おまけ。バレンタインのその後。
先生サマが迷宮を旅している間に、一応プレゼントっぽくリボンをかけた額を取ってきた。
絵自体はおよそA5サイズのささやかなものだけど、額に入れるとちょっとした大きさだ。
思考に耽っている先生は大抵目の前の物も見えていないので、サプライズもなにもなく、堂々とテーブルに置いた。
カフェモカを飲み終えても先生サマは帰ってこない。このまま帰還を待つのも手持ち無沙汰なもので、とりあえずスケッチブックを広げて落書きを始めた。
なにを書こうか。
バレンタインが過ぎると次のイベントは。
うん。ひな祭りだな。
シャカシャカと鉛筆を走らせて、十二単のお姫様だ。
着物はどんな柄がいいかなー……。
書いては消し、書いては消し。
どうにも着物が納得いかない。何か参考になる資料はないだろうかと顔を上げると、先生サマがこっちをじっと見ていた。
「あ、おかえりなさい」
「はい。あなたも」
他の人が見たら、お互い変な挨拶だ。でも悲しいかなあたしは慣れてしまいましたよ、このペースに。
「ところで、この絵は」
「あ、ハッピーバレンタイン、です。お世話になってる家主サマにも感sy…っ」
……なんでこーなる?
先生サマのペースには慣れたと思っていたけど、イキナリ口を塞がれるのは予想外です。
「……っん……んん?」
ちょっとマテ? なんでこんなディープな……?
「すみません。とても嬉しかったもので」
先生サマがやっと口を解放してくれた。
嬉しい、と言いながら、いつもの逝け面がなにやらいつも以上のオーラを放出している。
どーして。今そういう流れだったっけ? え? そもそも先生、嬉しいとキスする人?
「あ、えと、その。絵、気に入っていただけたでしょうか」
「はい。あなたの気持ちが、とても嬉しい」
? 気持ち? 感謝の気持ちがですか?
そんなに感激されるほどだろうか。殺風景な書斎に彩りをって気遣いのつもりだ。
もしかしてあたしが感謝や気遣いを見せるのが珍しいとか!?
「あ、あたしだって、普段から言葉にはしなくても、ちゃんと先生に」
っっっ!!!
あたし今なんか地雷踏んだ!? 先生サマの空気がおっそろしーまでにガラッと変わったんですけど!!
「……あなたという人は……」
な、ななな、なんでっ? ナニゴト!? ほわっつはぷん!?
え、あれっ………あれれっ!?!
この後は、まあ、その、ごにょごにょ……。
素敵な感想頂いたので、先生暴走スイッチが。