6.白いワンコ
泉まで戻ると、トレさんがすでに戻ってきていた。
近くにはクタの実と思われる黒い果実も置いてある。
手に取って見てみると、召喚の書に書かれているイラストと全く同じ見た目をしていた。これはクタの実で間違いないだろう。
問題は魔法水だ。
「キー、魔法水10滴ってどうやって分ければ良いの?コップとかに入れたほうが良い?」
『その必要はございません。クタの実を泉に浮かべて、そこに召喚の書をかざしていただければ、必要な分だけ吸収いたします。』
…相変わらず便利だ
クタの実を泉に浮かべて、その上に召喚の書かざす。
キーによれば、召喚素材が集まっていなければ、召喚の書はかざしても反応しないそうだ。
逆を言えば、召喚の書が反応すれば間違いないということ。
心の中で祈りながら待っていると、
パァッ
召喚の書が光ながら、素材を吸収し始めた。
やはり泉の水は、魔法水で間違いないようだった。
バフッ
召喚の書から煙が上がった。
中から出てきたのは、緑の髪に緑のワンピースを着た小さな妖精だった。
『こんにちは!わたしは風の精霊シルフよ!あなたがわたしのご主人さま?』
緑の小さな妖精がこちらに飛んで来た。
手のひらをそちらへ向けると、ちょこんと乗ってきてくれた。
「こんにちは!私はあかねよ。これからよろしくね。」
『うん!よろしくねあかね!さっそくだけど、私に名前をつけてほしいの!」
「…キー、もしかしてだけど…」
『はい、あるじ様。シルフも多数召喚することになるかと思われます。』
ですよね〜。
可愛らしい妖精が、キラキラした目で見つめてくる。
…ここまで意思疎通ができてしまうと、とてもだがトレント達みたいに番号で名前をつけるなんてできなかった。
「…そうだ!あなたの名前は"シルア"よ!」
『シルア…とっても良い名前ね!気に入ったわ!ありがとうあかね!』
そう、番号がダメなら五十音を使えば良い!
…思いつきにしては、なかなかナイスなアイデアだと思う。
そうだ、大切なことを忘れてはいけない。
「シルア、さっそくで申し訳ないんだけど、この子のこと見てもらっても良い?どこか調子が悪いるみたいで、ヒールで治せたりしないかな?」
白いワンコを指して、シルアに聞いてみる。
シルアが私の指さした方へ飛んでいった。
『…そうね、どこかケガしているようには見えないけど…ちょっと試してみるね!』
シルアが両手をかざして、ヒールと唱えた。
『う〜ん…なんか治せないことはないみたいだけど、私だけだと力不足みたい。もう少し仲間を増やしてくれたらいけそうな気がする!』
それを聞いてホッとした。クタの実も魔法水も、シルフを召喚するのに必要なものは十分ある。
急いで準備をし、シルフを新たに9体召喚した。
キーによると、シルフの召喚上限も1日に10体らしい。
10体のシルフが、白いワンコを囲んでヒールをかける。
しばらくすると、息が荒かったワンコが徐々に落ち着いていくのがわかった。
ムクッ
10分ほどヒールをかけ続けると、ついにワンコが目を覚ました。キョトンとした顔であたりを見回している。何が起きたのかわからないようだった。
頑張ってくれたシルフたちにお礼を言ったあと、ワンコに近づいてみる。
「大丈夫?もう痛いところはない?…あなたはどこから来たの?何であんなところに倒れていたの?」
私たちが助けたことを理解しているのか、近くまで行っても警戒されなかった。
白いもふもふそうな毛に我慢ができず、頭をなでなでしてみる。特に拒絶はされなかった、嬉しい。
ただ、やはりこちらの言葉は通じていないようで、話しかけてもキョトンとして首をかしげるだけだった。
まぁ、異世界だし、何なら犬?だし、通じる訳ないよなとは思ってた。
「う〜ん、どうしようかな。まだ自分の生活すら安定していないのに、動物なんて飼えるかどうか…あなた、帰る場所はあるの?」
