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115.そして黇の追想へ

ご覧いただきありがとうございます。

『明香、今は迂闊に返事をするな』


 不意に、秀峰が明香の脳裏に念話を届けて来た。


(義兄様?)


『先代陛下方は既に神に還られている。人間の器を脱ぎ捨てた、まごうかたなき至高神だ。むろん先代であることに変わりはないが、それ以上に祖神なのだ』


 ゆえに、どれほど人間のような言動をしていたとしても、決して地上の物差しに当てはめてはならないのだという。


『至高の存在だからと言って、分かりやすく超然としているとは限らない。超越的な存在はその器を容易には測らせぬもの。表面に出されている人間らしさに惑わされれば取り返しの付かぬことになる』

『で、でも、お義父様方は先帝陛下にすごくお心を開いていらっしゃるよ』

『それは先帝陛下のご許可を得た上で、父親と子として接しておられるゆえだ。玄闇神様は今、祖神として太子と皇女に言葉を授けるという体を取られた。祖母が孫に話しかけるのとは全く違う』


 黒曜は秀峰にとって実の祖母に当たる。明香にとっては義理の祖母であり、実の大伯母だ。だが、今は祖母や大伯母ではなく、尊き至高の神として相対しなければならない。


『心得違いをしてはならぬ。今この瞬間に関しては、そなたが相手にしているのは義祖母でも大伯母でもなく、至高の祖神様――玄闇神様だ』


 真剣な声音に、明香は息を呑んだ。こっそりと視線を動かし、ルーディと黒曜を見る。慈愛と優しさを極限まで煮詰めたような眼差しと気配を放つ先代たち。だが、それに気を緩めて口を滑らせたり下手を打ってはいけないのだ。


『――分かった、気を付ける』


 と、レイティがこちらを安心させるように笑った。


「気負うことはないさ。失敗しても俺が何とかしてやる。気楽にやればいい」


 緊張をほぐすための社交辞令だと、明香は思った。だが、何故か白珠とラウたち四兄弟が揃って遠い目になる。アドルフとクルーセラがぼそぼそと呟いた。


「うん、兄上なら家族がおねだりすればあらゆることを叶えて下さるよ」

「一瞬で世界中の海を干上がらせたり、空の星を全部撃ち落としたり、存在する山や森林を根こそぎ更地にしたり、何でもしてくれるわよきっと」


 志帆や綺羅、ローアンたちも無言で頭を抱えていた。きっと今までに色々とあったのだろう。


「……」


 もう全てレイティに任せておけば、障害を根こそぎ粉砕して何とかしてくれるのではないだろうか。そんな思いが芽生えかけ、慌ててふるふると首を振って打ち消す。


(いやいや、ちゃんと自分でやらないと!)


 一方の黒曜は、ルーディの持っている神杖に目を向けていた。


「まあ、本当に穢れたわね。いっそ見事なほどだわ。ああ本当に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 言いながら軽く手を振ると、玄い光の紐が伸び、神杖を絡め取って持ち上げた。ルーディが素直に手を離したため、穢れた杖はするすると黒曜の方に引き寄せられる。


(……あ!)


 それを見た明香は瞠目した。


(あの玄い光……高嶺様と私を縛った光。先皇陛下のお力だったんだ!)


 なるほど、天威師でも押さえ込まれてしまうはずだ。天に(いま)す至高の祖神の神威だったのだから。


(確かあの時は、男の人の声が響いて紐が消えたんだよね)


『こら、やめなさい。もういいだろう、僕の宝玉』


 そう告げた声と共に粉雪のような光が煌めき、玄い光が消失して高嶺が自由になっていた。あの声と光は、目の前にいるルーディが放っているそれと同じだった。


(じゃあ、先皇陛下が高嶺様を制止してたってこと? ……何で?)


 神杖を()めつ(すが)めつ観察している黒曜を見つめ、疑問符を飛ばすが、それで答えが返って来るわけでもない。


(……いや、それを考えるのは後。今は目の前のことに集中しないといけない。私は神器を直さないといけないんだから)


 内心で首を振って気を持ち直そうとしたところで、自身の容体の変化を自覚する。


(あれ、そう言えばちょっと緊張がほぐれたかも)


 いつの間にか、緊迫していた空気が緩やかなものになっていた。始まりの神器の修復命令を受けて強張っていた体も、心なしか楽になっている。ルーディの大らかな雰囲気と、黒曜の優しい気品のおかげだろうか。


(義兄様は……)


 さり気なく隣を見ると、秀峰は相変わらず表情を変えていない。素の彼は、喜怒哀楽を表に出すことが少ないのかもしれない。


(斎縁泰斗に扮してた時からそうだったよね。ぱっと見は感情も表情も豊かだけど、内面は常に冷静沈着っていうか。今だってもの凄く的確に指示してくれたし)


 泰斗の時の姿は、きっと演技だったのだろう。だが、斎縁邸の屋根の下で共に笑い、喜び、時には意見をぶつけ合ったあの触れ合いは本物だったと信じている。演技が入っていたとしても、全てが嘘だったわけではないはずなのだから。


(どうやったらこんなに落ち着いていられるんだろう。この頼もしさは父親譲りなのかも。義兄様が近くにいるとものすごく安心するもの)


 大樹のように超然として小揺るぎもしない様子は、レイティと通じるものがある。……レイティはルーディの前では童心に戻るようだが、それは例外だ。


(何でもできるし、しっかりしてるし……御威無しの北の御子って言われてるけど、実際は天威師なわけで。やっぱり生まれながらの天才だったのかな)


 横目でちらちらと窺いながら、秀峰という人物に思いを馳せる。すると、急に視界が揺らいだ。


(え?)


 ぴゅい、と始まりの神器が小さく鳴いた。一貫して冷静さを保っていた秀峰が、はっとした顔になって軽く目を見開く。


 同時に、逆巻く波濤が風穴に吸い込まれるように、何かが勢いよく明香の中に入って来た。

ありがとうございました。

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