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38話 奔流、そして……

 俺は、状況把握に走るリスティら村の戦士たちと共に、エルフの里の西を目指した。エルフたちは森の中を飛ぶように駆けて行く。まずは状況を確認しなくてはならない。低い土地を見下ろせる高い丘の上に立ち、俺達はそのおぞましい光景を視認した。一塊となってこちらに整然と歩み来る蜘蛛の群だ。紡錘陣とでもいうのだろうか。まだよく見えないが、その集団の中心に、大きな個体も見えた。やはりボスがいるっぽいな。


「こんな事いままでに?」とリスティに聞いてみる。

「あの大蜘蛛は、森に何度か現れたこともあって警戒していた。1匹2匹ならば村の戦士たちが退治しておったが、あの様に数多く現れたことは今だかってなかった。しかもあれじゃな……」

「うん、明らかに里に向かってるよね……」大蜘蛛はまっすぐに里の方に向かっている、一塊になって。その行動には明らかな意思が感じられた。エルフの里を襲ったところで、彼らの腹を満たせるほどのものは無いだろう。それを考えるとあの悪意の先は、大樹かな?

 にしても、あんな一塊になったら広範囲に拡がる魔法とかで打撃を与えられそうだが。「我らの戦力が測られた結果じゃろう。一部は相手が出来よう、火魔法の使い手が少ないわらわたちでもな。しかし、あのような陣を相手とすれば踏み潰されるだけじゃ」と苦い顔で見つめる。

 フローリアのどーんどーんで全滅…できるかなあ。一撃目である程度倒せるかとは思うが、クモの子を散らすように、あの集団が分散することを考えたら、ぞっとした。あと問題はあの中心にいる大蜘蛛だろう。やつを倒せる算段も考えて置かなきゃだめだろうなあ。


 ちなみにこの森の西の先には深い断崖絶壁の渓谷があり、その向こう側がアセルス王国の土地になっている。渓谷はそのまま岸壁となり海に繋がっているらしい。彼らはそこから来たのだろうか?

この明確な悪意がどこから放たれた物なのか、気になるところだったが。今はそれどころじゃないか。対策を考えないと。地雷か、なんか爆発物でもセットして同時に打撃をあたえられればいいのだろうが。さすがに由香里ねーさんに「ダイナマイトかクレイモア買ってきて!」と言えるわけもなく。んー爆弾か……。木炭はともかく硝石や硫黄なんて直ぐには用意できない。由香里ねーさんにネットで調べてもらうにしても、配合とか考えると時間はもうアウトだろう。なら、あれで行けるかなあ、もっと物理とか勉強しておけばよかったな。


「決して、無理に仕掛けたりするでないぞ、おぬしらの仕事はあくまで情報の伝達じゃ」 

と、その場に数人見張りを残し、里に戻ることにした。猶予はあと数時間と行った所か。あの黒い群が森の西端に着いてしまえば、もうほぼ詰みになってしまうだろう。

 エルフたちからは里を捨てて逃げる、という選択肢は出てこなかった。敵の目的が大樹であると予測がついた以上、これは大樹を守るという使命を捨てることになる。それは命を賭しても為さねばならない使命なのだと。リスティについても、あの大樹で祈りつづける母を見捨てるなど出来るわけは無く、建てられぬ具体案に苛立ちを隠せなかった。せめて子供たちでも人間の町にと思ったが、子供が攫われそうになったという事実があり、それすらも出来ない。八方塞がりだ。


「あの大蜘蛛たちを倒すとして、森にどれくらいまでの被害が許容できる?」

と俺はリスティに聞いてみる。彼女はすこし苦そうな顔を浮かべたが、

「この際、被害の是非は問わん。最悪、大樹を守れればよい。あの木は我がリスナ氏族の宝ではあるが、それ以上に世界の宝でもあるのじゃ。失うわけにはいかん」ん、なら覚悟は決まった。

