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125.終焉の鐘が鳴る

ご覧いただきありがとうございます。

今日も4話更新なので、1時間前に1話投稿しています。

 


 ◆◆◆



「……香、明香!」


 どこからか自分を呼ぶ声がする。


 重い瞼を開けると、顔色を変えた高嶺が強張った面持ちで覗き込んでいた。

 横では秀峰も同じような顔をしている。


(……兄弟だなぁ)


 くすりと笑みが溢れた。二人とも、いざとなった時の焦り方や驚き方が同じだ。


(高嶺様もだけど、義兄様がこんなに感情を露わにするなんて。いつも慌てず騒がずで何でもてきぱきこなしてるのに――)


 そこまで考え、すぐに胸中で打ち消す。


(ううん、違う。義兄様は……心を殺さないとやっていけなかった。周りに押し潰されないように強くなるしかなかったんだ。そうしてひたすら頑張り続けて来た。天才肌で、努力の人でもあった――)


 今、秀峰の過去の一部を視てしまった。急に流れ込んできて、抗う間もなかったのだ。記憶の濁流に呑まれるままに倒れ込み、今に至る。

 ラウやティルを始め、他の天威師たちも心配気な様子で周りに集まっていた。テアとミアが身を乗り出して案じてくれている。


「どうして――流れないようにしていたのに」


 何が起こったか悟っているのだろう。秀峰が珍しく狼狽した声音で、縋るような目をレイティたちに向けている。レイティがそっとその背を撫でると、明香の横に膝を付き、容体を確かめるように注視しながら秀峰に聞く。


「見せていいと容認していた記憶ではあるんだな」

「そうですが……今見せれば混乱させてしまうだけだと思い、抑えておりました」

「どうやら始まりの神器を介して伝わってしまったようだ。お前はずっと継続して神器に力を送り、終わりを遠ざけ続けていただろう。そうしなくては、弱り切った神器はすぐにでも果ててしまう」


 秀峰の手の中でぐったりしている小鳥に一瞥を向け、レイティが冷静に分析した。


「当の神器は消えかけた自身を補おうと、最も近しく相性がいい力を持つ明香に力を伸ばして働きかけた。結果、珠歩と明香が神器を介して繋がり、制御外の部分から記憶が流れてしまったのだろう」


 ある種の事故が起こってしまったというわけだ。この特殊な空間ゆえ、天威師同士の共鳴が強まっているという理由もあったのかもしれない。


「珠歩が本当に見せたくないと思っている記憶であれば、あるいは明香が耐えられない内容であれば、それぞれが本気で防御していただろうから、流れ込むことはなかっただろうが」


(てことは、見られたくないと思ってるものを見ちゃったわけじゃないんだよね)


 今は時機として適切ではないという判断で共鳴を抑えていただけであり、いずれは伝えてもいいと思っていたことではあるのだ。それが分かり、ほんの少しだけほっとした。


(誰にも知られたくないと思ってる秘密を覗いちゃったとかだったらどうしようかと思った)


「明香、すまない……大丈夫か」


 心底申し訳ないと思っている様子で、秀峰が眉を下げる。だが、今回に関しては神器が作用したという事情があったのだから、彼の不注意や怠慢ではない。流れて来る記憶を簡単に受け入れてしまう明香にも未熟な部分はある。


「ううん、大丈夫。私こそごめんなさい。ちょっと記憶酔いしただけだから心配しないで」


(高嶺様も義兄様も、皆を心配させちゃってる)


 元気な姿を見て安心してもらおうと、明香はえいっと身を起こした。

 高嶺が慌てたように支えてくれる。


「明香、いきなり起きては……」

「平気ですよ! ほら、もういつも通り――」


 だが、どうにも体幹が定まらない。どうしたのだろうと体を確認すると、四肢が小さく震えていた。


(あれ?)


「始まりの神器に働きかけられたせいで力が乱れてしまったのでしょう。それが体に出ています」


 黒曜が教えてくれた。ルーディが腕組みし、小首を傾げる。


「うーん、この状態で神器の修復ができるかなぁ? 集中して一気に大量の力を注ぎ込まないといけないんだよ」


(えっ……)


 白珠たちの顔が一様に固くなった。皆、同じことを考えていたのだろう。

 明香はこの場にいる天威師たちを見回し、内心でほぞを噛む。


(皆様くらい力に精通していれば、すぐに乱れを正して平常に戻せるのに)


 あるいは、秀峰のように一日で天威を使いこなせる器量があれば何とかできるのかもしれないが、あいにくとそんなものはない。あれに関しては義兄が完全に化け物なのだ。いくら今まで積み重ね来た努力と足跡があったとはいえ、普通はできない。


(どうしよう。あんなに大見栄を切っておいて……)


 泣きそうになった時、レイティがぽんぽんと明香の頭を撫で、短く呼びかけた。


「高嶺、テア。頼めるか」


 呼ばれた二人は打てば響くように即応する。


「はい、私が補助します」

「私もいたします!」

「ああ。天命の伴侶である高嶺と、対であるテアがフォローするのが最善だろう。――ただ、可能であればもうひと押しが欲しいところだ」


 すると、明香の唇が勝手に動いた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――()()()()()()()()()


