違うと思うのだけれどねっ?』


『うるさい。……ヴィクトルのあれはリュシル限定だろ……』


『なるほど。まるで物語に出てくる姫と騎士のような二人なわけだねっ麗しいね!かのレディも儚さと愛くるしさを持ち合わせていて、庇護欲をそそるのは男として理解出来る感情だねっ主も頑張ってアプローチをしないとレディの視界に入らなくなってしまうよ?愛しいレディが死者に奪われてしまっては悲しいからねっ私がいつでも主の恋の手助けをしてあげようではないかっ!』


『恋してねぇし、愛しくもないから、そんな手助けいらねぇの。つか……死者って……そう、ではあるけど……』


 アグノールの言葉に複雑な気持ちが渦巻く。

 英霊は魂だけの存在。死者ということに間違いはない。しかし、そのように言ってはいけないような気がした。

 

『あぁ、すまないね。人の子らはこのような言い方は好まないのだったね。んん?ここは学術通りに英霊と呼べば良いかい?魂だけの存在であることに変わりないと言うのに、人の子らは難儀だねっ。私にとっては生者か死者かの違いでしかないというのにねっ!英霊である彼等も輪廻に乗れず、生まれ変わることも出来ない可哀想な魂だと言うのに、更に人の子に使役されるというのはどんな気持ちなのだろうねっ?私は深い後悔なんてしたことが無いからね!彼らの気持ちなんて全く理解出来ないのだけれどもっ』


『……もう、やめろよ……』


『おや?不快にさせてしまったかい?それは申し訳ないねっ!でも最後に一つだけ言わせておくれよ主?——そろそろ琥珀の君も姿を消した方が良いのだよ。学園へ戻ってくる人たちがいるねっ』


「なっ……早く言えよ!」


「うわっ!びっくりした……どうした?」


 突然大きな声を出したレオンに隣に居たジークが驚いて振り返った。


「リュシルっ学園に戻ってくる奴らいるからヴィクトル戻せって!」


「えっ……あ、はいっ!」


 レオンの声に驚きつつ、ヴィクトルを見上げた。

 ヴィクトルも学園の門の方を見ている。視線を戻し、リュシルに一つ頷くと腕輪の中へと戻っていった。


「……お前、アグノールに索敵させてたの?中から?」


「アグノールが索敵が得意だって言ってたから訓練がてらやってたんだよ。……余計な話ばっかして最後に付け加えて言うもんだから念話に失敗したし……」


「ははっ、凄いなぁ」


 ジークは同じ年で魔力操作に長けているレオンを純粋に尊敬していた。

 北部では魔力を持つ者の方が珍しいのだ。そのため、魔力操作などの専門的な指導はアカデミーに入学してから学ぶ事が殆どで、ジークも三年前までは簡単な魔法しか使えなかった。親や兄から簡単な魔法は教えて貰えたが、討伐で家を空けることの多い家族は細かい事まで教える時間が無い。騎士団には魔法を使える者は極小数のみで、やはり討伐が優先されるのだ。

 そんな北部で親族の中でも多くの魔力を持って生まれたのがジークだった。七つ上の兄の勧めもあって召喚士学園に入学したのだ。


「俺も頑張らないとなぁ」


「いやジークはレナより操作出来るじゃん。あとは効率じゃないか?」


「そう、か?」


「そもそも、ジークは魔法がなくても戦えるだろ?だから使い所だと思う。ずっとバンディを出しておく必要も無いし、魔法だってここぞって時に取っておけばいいんじゃないか?地属性は防御にも強いし。」


「……そうか……そうだな。レオンはやっぱ凄いな!」


 ジークはレオンの言葉に、胸のつっかえが取れたような笑顔を見せた。よく分からないがジークがいつも通りの笑顔になったことにレオンも安堵して、口角を上げた。


「じゃあ……今日はこれくらいにして帰るか」


「賛成〜疲れた〜」


「はい。とても楽しかったですっありがとうございましたっ」


「俺も楽しかった。バンディも喜んでるよ」


 ジークは四つの塔状の土を戻し、レオンとレナも寮に向かい始める。

 まだ座っているリュシルにジークが手を差し出した。


「……大丈夫か?歩けないなら俺で良ければ抱えるぞ?」


「いえっ、だ、大丈夫ですっ!」


 本気なのか冗談なのか分からない真面目な顔で言われ、リュシルは慌てて首を振る。


「少し……休めば、動けます……」


「そうか……じゃぁ、俺も」


 柔らかく微笑んで、ジークはリュシルの隣に腰をおろした。


「——あれー?二人とも帰らないのー?」


 レナが振り返り、まだ座っている二人に小首を傾げる。


「ちょっと話あるからまた後でなー」


「わかったー!またねっリュシル!」


「ぁ、はいっ」


 ジークの言葉を聞いて、レナは手を振りながらレオンと歩いて行った。リュシルも手を振り返し、二人を見送る。


「ジークさん、良かったのですか……?」


「あぁ。話があるのは本当だから」


「なんでしょう?」


 リュシルはキョトンとした表情でジークを見た。

 そんな仕草に僅かに目を細めて、ジークはそっと視線を地面に落とす。


「……俺、幼馴染みが居たんだ。そいつは……リュシルと同じ、魔力過多でさ……」


「——え……」


 突然の告白に、リュシルの瞳が大きく開かれた。

 ジークは視線を地面に落としたまま、ポツリポツリと話していく。


「北部には魔力持ちの方が珍しくてさ。……魔力持ちは重宝されるんだ。魔物との戦闘も有利になるし、向こうは本当に不便だから……生活の助けにもなるし。でも……魔力に関する知識は乏しくて……」