言葉が通じないので、返事もある訳ない。どうしたものか…
「とりあえず、私たちは家に帰るけど、もし行くところがないんなら、雨風を凌げる家ぐらいならあるから、着いてきてもいいからね。」
言葉は通じないので、身振り手振りで家の方を指差しながら、一緒に来るか聞いてみる。
伝わったかはわからないけど、私が動くと一緒に着いてくるので、多分一緒に来てくれそうな感じがする。
とりあえず水源は見つけられたし、召喚もできたので、一度家に帰ろうかな。
…っとその前に、お風呂に入りたかったことを思い出した。結局着替えの件は解決してないから、どうしようかなと考えていると、
『ねぇあかね、お風呂に入りたいの?』
私の思考を読み取ったのか、シルアが話しかけてきた。
「そうなの。でも着替えがないから、洋服を洗うと着る物がなくなっちゃうんだよね。かといって汚れたまま着るのは嫌だし…どうしよう。」
『大丈夫だよ!私たちの風魔法があれば、洋服なんてすぐに乾かせるよ!』
「風魔法ってそんなこともできるの?!」
風魔法といえば、漫画とかに出てくるウィンドカッターみたいな攻撃魔法を想像していたから、そんなドライヤーみたいな使い方ができるなんて思わなかった。
シルフ達によると、風魔法は大まかに風を操る魔法だそう。ウィンドカッターみたいに物を切り裂く魔法も、やろうと思えばできなくはないそうだ。
ともかく、洋服を乾かしてもらえるのはありがたい。
さっそく体を洗うため泉に入ろうかなと思ったのだが、ふと思い出してしまった。
あれ、この水って飲むための水でもあるんだよね?
自分の体を見下ろす。
仕事終わりにそのまま異世界へ飛ばされたため、上半身は白いブラウスにセーター、下半身はくるぶしまでのロングスカートに黒いストッキングというフォーマル寄りの格好をしていた。
こんな格好で森を歩いてきたので、ストッキングは穴だらけでもう使えなさそう。スカートも裾の方は泥で汚れていて、草のようなものも付いている。
上半身も、黒いセーターなので目立ってはいないが、触ると砂やらホコリやら、汚れがたくさん付いていた。
このまま泉に入るのはさすがにまずい気がする。
今後も飲み水として使用するので、できれば汚したくはない。
「トレよん、ちょっとお願いがあるんだけど…枝で作ったカゴ、もっと水が汲めるぐらいぎっちり密着させて作ることってできたりする?」
枝をぎっちり絡めあって、風呂桶のような形にしたイメージを頭に浮かべる。
どうやらちゃんとトレよんにも伝わったみたいで、想像通りの風呂桶を作ってくれた。ちゃんと水も汲んでくれて、水漏れもしていない。
これなら泉を汚さずにお風呂に入れそうだ。
うっ…つめたい…
泉の水をそのまま使っているので、当たり前だがかなり冷たい。水風呂に入る時みたいに、ゆっくり足から慣らしながら入る。
しばらく浸かっていると冷たさにも慣れてきた。
冷たすぎて固まっていた体がやっと動けるようになったので、脱いだ洋服を洗っていく。
洗い終わった服は、シルフ達が受け取って乾かしていく。
その乾かし方がまた豪快で、小さな竜巻のような風の渦に洋服を入れて、高速で回して乾かしていたのだ。
どこかに洋服が吹っ飛んでいくんじゃないとハラハラしたが、ちゃんとコントロールはできているらしく、そんな考えも杞憂で終わった。
一通り洋服も乾かし終わったところで、お風呂から上がり乾いたブラウスで体を拭く。濡れたブラウスはもう一回乾かしてもらった。
髪の毛もシルフ達に乾かしてもらったので、かなりさっぱりした。
お風呂の水は、泉から少し離れたところに捨ててもらうよう、トレよんにお願いした。
…ひとまずこれでようやく家に帰れる。まだまだ日は傾いていないけど、昨日はあまり寝れなかったし、今日も色々と疲れたので早めに帰って休もう。