 自分と同じでありながら大人びた声が漏れる。秀峰とミアが息を呑んで明香を見た。白珠たちも軽く目を見張る。

 明香の口が、再度ひとりでに言葉を紡ぎ出した。


「僭越ながら、私ならば可能かと」

「その通りだな」


 明香を見ていたレイティが、ふと微笑んだ。


「お前が適任だ」


(うん、私もそう思う。ありがとう月香(げっか)


 明香の口が再び開く。二つの声が一つになった。


()()()()()()()()()()()()


(私には姉がいた。双子の姉、月香が……。どうしてか、そのことを忘れてたけど)


 思い出したのは、皇女宮の庭で倒れ、夢の中で月香と会って彼女の記憶を見た時だ。その時、自分には片割れがいたことを思い出した。


(どうして忘れていたんだろう。どうして月香が私の中にいるんだろう。一体何がどうなってこうなってるんだろう)


 高嶺や白珠と会えたら、すぐに問いただそうと思っていた、正直に言えば、今すぐにどういうことか確認したい。それを堪えているのは、現在は非常事態であるという自制と、聞かずともすぐに分かるという直感のようなものがあるからだ。


「頼んだぞ。その様子だと戻る準備はできたようだな。これが終わったら出て来い。待っている」


 明香を、()()()()()()()()()を見つめるレイティが優しい色を乗せた双眸で言った。皆が――特に秀峰が、何か言いたそうにしている。

 だがその時、始まりの神器がぴくぴくと尾羽を動かした。臨終が迫っていることを示すような、最後の足掻きのような動きだ。


「神器が……」


 秀峰が視線を小鳥に移し、顔を歪めた。ルーディが空を見上げる。


「時間停止ももう解除しないと。いくら差し迫った事由があっても、あんまり長い間止めるのは良くないよ。それから分かってると思うけど、光の柱への対処や始まりの神器の修復が失敗しそうになったからって、また時間を止めたりするのは禁止。時間を操るのは本来禁忌なんだからね。だからチャンスは一度だけだ」


 頷いた白珠が、秀峰と高嶺を真っ直ぐに見つめた。


「黇死太子秀峰。今から時間を動かす。即座に光の柱を退け、始まりの神器を延命させるのだ。藍闇太子高嶺は共に力を合わせて成功させろ。次期皇帝として世界を守れ」

「承知いたしました」


 秀峰と高嶺が跪拝し、声を揃えて首肯した。


 レイティもラウとティルに視線を向ける。湖水の瞳が淡い光を放った。


黈日(つにち)太子オルディス=ラウ、紺月太子クレイス=ティル。帝家の信念に従い、全力を賭して皇家を護れ」

「御意のままに」


 ラウとティルが胸に片手を当てて一礼する。

 他の天威師たちも一斉に顔を引き締め、身構えた。

 ルーディが感慨深げに笑った。レイティと同じ湖の双眸が深い色を宿す。


「いよいよ死神が顕現するのか。先触れで生まれた身としては感無量だ。これより聖なる終わりが蘇る」


 秀峰が足を踏み出した。白珠と一瞬だけ視線を合わせ、頷き合う。


(私も心の準備をしなくちゃ。――やれる、できる。皆と一緒だもの。高嶺様、お姉様方、月香だっていてくれる)


 きっと秀峰は光を抑えることに成功する。義兄ならやり遂げるだろうという確信があった。その後、間を空けず自分の出番がくるのだ。


(月香、一緒にやろうね。あなたならきっと上手く力を合わせてくれる。信じてる。だって私、生まれてからずっとあなたと一緒にいたんだから)


 秀峰が手を掲げると、虹色を帯びた黄白の輝きが凝り、大きな三日月型の刃を持つ鎌となって顕現した。淡い燐光が無数に湧き上がり、羽衣のようにその体を覆う。


(私が真相を知るのは今。きっとここで、私は今までに何があったのかを知ることになる)


 自らの本能が導き出す予感が、鮮烈な閃きと共にそう告げているのだ。自分はこの場で、現在に至るまでの間に起こっていたことを知るだろう、と。


(私の中にいる人。私と同じ顔をした人。あなたは月香。私の双子。そして、私は)


 空間に亀裂が入り、何かが砕ける音がした。

 時間停止が解除されたのだ。


日香(にちか)。――()()()()


 再び動き出し、活動を再開した世界に、死の光が降り注ぐ――その寸前、日付が変わった。


 秀峰から放たれる輝きが豹変した。今までは秘していた死の神の力を解放したのだ。曇天を貫いて星明かりが差し込むように、無数の燐光が神々しい煌めきを放つ。


 狂った生の力と神秘的な死の力が真っ向からぶつかり合った。秀峰の体から立ち上る虹色の波紋が地上全体に広がり、掲げた鎌がしゃんと涼やかな音を奏でる。



 ――終焉の鐘が鳴り響き、混沌とした世界に死神が降臨した。



ありがとうございました。

最終章の前編、完結です。

あと少しお付き合いくださると嬉しいです。

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