「じゃあ…私にひとつ考えがあります。森に入る瞬間を狙って一手打てると思います。みなさんの協力があれば」

会議に集まっていたエルフたちの目がその言葉に希望を持っていいのか、この小娘にどこまで出来るのか、不安を持っているようだ。まあ仕方ないよね、巫女エルフのリスティより小さい人間の小娘に……。

「信じよう、その言葉。我はこのユキを信じようと思う。皆の力を貸してくれ」とリスティが

皆に頭を下げると、エルフの戦士たちは皆立ち上がり協力を申し出てくれた。

「この里を守れるのであれば、腕の1本や2本は失っても構わない。我々は何をすればいい?」と有力な戦士の一人であるクローネさんがまっすぐ俺の目を見つめて聞いてくる。なので、

「……エルフの里、となりのタイセツにもかな? そこの水がめを大量に集めてください。できる限り」と答えると、皆の目に不安がよぎった。まあそうなるわね。


 もう時間が無いので、みなで分担作業だ。タイセツの兵も協力を申し出てきたが、町をまもっていてくれとお断りした。最悪エルフなみの移動力がないと逃げられないし、危険だ。

水がめを森の入り口や西側の平原に並べていく部隊、水がめに水魔法で水を満たす部隊。フタがない水がめに木ブタを作る部隊などなど。そして俺は鍛冶屋に篭っていた。

「ガンガン熱してください、限界まで」俺は、鉄を溶かしていた、普段の作業員だけでなく、火魔法の使えるエルフさんを大量投入。風魔法を使えるエルフさんに風を対流してもらっても、ひどい熱気だ。ひさびさに俺も汗だくだく。流石にここまで平常じゃない温度だと俺の体も自衛を始める様だ。マジでフロ入りたい……。 

 ドロドロに溶けた超高温の溶けた鉄。蒸発はまだしないが、ここまで熱したのは始めてだ、と匠エルフさんが言っている。ここに垂らしてください。と土に彫った穴に流し込んでもらう。それをすかさず手で拾って背負いかごに放り込む。俺の無造作に燃えた鉄をもった姿に驚いて「キャッ」と悲鳴をあげかける風魔法使いのエルフさん。大丈夫、燃えてませんよ?。俺が続けてください、と声を出すとまた作業に戻った。そうそう悩んだり、驚いてるヒマないんだよ。


 溶けた鉄を必要量くらい用意したら、俺は前線に向かう。あと小一時間もすればあの丘のさきくらいから蜘蛛た現れてしまうだろう。俺は土に半分埋められたり、そのまま置かれている水に満たされた水ガメにぽいぽいと用意した鉄を放り込んでいく。鉄を投げ込んだカメに後ろについている工作隊がフタを乗せてニカワで封をしていく。それを確認したら俺はカメに時間停止を掛ける。掛けるのはカメと接着されたフタね。そして中に入れた鉄の時間停止を解く。これでひとつ完了と。いろいろ停止してるので頭の中がパンクしそうだが間違えないように順々に作業を進めていく。手順を誤ったら俺も吹っ飛ぶし。 

 さて俺の用意した蜘蛛に対する防衛網が完成した。フローリアにも、倒し損ねた蜘蛛はどーん頼むと準備万端だ。リスティやエルフの兵たちと共に丘の上でその時を待つ。俺も念のためにとエルフの鉄剣を貸してもらった。そして奴らが現れた。彼らは予想された進路をそのまま進行してくる。彼らが予定したエリアに侵入した。先行しているクモが転がっている水ガメをつついたりしていたが、危険なモノだと判断できなかったようだ。まあ匂いもしないし、仕方ないだろうね。そして俺は全てのカメの時間停止を解除した。


 逃げ場の無い超硬度の高い圧力鍋の中で熱せられていた水が爆発した。あ、やばい、これ。

「伏せて、耳をふさいで、口は開けて!!」エルフたちは俺の言葉に直ぐ従ってくれた、そして爆音と共に衝撃波が吹き抜けていった。耳を塞いでいてもキーンと耳鳴りがしてる、危なかった。鼓膜やらいろいろやられる所だった。そして眼前の光景に目を向けた。

