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39話 帝国の闇

 肉食エルフさんから逃げ出した夜、俺はタイセツに戻り、宿屋をそのままチェックアウトしに行って宿のご主人に驚かれた。

「食事には戻るって言って戻らないから心配してたんだ、何もなくてよかった」

何も無かったわけでは無かったので「あはは」と乾いた笑いを返して、トレドに戻った。北に直接行くというのは、考えもしなかった。目的はもちろんあそこである。


「今度は北に向かおうと思いまして、その準備です」

俺は、心のオアシス、森のイルカ亭に再び宿を取りに来ていた。かなり夜更けなので、部屋を貸してもらえるか心配していたのだが、片付けをしていたイルさんが快くチェックインさせてくれた。フローリアは、物音に起きてきたミルちゃんに大喜びで迎えられ、嬉しそうに一緒に寝に行ってしまった。ミルちゃんの部屋の方できゃいきゃい言ってるけど、寝れるのかね、あれは。まあ楽しそうだからいいかね。


「もう戻ってこられるなんて、何かあったんですか? もしかしてタイセツに入れなかったんですか?」

とルカさんにも心配された。まあ普通、となりの街に出かけて、半日で帰ってきたら途中で引き返してきたと思うよなあ。あんな濃厚な半日を過ごしてたなんて想像がつく人がいたらある意味怖い。俺はここでも「あはは」と笑ってごまかした。

「ユキさん、服変えられたんですね、よくお似合いです。でも……それ、エルフの人たちの衣装ですよね。彼ら以外で着てる人みたことないですから」


 今着ているのは、リスティにもらった緑のエルフの服だ。シンプルな緑色の半そでのワンピース。スカートの裾や袖周りなどに文様が描かれている。リスナ氏族の文様だったりするのかな、エルフの里でちらほら見かけた気がする。もしかしたらリスティが前に来てたものかも。胸元にシンパシーを感じる。なんて伝えたら怒りの波動が返って来た。


 リスティとの繋がりは、俺が力を得たらどういう仕組みかしらないけど、ある程度コントロールできるようになった。といってもこちらからイメージが伝わってしまうのを抑えたり、逆にリスティからもイメージが伝わるようになった感じ。回線が少し太くなって、オンオフできるようになった、って感じだろうか。今もプリプリと怒っている波動が伝わってきている、まあ氏族の巫女だし、いろいろやることあるだろうしね、そのうちまた逢いに行くよ。いつ、とは約束しないけどな!!。


 流石の俺も今日は疲れたので、ぐったりと眠ってしまった。翌朝、ミルちゃんとフローリアが起こしに来たがごはんいらないから寝かせて、と二度寝した。昨日連泊する旨は伝えてあったので、放置してもらえたようだ。

 あーよく寝たと起きてみたら、俺のベットにフローリアとミルちゃんが一緒に寝てた。多分夜遅くまで二人で遊んでて、眠たくなったんだろう。俺はミルちゃんとフローリアと三度寝にはいった。このベットを出るなんてとんでもない。ただちょっと体温が高くて寝苦しかったのをここに記しておく、幸せの暑さではあったが。


「お客さんのベットで一緒に寝るなんて、だめでしょ」

と俺の後ろに隠れるミルに、ルカさんは怒っていたが、にっこにこの俺に毒気を抜かれたようだ。またてててーとフローリアと共に逃げていくミルを見ながら、ルカさんがこぼす。

「あの子のあんな笑顔久しぶりに見ます。あんなに人族の人に懐くなんて信じられないくらいです」

 ミルの母、イルの妻であった同じく猫耳族のカナさんはミルを生んで直ぐに姿を消してしまった。「義姉はとても綺麗な猫族でしたから、攫われたのではないでしょうか……」

元は夫婦で営んでいた宿屋だったとかで、子供が出来てカナの手伝いとしてルカが猫族の里から呼ばれたのだとか。あー本当はイルとカナの宿屋だったのか。


「えっと、その猫族の里ってどちらにあるんですか」

と話をさえぎってすいませんが、これはゆずれません。アルカードの近く? ありがとうございます。俺は魂の行き先リストに刻んだ。


 子供も生まれ、宿屋も順調。そんな時にカナさんは食材の仕入れに行って帰らなかった。散々さがしたが、消息は掴めなかったらしい。

「ちょうどその頃、東のファシル帝国の貴族の視察団が街に滞在していました……」

東の帝国、クラウセン大平原より東の地を治めている人族至上主義の国とトールたちに聞いた。化け物と戦う為に強大な軍事力を持っているらしいが、その歪んだ思想はあまりよろしくないよなあ。一度様子を見ないとと思っていた。で、そのファシルの貴族がカナを攫ったのではないか、と。


「あの国は、我々猫族をはじめエルフなど人族と違うものを奴隷にしていますから……」

あの地に帝国が打ち立ったときに、その地から逃げ出そうとする獣人の人たちは多かったが、その国境にできた高い壁がそれを不可能としてしまったらしい。密出国は即罪人で、さらに酷い身分に落とされるのだとか。本当に歪んでるなあ。


 貴族、しかも他国の視察団相手では一般市民であるイルさんたちでは何もできなかった、クラウセン連盟に調査をお願いしたこともあった。しかし、証拠もなく、調査も帝国の都合で打ち切られたのだと。なので、イルさんはミルの為、そしてカナさんがいつ帰ってきてもいい様に、宿屋を続けているのだとか。本当なら愛した妻を捜しにいきたいだろうに……。

 イルたちが伝えなくとも、周りが話しているのを聞いてなんとなく自分の母が攫われたことをしってしまったミルは人間が怖いらしい。普段は家の奥に篭っているのだとか。それで初日にはみなかったのか。


 俺はフローリアをそのままミルちゃんと遊ばせておいて、外出した。とりあえず、再度旅したくだな、お金ももうちょっと余裕が欲しい。まず、何をどれくらいの値段で売っていいのかわからないから、この商業都市で市場調査だな。

 こっちの文化を壊す気はないし、その辺りはちょっと気をつけないといけないしな、俺の無節操な輸入で、仕事を失って不幸になる人がでるのはいただけない。コピー用紙はエルフたちは売ってないみたいだから心配いらんだろうけど。そして旅支度がすんだら、北の港湾都市ルートでアルカード行きかな。まだ見ぬパライソに俺は思いをはせた。

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