 話しながら、ジークは召喚の腕輪の隣に付けている革紐で作られたブレスレットを撫でていた。


「……そいつは……俺がアカデミーに入る前に……一緒に行った、討伐で……、……っ……」


 言葉に、声に、出せなかった。

 目元に力が入り、険しい顔のまま俯いている。

 リュシルはそっと、ブレスレットをなぞるジークの手に自分の手を重ねる。


「……っ……すまない……お前に、話す内容じゃないとは分かってるんだ。けど……」


 重ねられたリュシルの手を握って、リュシルの瞳を見た。

 ジークの瞳は涙こそ出ていないものの、ひどく揺れている。


「……リュシルが、過多症だって聞いて……あいつみたいに……幼馴染みたいに、辛い思いをしないで欲しいって思って、さ。……俺じゃ、頼りないかもしれないが……いつでも、お前の力になるから……だから……遠慮しないで、何でも言ってほしい……」


「ジークさん……」


 なんと答えたらいいんだろう……こんなにも苦しそうなのに、なぜ私の事を慮ってくれるのでしょう……

 ……私には……そんな価値なんて……

 

 リュシルは眉尻を下げて微笑む。

 ジークの握る手が冷えていることに気付いて、もう片方の手で包んだ。


「ありがとうございます、ジークさん……私なんかに心を砕いてくださって、嬉しいです」


「いや……突然、こんな話してごめんな。……聞いてくれて、ありがとう……」


 リュシルは緩く首を振る。目が合うと優しく微笑んだ。ジークは安堵したように頬を緩めて、気恥ずかしそうに視線を逸らした。


「……歩けそうか?」


「あ……はい。もう、大丈夫です」


 その言葉に一つ頷いて、立ち上がると繋いだままの手でリュシルを引き上げる。

 リュシルがちゃんと立てたのを確認してから手を離した。


「戻るか」


「はい」


 二人はゆっくりと歩き出した。リュシルのペースに合わせて。

 薬草園の脇まで来ると、リュシルが「あっ」と小さく声を上げ、亜空間BOXから体力回復ポーションを取り出す。


「ローラン先生に頂いていたのを忘れてました」


「ははっ、リュシルもウッカリするんだな」


「私は忘れてばかりなんですよ……レナさん達とも子供の頃から会っていたのに、私は覚えていませんでした……」


 寂しそうに視線を落としたリュシルの頭をジークがそっと撫でる。


「……あの二人はそんな事気にする奴らじゃないだろ?」


「そう、ですが……」


「覚えてなくてごめんって言うより、明日の約束をした方が喜ぶと思う。……俺もアカデミーからの付き合いしかないけど、そういう奴らだと思うぞ?」


 ……確かに……レナさんもこれから仲良く、と言ってくださいました……


「そう、ですね……皆さん、本当に優しいです……」


「好きな人には優しくいたいもんじゃないか?」


「……はい……私も、そうありたいです」


 ジークの言葉にこくりと頷き、微笑んだ。

 優しくありたい。優しさを貰った分も、それ以上にお返しできるようになりたい。

 握りしめていたポーションを飲み、二人は寮へ向かった。

 寮の受付では帰還報告をしている上級生が数人いる。軽く頭を下げて、ジークと一緒に通り過ぎた。談話室にレナ達の姿はない。

 戻って来た上級生達が談話室に沢山居るため、何となく居心地の悪さを感じて、ジークと言葉少なに別れてリュシルは部屋まで戻って行った。


「……ふぅ……ただ今戻りました」


 深呼吸を数回して、階段を上って荒くなった呼吸を整える。リュシルが落ち着くとその後ろにヴィクトルと精霊が姿を現した。


「……体調は?」


 髪飾りを外しているリュシルに、ヴィクトルは問う。リュシルが髪飾りを机に置くと、ヴィクトルはそのまま結われている髪を解いていく。


「あ……体調は大丈夫です……ありがとうございます……」


 はらりと広がる髪を軽く抑えながら、リュシルはヴィクトルを見上げてどこか恥ずかしそうに微笑んだ。

 精霊はリュシルとヴィクトルの周りを数回行き来すると、リュシルの解かれた髪にちょこんと乗った。


「私は汗を流してきますね。精霊さんも、こっちのお部屋で待っていてください」


 リュシルの言葉を理解したのか、くるりと円を描くとヴィクトルの肩へ移動していく。

 ヴィクトルは一瞬眉間に皺を寄せたが、短く嘆息してそのまま作業机へ向かった。

 ふふっと小さく笑い、クローゼットから着替えを取り出すとリュシルはシャワーを浴びに洗面室へ姿を消した。


 ヴィクトルはローランから受け取った地図を取り出し、精霊に見せる。


「……場所は?」


 ふわりと肩から飛び上がり、机に広げられた地図の上にはらはらと精霊の鱗粉のような光が落ちていく。それは地図上に点々と場所を示した。

 王都を中心に、東西南北の四箇所。

 北と東はローランの書いた円と同じ位置だった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。