「うぁ……」

「凄いの……ここまでとは思わなんだわ」

クモたちは、爆風と、超高温のスチームに焼かれてもはや動くものはいなかった。付近の木々は倒れ、大地も吹き飛び、大きくえぐれている。

 物理干渉を切ったカメの中で、溶けた鉄によって発生した水蒸気は逃げ場を求めて走り回ったのだろう。内包する熱量すら変動することなく。あ、ここまで考えたら、この惨状が理解できた。自然災害や事故の水蒸気爆発は知っていたが、完全にエネルギーを封じ込めたこれは一線を画するものだった。誰からかとも無く、笑い声が上がった。勝利というには凄惨な光景すぎて笑うしかなかった。みなドロだらけで笑った。

 そして、俺は一体の大蜘蛛に近づいた、大蜘蛛の上には女性だったらしき半身があった。らしき、というのはもう見る影もなく焼け爛れていたから。

「ごめんな、戦いにすらならなかったな。来世は善の側にきてくれよな……」

おれは彼女の胸の間に剣を突き刺した。剣に触れた魔石からマナを吸い上げ。戦いは終わった。


 エルフの里はお祭り騒ぎとなった。宴が催され、さまざまな料理を楽しみながら、皆この日を生き延びたことを感謝した。俺ももみくちゃにされてしまった。汗とドロにまみれてボロボロだというのに。

 苦笑してる俺に、リスティが自分にエルフの服をくれるというので、喜んでいただくことにした。まあ、そのスカートの短さを見て、喜んだのをちょっと後悔したが。ジュリエッタのトコでかりたドレスはどうしようかねえ、由香里ねーさんに洗濯…と思ったけど、ワイヤーとかは入ってないとはいえドレスはポケット通らんな。しばらくバックに放り込んでおくか。

 皆からちょっと離れた小川で汗と汚れを流していく。あーそろそろ、ここからも移動するかね。もう間違いなく勇者みたいな扱いだし、フローリアの件も判ったし、ここも大丈夫だろう。あの森のダメージも、大蜘蛛たちの魔石を地に還せば、早く元にもどるだろうって言ってたしな。

「出て行くのか?」木の陰からリスティが現れた。

「うん、いろいろ知りたかったことも判ったし、まだすることもあるしね」

「しかし、その体でよくわらわの事を平坦だとかいってくれたの」と俺の上半身をみて笑う。

あ、今スリップしか着てねえ、おぱんつは履いてるし大丈夫……。ってリスティの視線が一点に注がれている。

「お主、それはなんじゃ?」視線の先には、Oh……マイサン、ナゼゲンキニナテルデスカ。いや、多分あの蜘蛛子さんの魔石吸収だろう。あんなにもりもり入ってくるとは思わなかった……。

「えっと、しっぽ?」

「そんな前に生える尻尾があるか!!」

「さっき水に入ったときに魚が入ったのかも?」

「ほう、ならわらわに見せてみよ」


……天国のお母さん、ボクはお嫁さんにいけない体にされてしまいました。

「なにを人聞きの悪い事を思っているか、ちょっと触っただけではないか。むしろわらわがびっくりしたわ、あんな悲鳴をあげよって。まあよい、お主がお嫁さんにいかなくてもよかろう。わらわが嫁になるのじゃからな。お主も人が悪いの、まさかこんなコトを隠しているなんて思いもよらなんだ。まあわらわは趣味とかには寛容じゃぞ? ムコ殿」まさに満面の笑みのリスティ。しかし俺には肉食獣の笑みに見えた。


 俺はほぼ裸のまま、荷物と服を抱えて逃げだした。フローリアもさんざん皆に可愛がられて、もうお腹いっぱいでハウスで寝てるから問題ない。

「新妻から逃げるとはなにごとじゃー」と叫びが聞こえるけど、まだ祝言も挙げてないしノーカンすぎるだろ。リスティは可愛いとは思うんだけど、結婚とかはまだ考えられないです。俺はひさびさに全力で走って逃げた。自由に向かって。

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